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延年之會 第参回「コンメディア合戦!! イタリア仮面劇 vs 狂言」

和泉流狂言師・小笠原匡さんが主催する、延年之會 第参回「コンメディア合戦!! イタリア仮面劇 vs 狂言」を拝見しました。

イタリアで16世紀に発祥した伝統的仮面劇であるコンメディア・デッラルテはヨーロッパでの商業的な演劇の起源だそうです。

シェークスピアやモリエール、セルバンテスなどのヨーロッパの名だたる劇作家たちがコンメディア・デッラルテの影響を受けて創作したというのですから驚きです!

狂言と共通するところは、どちらも仮面を使用するところ、また、喜劇であること。

使う仮面によって役柄や性格が決まったり、お金に執着する父親や主人を恐れる召使いなど「お約束的なキャラクター」が出てくるところ、「お約束的なストーリー設定」が存在するところなどは、狂言によく似ています。

一方、狂言と異なる特徴としては、台本はなく粗筋だけが決まっていてあとは即興であること、風刺性が何よりも際立っていること、女性の役者が登場することなど。

綺麗な女優さんの顔が見えないのはもったいないので、女優は面をかけないんですって。女優を起用してから観客も増えたそうな^^*

狂言と違って、性格の良い人は出てこないんだそうです。だから母親は登場しないんですって。さすが、お母さんを大切にするお国柄ならではですね。マンマミーア!

さて、今回の上演では、狂言とのコラボがどのような形で提供されるのか、始まる前から興味津々!o(^-^)o

前半は、古典的な狂言の演目と典型的なイタリア仮面劇の名場面をそれぞれの役者により一番ずつ上演。

そして後半は、前半に上演した古典狂言を翻案したイタリア仮面劇が上演されました。

観る前はイタリア語のお芝居が理解できるか心配でしたが、日本人の役者さんが日本語のセリフを途中で入れたり、イタリア語だけでなく、英語セリフも混ざっていたので、全然大丈夫でした!

また設定がわかりやすく、台詞回しや動きも大袈裟で面白いので、言葉がわからなくてもとっても楽しめました。現代のコントにも相通じる感覚で馴染みやすく、ボケツッコミ、ノリツッコミのような、関西芸的な一面も(笑)。

狂言の演目の翻案作品は、題材の狂言を観た後だったので、特に理解しやすく面白くて大笑いしちゃいました♪
狂言の「附子」が「ウラン」になって防護服を着ちゃったりして、現代的な風刺が入っていてなかなかブラックでしたね~。

鏡板に近づきすぎたイタリア人役者さんに小笠原さんが「あんまり近づかないで、怒られるから!(^_^;」とかアドリブで言ってて笑っちゃいました(笑)。
役者が観客席から登場したり、キザハシ(能舞台の正面にある階段)を昇り降りしたり、普段の能狂言の舞台ではありえない演出もたくさんありました。

正直、能舞台でここまでやっちゃってもいいの??という演技もかなり多かったですが、そのハチャメチャ感は決して嫌いじゃないです(笑)

この企画は今回が初めてなのかなと思ってましたが、大阪では以前から上演していたそうで、東京は初お目見えだそうです。

大阪と東京では能楽堂の対応や観客の反応も違うため演出などは変えた部分もあるとお聞きしました。即興の舞台芸術においては当然なことなのかもしれないですが、ご苦労なことも多かったと思います。本当にお疲れ様でした~。

古典狂言の方には東京公演のみ野村万蔵さんが特別出演、やはり華があり舞台が引き締まりますね^^*

イタリア人役者のアンジェロ・クロッティさん、アンドレア・ブルネェラさんはイタリアのみならずヨーロッパ各地でご活躍の俳優さんだそうです。少しお話させていただきましたが、とても楽しくてチャーミングなお二方でした♪

これまで狂言師としてしか拝見していなかった小笠原さんの今回の舞台役者っぷりはとても堂に入っていて、つくづく多才な方だなぁ~と感服いたしました。

女優のTAKAKOさん、これまで能楽堂のロビーでおしとやかな和服姿はよくお見かけしていたのですが、今回初めて舞台上でのご活躍を拝見することができ、いきいきとしたコメディエンヌぶりがとても素敵でした♡

若い神宮一樹さん、とても上手なのでてっきり本職の役者さんだと思っていましたら、ご本人にお伺いしたら小笠原さんの狂言のお弟子さんだそうで、イタリア留学時のご縁でこの演劇に出会い舞台に参加する運びとなったそうです。これからもぜひ頑張って続けてほしい!

おかげさまで楽しい時間を過ごしました。小笠原匡さんは次回はどのような驚きを我々に提供してくださるのでしょうか!?とても楽しみです!\(^O^)/

谷中で文楽~桐竹勘十郎×アラン・ウエスト(後編)

前回のお話 ⇒ 谷中で文楽~桐竹勘十郎×アラン・ウエスト(前編)

さて、左遣いの吉田簑紫郎さんと足遣いの桐竹勘次郎さんがご登場なさって、三人遣いについての解説です。通常、主遣いは、中腰の足遣いが楽な姿勢で動けるように高さのある舞台下駄を履きますが、今回は会場の都合上履きません。また、通常の舞台と違って手摺り(人形遣いの腰から下を隠すようになっている仕切り)が無いので、足遣いの全身が見えています。普段見られない光景です。かなり辛そうな体勢で遣っていました。若くても腰や膝を痛める人が多いというのも頷けます。足遣いの修行は10~15年だそうです。うーーん、大変ですね・・・(*_*) 左遣いと足遣いは普段は黒衣姿で頭巾を被っていますが、今回は男前のお顔を拝見できました。簑紫郎さんと勘次郎さんが何となく似てらしてご兄弟のよう(*^_^*)

三人でどのように息を合わせるかというと、主遣いが合図を出しています。もちろん舞台上で声を出すわけにはいきません。足遣いに対しては、主遣いの腰が足遣いの右腕に当たるような位置で密着し、主遣いの腰の微妙な動きから足遣いは次の動作を察することができるそうです。左遣いは主遣いから少し離れていますので、体に触れての指示はできません。左遣いは人形の頭後方から肩にかけての辺りを常に見ていて、その動きで合図を理解し次の動作に入れるのだそうです。それゆえ左遣いは絶対に人形から目を離せません。このような合図が決まっているからこそ、リハーサルをしなくても、また一緒に遣う相手が変わったとしても、同じように息の合った動作ができるのです。能のお囃子や舞にも合図的なものがあり、共演者が都度変わってもリハ無しぶっつけ本番で合わせられると聞きました。伝統芸能のルールって意外と綿密にできているのですね~~。

人形解説が終わり、休憩を挟んで「艶容女舞衣(はですがたおんなまいぎぬ)酒屋の段」の実演です。床には浄瑠璃語り・豊竹芳穂大夫さん、三味線・鶴澤清馗さん、私も大好きな若手実力派のお二人がご登場なさいました。
太夫の語りと三味線の演奏が始まってしばらくして、下手側から勘十郎さん始め三人遣いによる女形の人形が楚楚と歩みを進め中央に出てお園のクドキの部分を演じます。至近距離で観る人形と床の大迫力、人形の表情や動きがつぶさに見え、床の語りと演奏の振動まで伝わってくるようでお芝居への感情移入が促進されます。ただでさえ泣けるシーンですが、こりゃまたいつも以上に泣けますなぁ。・゚・(ノД`)・゚・。

これまで人形遣いご本人のお顔は人形を引き立てるためにあえて無表情にしているというイメージを抱いていました。無表情が板に付くほどプロとして一流という気もしていたので、勘十郎さんの無表情は一流の証とも思っていたのですが、今回近くで改めて拝見しましたら、全く無表情でなんかなかったんですよね。むしろお優しい表情をなさっているんです。健気で可哀相なお園を愛おしむような柔らかな表情で…。立役の場合は勇ましい表情になったりもするのでしょう。かといって見てすぐわかるほどオーバーな表情ではないんです。近くに寄らないとわからないほど微妙な違いなのです。その辺の絶妙さ加減が技芸の力量差として表れるところなのかもしれません。

それにしても勘十郎さんのトークは本当に楽しかったです。豊富なエピソードの紹介やユーモアのセンスが秀逸でした。文楽の技芸員さん特に人形遣いさんは舞台上では無言なので、おしゃべりをたくさんなさるイメージを抱きにくいです。しかし実際に解説などをなさるとお話し上手な方が多いです。しかも勘十郎さんクラスになると、たぶんどっしり構えて多くは語らずなのだろうな~とか勝手な妄想で決めつけてましたが、いやいやなかなどうして、面白いことしゃべるしゃべる(笑) 解説の間じゅう、会場には和やかな笑いが絶えませんでした。しかも、今では誰もが認める実力者であるにも関わらず、話す内容は若い頃の苦労話などが中心で、若手の頃の気持ちを今でも忘れずにいる謙虚さがにじみ出ていましたし、自分にもこういう時代があったのだと後輩や弟子に送る応援メッセージのようでもありました。
また、観客の私たちに対しても丁寧にご挨拶なさって気軽にお声をかけてくださったり、気さくで温かな方なのだな~と思いますますファンになってしまいました(*^_^*)

この催しで一つだけ残念だったのは、勘十郎さんの解説の最中に観客の皆様の写真撮影があまりに頻繁であったことです。撮影自体は許可とも禁止とも言われず容認されている雰囲気でしたが、シャッター音(特に携帯・スマホの電子音)がひっきりなしに響いてうるさく解説が聞こえづらくて気になりました。また後ろから照明が当たっていたため、前の人のスマホやタブレットの画面に光が反射してまぶしく鑑賞の妨げになってしまいました。お客さん的には他の人が撮っていれば我も我もとなるでしょうから、あらかじめ主催者様側より撮影してもよいタイミングを限定していただければありがたく思います。なお、実演の前に撮影を控えるよう観客へのアナウンスがありましたので、それ以降は静かに安心して観ることができました。

そのただ一点を除けばたいへん質の高い素晴らしい催しであったと思います。下町のお寺の良い雰囲気の中で鑑賞する一流のプロによる文楽、初心者にも昔からのファンにも楽しめる解説、実り多い贅沢な時間でした。これを観て文楽を観に行きたいと思われた方とても多いのではないでしょうか。しかし東京12月公演は既に完売だそうです。チケットお求めでない方は次の2月公演にはぜひ。主催者様やスタッフの皆さんの対応も親切で心地良かったです。今後もどうかまたこのような企画を催してくださいませ。大いに期待しております!

<公演メモ>
人形遣い 桐竹勘十郎 × 日本画家 アラン・ウエスト
「谷中で文楽」

2014年12月1日(月)19時~
於:正栄山 妙行寺

・解説「文楽って楽しい」  お話 桐竹勘十郎
・実演「艶容女舞衣 酒屋の段 お園のクドキより」
太夫  豊竹 芳穂大夫
三味線 鶴澤 清馗
人形  桐竹 勘十郎、吉田 簑紫郎、桐竹 勘次郎

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お寺の門も風情があります。
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仏様に見守られながら心穏やかに文楽鑑賞。
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太夫と三味線の床です。開演前ですが障子に映る人影がイイ感じ♪

写真撮影:飯塚和恵さま
※主催者様および撮影者様より写真の使用ならびに掲載許可を頂いております。

谷中で文楽~桐竹勘十郎×アラン・ウエスト(前編)

下町情緒にあふれる台東区谷中にある正栄山・妙行寺で催された
人形遣い 桐竹勘十郎 × 日本画家 アラン・ウエスト「谷中で文楽」
以前から様々な伝統芸能について日本画家アラン・ウエストさんのアトリエ繪処で行われているレクチャー&実演シリーズですが、今回は今をときめく文楽人形遣いの大スター桐竹勘十郎さんご出演ということで、噂が流れるやいなやチケット予約殺到か?という勢い、急遽もう少し広い会場でということになり、このお寺の本堂をお借りする運びとなったのだそうです。

御本尊様がお見守りになる本堂の板の間の部分にアランさんによって見事な日本画が描かれた屏風が立てられ、右側には義太夫のための床が設置され見台が置かれています。およそ百名の観客で座布団席と椅子席がほぼ満席となり熱気むんむんです。しかも普段文楽を観るよりはかなり間近に舞台を観られる距離の近さでこれはかなり贅沢な空間です。

午後7時開演。勘十郎さんがまずはお一人で紋付き袴姿でご登場。丁寧なご挨拶の後、最初に右の懐から二つの目玉のおもちゃを出します。これを指にはめて簡単な指人形を使って動かしました。次に左の懐から棒遣い人形を出します。泥棒の人形です。ここで勘十郎さんは棒を使って人形を動かして見せるのですが、おもちゃの人形が辺りをうかがったり身を潜めたり本物の泥棒そっくりの表情と動きにw(゚o゚)w さすが勘十郎さん、どんな人形でも上手に遣ってしまうのですね!

最初から文楽の人形が出てくるものと思っていましたから、他の人形を使って話し始めたのには意表を突かれました。取っつきやすい話の導入にお客さんもぐいぐい引き込まれています。つかみはOKという感じですねー。ちなみにこれらの人形は勘十郎さんご自身が博物館や劇場の売店で見かけてお買い求めになったものだそうです。根っからのお人形好きなのですね(笑)

次に人形の構造についての説明です。まず人形の胴について。まだ手足も頭も着物も付いていない胴は、肩板に布を垂らした簡単なものです。胴は人形遣い自身の持ち物だそうで布の部分に「桐竹勘十郎」と名前が書かれています。肩板の部分には性別や役柄に応じて幅や厚みを出すために乾燥したへちまを重ねづけしているそうです。

胴の部分に衣装を着付けていくのは人形遣いの仕事です。これを人形拵(ごしら)えといいます。胴に、綿の入った棒襟、中襟をつけ、その上に着物を着け、帯を着け、小物をつけ、手足を吊ります。最後に肩板の穴から頭の部分を差します。着付けは太くて長い布団針を使い糸で縫い付けていきます。素材が固いために縫い針が何本も折れてしまう場合もあるそうです。人形の役割によって縫い付け方も異なります。例えば遊女は襟を低く襟元が大きく開くようにつけるというように。逆に言うと襟をどう縫い付けたかによっておのずと役割が決まってしまうのです。間違えた付け方をしてしまうと台無しです。

どのように縫い付けるべきか具体的に教わることは無いそうです。師匠や先輩方の縫い付け方を見て技術を盗むわけです。また、千秋楽に人形をバラすのは足遣いの役割で、バラしながらどのような縫い付け方になっているかを見て勉強するのだそうです。若い頃に端役の人形の役を与えられると楽屋の隅っこでせっせと人形ごしらえをします。舞台や稽古、師匠のお世話や様々な雑用をこなさなければならない忙しい合間に少しずつ縫い付けていきます。せっかく苦労して途中まで縫い付けてあったものが、用事を済ませて楽屋に戻ってきたら全てバラされていて「ハイ、やり直し!」って言われたりする。しかし何処が悪かったのかは全く教えてもらえない、という涙目になりそうなお話も(T_T) 師匠や先輩のやり方をしっかり見て自分で試行錯誤しながら習得していくしかないわけです。芸の修行って本当に厳しいですね~~!

次に人形の頸から上、頭の部分の説明。首と書いて「かしら」と読みます。かしらの素材は檜の木です。樹齢六十年以上の太さの木を縦に四等分したものを彫って作られます。胴串(どぐし)という人形遣いが握る軸の部分は檜の最も堅い箇所から作られています。顔の表面には和紙を貼り、胡粉(ごふん)と呼ばれる貝殻を細かく砕いた粉を塗ります。能面などと異なり、人形の顔は公演ごとに塗り直されます。長い興行期間の内に汚れていくからだとか。塗り直しはいちいち前のを剥がすことなく重ね塗りされるそうです。そのため徐々に面相が変わっていきますが、水に湿らせた布を巻いておくと、最初に貼った和紙からぺろりんときれいに剥がれるのだとか。

主遣い(=三人遣いのうちメインで遣う人)は胴串を左手で握ります。小指と薬指だけでしっかり握り、他の三本の指は自由に動かして人形の頭の動きや顔の表情をコントロールします。例えば頭を傾けたり目や眉や口を動かすためのしかけが胴串にはついています。頭の内部にはバネの役割をする鯨のヒゲが仕込まれています。バネによって髪を結って重くなった頭を支えたり、仕掛けで動かしたパーツを元に戻したりと言うことができるわけです。
目や眉、口を動かして笑ったり怒ったり泣いたりという様々な表情を演じ分けますが、単に個々のパーツを動かすだけでは自然な表情にならず、体の他の部分や体全体を大きく動かすことによって豊かな表情を生み出します。と同時に、人形の顔までは良く見えない後方のお客さんにも表情が伝わるわけですね!

さて、このあと若手技芸員さんも登場します。続きは次回に・・・。

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アラン・ウエストさん作の美しい屏風画。こちらを背景に人形が遣われました。なんとも幻想的…(○´ェ`○)
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妙行寺の外観。お庭も手入れが行き届いていてキレイです~(*´▽`*)
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谷中の路地。左端にアランさんのアトリエがちょこっと見えます。

写真撮影:飯塚和恵さま
※主催者様および撮影者様より写真の掲載許可を頂いております。

「観〇光」鎌倉セミナー対論会

北鎌倉の浄智寺で行われた、「観〇光」鎌倉セミナー対論会に行って参りました。

(第1部) 対論会(ついろんかい)テーマ「芸術の原点を語る」

第1部は著名な建築学者と浄智寺ご住職による対論会。「芸術の原点を語る」という興味深いテーマでした。偉い先生のお話は私にはちょっと難しかった。大学の授業を聞いている感じ。途中で少し気が遠くなってしまいました(^_^;)
しかし、ご住職が語られた「鎌倉は世界遺産に認定されなかったが、我々が日本の文化に誇りを持ちそれを発展させていくことができればそれでよい。日本には国宝という制度もある」というお言葉には全く同感でした。世界遺産認定を「外部の人間が決める美人コンテストのようなもの」と例えられていたのは言い得て妙で思わず膝を打ちました。また、現実問題として世界遺産に認定された場合に生じるであろう様々な問題に対して住民にも葛藤があり、住民の理解を得られるためにはまだ行政の対応が不十分ということも語られていました。

(第2部)「観〇光展」出展作家有志による小作品と制作道具の展示、制作舞台裏の話

第2部は参加型のセミナーで楽しかったです♪ 作家さんの小作品と制作道具を間近で見せて頂き、作家さんご自身から作品と道具の説明をしていただきました。

ご出演は、彫刻/大隅秀雄さん、木彫/加藤巍山さん、表装/麻殖生素子さん、絵画/中堀慎治さん。それに、観〇光の発起人である故・瓜南直子さんの作品展示。

普段見ることのない制作道具の秘話がなかなか面白かったです。特に印象に残ったのは、最近は道具を製作する職人さんが激減かつ高齢化していて、また効率化を優先して工程を省くなどの原因で品質も昔より低下しているというお話。
表装の麻殖生素子さん曰く、和紙を漉く業者が気がついたら次々と廃業していたり、屏風の木枠を作る職人さんで一番若い人が70代とか…。
絵画の中堀慎治さんが語られた、納得のいく筆を作ってくださる職人さんが既に亡くなってしまった、職人さんがご健在な間に自分が死ぬまでに必要な筆を買いだめておいた、という逸話は、驚きと共に伝統を継いでいくことの難しさをひしひしと感じさせられるお話でした。

個人的には彫刻の大隅秀雄さんのわずかな風でゆらゆらと動く機械じかけの作品が好みです。金属が素材なんですが、天秤で重さを測り絶妙なバランスを保つようよく計算されています。バイクのパーツを使っていたりして見た目にも楽しい作品が多いですね。

木彫の加藤巍山さんは仏像などの制作をなさっていますが、仏師というとノミをカーンと打ちこんで激しいイメージがあるんですが(ドラマなどでのあくまでイメージです。笑)物腰が柔らかで穏やかそうな方。刃は職人さんにオーダーするが柄の部分は自分に体に合うよう自作するとか(これは以前に能面打ちの方も同じことをおっしゃっていました)、ノミを打つゲンノウは一般的な木製を使うより金属製を使う方が少ない力で済むとか、へぇ~。

他にもいろいろと興味深いお話がたくさんありました。作品制作の裏話などをお聞きしたことで、作品自体を観る目も変わってきそうな気がします。

「観〇光」の本展示会は来年行われるとのことです。楽しみにいたしましょう♪
観〇光 ART EXPO
http://kanhikari.com/

以下、お寺と制作道具の写真を掲載します。作家さんのプロフィールと作品については上記のウエブサイトを見てくださいね。

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浄智寺に入ります~。

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彫刻/大隅秀雄さんの制作道具、パーツ。
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天秤で重量を測る。一分の狂いも許されないのだ。

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表装/麻殖生素子さんの制作材料。素材は和紙。高価な和紙を使っているそう。

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屏風の模型。ちょうつがいが和紙で作られているため、すき間ができない。
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木彫/加藤巍山さんの制作道具。ノミ、彫刻刀、ゲンノウ。柄の部分は自分の体にフィットしたものを自作。
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絵画/中堀慎治さんの制作道具。 膠に鯉の浮き袋を使用。料理屋さんで処分されるものを乾燥させて作る。

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金箔。100%の金箔は作れない。金のみだと結合が弱いため。純度が低いほど銀の含有量が高いので酸化しやすくなる。そのため作品には酸化止めを施す。
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筆は全て同じ型の筆を使用。穂先は狸の腹の冬毛を使用。制作には穂先のみを使用するため一つの作品を制作するのにある程度の本数は必要。
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自分に合った筆を製作している職人さんは既にお亡くなりになったとのこと。これは買いだめした最後のロット。
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浄智寺のお庭も素敵です。

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建物の内側からしか撮影しませんでしたが、茅葺き屋根なのです。