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古今狂言会

本日は野村万蔵さん・南原清隆さんの「古今狂言会」を拝見しました\(^O^)/

お二人が十年間取り組まれていた現代狂言シリーズから生まれた新しい形の公演の東京初お目見え。プロの狂言師である万蔵さん、万之丞さんと共に、南原さん(ナンチャン)を筆頭とするタレントさん・役者さんたちが古典や新作の狂言を演じられました。

一緒に観た友人が「タレントさんも上手だったけど、本物の狂言師さんは歩き方や発声が全然違うねー」と申しておりました。彼女は狂言は数えるほどしか観たことがないのに、おぬしなかなか見る目があるな!と感心しました(笑)

今回特に楽しみにしていた、ナンチャン作の新作狂言「AI」(エーアイ)は、ナンチャンが仕事をサボりたがる太郎冠者、万蔵さんが人間型お掃除ロボットという配役。

万蔵さん扮するAI(人工知能)お掃除ロボットが、セリフも動きも可愛らしくてめっちゃ微笑ましかったです(*^o^*)。発声もセリフもあまり狂言っぽさを感じさせなくそれがかえって新鮮でした。

また、お掃除ロボットには体力的にハードであろう動きが多く、かなりお身体をはっておられました(^◇^;) 冒頭に茸(くさびら)みたいなキノコ歩き(しゃがんだまま素速く歩く)にて登場したので、友人は「何かに乗って移動してきたのかと思った!」とビックリしていました。

ナンチャンも十年間、現代狂言で修行(?)しただけあって、堂に入った太郎冠者ぶりでとてもお上手でした(^o^)

「AI」はもう最初から最後まで面白くて笑い通しだったんですが、現代社会への風刺・未来への暗示も感じられました。何かの番組で、あるAIを設計した技術者が、プログラミングした自分自身でさえもこのAIが今後どういう行動をするのかもはや予測不可能になっている、と言っていたのを思い出しました。怖いですね〜(^_^;)

古典狂言の「口真似」「六地蔵」にも遊び心のあるアレンジがあり、最後は普段の狂言公演では行わないカーテンコールもありました。お客さんの誰もが笑顔でした。たくさん笑って楽しい会でした。また行きたい!

萬狂言新春特別公演 野村萬 米寿記念

萬狂言新春特別公演 野村萬さまの米寿記念公演を拝見して参りました。
今回は萬さまの記念の会ということで、当然ながら萬さまの三番叟が核ではありましたが、もう一つの特徴としては全体を通じて「演出」にこだわった内容になっており、たいへん興味深く鑑賞いたしました。

三番叟〈式一番之伝〉

お正月などに上演されるいわゆる「翁」は正式には「式三番」という名称です。演劇ではなく祭礼として行われる儀式的演目で、もともとは「父ノ尉」「白式尉(翁)」「黒式尉(三番叟)」の三番立てであったため、式三番と呼ばれていましたが、じきに、父ノ尉が省略され、現在ではシテ方が演じる「翁」と狂言方が演じる「三番叟」の二つのみが残った形で上演されています。

今回はさらに翁が省略された、三番叟のみの演出でした。しかしながら、三番叟のみ抜き出したというものではなく、一番のみで儀式として完成されたものに作られていました。

三番叟を演じる萬さまが真っ白な装束をお召しになり、正面に向かって拝礼後「どうどうたらり〜」と謡い始め、その後に千歳の舞、三番叟と続き、一見すると翁と三番叟のミックスのようでしたが、これは通常であれば翁の役が演じる太夫(司祭役)を、この演出では三番叟の役が演じるという位置づけだそうです。ちなみに地謡も全て狂言方が勤めました。

珍しい演出はもちろんですが、やはり88歳になる萬さまが三番叟という動きの激しい役を演じるというところに興味が注がれます。昨年4月に開場した銀座の観世能楽堂でのこけら落とし公演でも、本来であれば人間国宝の萬さまが三番叟を踏まれるのが最も望まれるであろうところを、ご高齢という理由で息子の万蔵さんにお譲りになられており、最近では萬さまの三番叟を拝見する機会はなくなっていました。ですから、今回米寿の節目に萬さまの三番叟を拝見できたことは、我々ファンにとってもたいへん喜ばしいことでした。

激しく動いた後は多少呼吸が荒くなることもありましたが、足腰はいまだしっかりしたもので、まだまだ力強さと迫力にあふれていました。全身全霊をこめた舞が身体的な年齢をさほど感じさせないほど我々を圧倒する一方で、年齢を重ねることにより生み出される気品や神々しさが際立っていました。

千歳はお孫さんの万之丞さんがお勤めになりました。萬さまの円熟の芸に対して若々しく颯爽とした万之丞さんの舞を拝見していると、親から子そして孫へ脈々と芸の継承が行われてきたことを感じることができました。

元日の語

これは和泉流にしかない語りだそうです。萬さまのお孫さんである、拳之介くん、眞之介くんのお二人により晴れやかに語られました。天子の長寿の慶びを表す語りは、萬さまの長寿御祝いにふさわしい内容で祝賀ムードに華を添えました。

蝸牛〈替之型〉

これはよく上演される演目で、太郎冠者が主人に命じられてカタツムリを捕りに行くのですが、カタツムリを見たことがない太郎冠者は籔で一休みしている山伏がカタツムリではないかと問いかけたところ、山伏は自分こそが確かにカタツムリであると太郎冠者に信じ込ませてからかいます。「でんでんむーしむし」と言って囃すフレーズとリズムがとても愉快で何度観ても楽しいお話です。

今回は野村又三郎家に伝わる演出〈替之型〉で、主人と太郎冠者の設定が兄と弟になっていました。シテの山伏は野村又三郎さん、カタツムリを探しに行く弟の役はまだ中学生の奥津健一郎くんが勤めました。

特に子どもが演じるという演目ではないので、たまたま子どもに配役したんだな〜とぼんやりと思っていましたら、驚きの展開が!でんでんむーしむし、と囃す場面で、なんと又三郎さんが健一郎くんを持ち上げて肩車し、この姿勢のままでひたすら演技を続けたのです!こんなのは観たことがなくてたまげました!!

又三郎さんは中学生を肩車して笑顔で足踏みしつつ囃し続けるのは間違いなくきつかったでしょう。健一郎くんも肩の上で真っ直ぐに姿勢を保って囃し続けるのは想像以上に大変だったと思います。肩車も昔から伝わる演出なのでしょうか?だとすれば、演じられる人が限られる演出ですよね(^_^;

山伏の装束で梵天(結袈裟についているポンポンみたいなの)が真っ赤なのが印象的でした。梵天の色は身分を示していて赤は位が高いと聞いたことがありますが宗派にもよるのかな?

信長占い〈一管〉

昨年の7月に萬狂言夏公演で初演された、歴史学者の磯田道史さん作、万蔵さん台本・演出の新作狂言です。今回は〈一管〉という一噌幸弘さんの笛の演奏が入った演出でした。

信長が自分と生年月日が同じ人物を探したとされる史実に基づいたお話だそうです。元の話を知らなくても、信長と家康の関係性など歴史を知っていた方がより楽しめる演目と思います。装束もそれぞれのキャラクターにビッタリで良かったです。

信長の役は万蔵さん。派手な装束に付け髭をつけて暴君ぶりがものすごくハマっていました。実際にはやさしい方だと思いますけど(笑)。あぁ、そういえば先日には万蔵さんの月見座頭を拝見して感動し、座頭がハマリ役だと思ったばかりなのでした。芸域の幅が半端ないですね〜。ハマリ役といえば森蘭丸役の河野佑紀さんもお小姓役にぴったりなキレイはお顔立ちでしたわ〜。

信長シリーズの新作狂言、登場人物も増やして新しいバージョンもどんどん作っていただきたいです!

若菜〈立合小舞・新作下リ端〉

笑うところは特になく皮肉や風刺もないですが、お囃子が入って華やかさがあり、登場人物が嫌味のない良い人ばかりで、ほのぼのと謡と舞が主体で展開し、春の雰囲気に包まれ幸せな気分になれる演目です。今回は万蔵さんの新演出だそうです。

萬さまの海阿弥、万蔵さんの果報者という配役。万蔵家の他に、野村又三郎家、三宅家、井上松次郎さんら和泉流の他家の皆様も大原女としてご出演され、華麗な舞の競演、装束もそれぞれ異なる色で9名が並ぶととてもカラフルで綺麗でした。

大原女が次々と舞い謡う間、にこやかに控えていた萬さまが、最後に謡い舞う様子にうっとり見惚れておりましたが、終盤で片足けんけんする型をなさったのにはびっくり!三番叟という大仕事の後に、まだまだそれだけの余力があったのには驚かされました。これからもまだまだお元気にご活躍いただけそうです(*^_^*)

萬狂言 秋公演

ファミリー狂言会の後は、萬狂言 秋公演を拝見しました。以下、感想など。

小舞

野村万蔵さんの3人のご子息による小舞三番。若々しくそれぞれの個性が出ていてとても良かった。「鮒」はとても難易度が高そうだった。三番叟を披かれた万之丞さんはどんどん難しい曲に挑戦していくのだろう。今回もお稽古の成果が十二分に発揮できていたと思う。

萩大名

この演目は何度観たかわからないほど度々観ている。しかし配役によって毎回違った印象を受けるので何度観ても面白いと思う。大名がアホすぎてオチはわかっているけどやっぱり笑ってしまう。太郎冠者が教養高くて賢いっていうのがちょっと珍しい。

休憩時間に国立能楽堂の中庭に出てみたら折良く萩がたくさんの花を咲かせていた。しかも、萩大名に出てきたミヤギノハギ。なんとタイムリーな!

鳴子

これを観ただけでも来た甲斐があったと思うくらい素晴らしかった。野村萬さまと万蔵さん親子の太郎冠者と次郎冠者。主人に命じられて稲穂実る山の田に群鳥を追いにやってくるが、主人が差し入れてくれた酒を呑み、酒盛りが始まって謡ったり舞ったりのお決まりパターン。

しかし、他の演目と違うのは二人の連吟や連舞という芸を楽しめること。二人交互に舞い謡うならよくあるかもだけど、一緒にというのがポイント。二人仲良く並んで、向かって右側の太郎冠者と左側の次郎冠者が鳴子を鳴らしたり、揃って舞う姿は美しいシンメトリーであり祭礼的な神々しさすら感じさせられる。脇正面席で観ていたが、今回は正面席にすればよかったとちょっぴり後悔した。

酒盛り芸で好きな演目は「木六駄」だが、主人に命じられて仕方なく冬の雪深い山道を牛を追わなくちゃ行けないなどの厳しさがある。「鳴子」は季節が秋で田園風景が広がり、人間関係でギスギスしたものが一切無く、この上なくほのぼのとしている。平和を乱すのは稲穂を狙う鳥くらいだ。それも二人の鳴子によって追い払われる。また平和が戻って優しい時間が流れていく。

主人の役は万之丞さん。三世代の共演。働く二人をねぎらいお酒を差し入れる優しいご主人様。こういう上司がいたらいいよね。それでもなかなか帰って来ない二人が酔い潰れて眠り込んでいるのを発見して追い込むパターンはおなじみ。見つかってこれはシマッタという顔で逃げ出す万蔵さんと、あぁバレちゃった〜でもまぁいいよね(てへぺろ♪)みたいな余裕の笑顔で逃げる萬さま。毎回この笑顔にやられっぱなし(主人も観客も。笑)。

引く物尽くしや名所尽くしの長い謡だとか、鳴子を持って拍子を踏んだり浮き廻りを繰り返したり、体力が要ること間違いなしのこの芸を、いかにも楽しそうに謡い舞うというのは、よほどの技量が必要だろう。

「鳴子」を観たのはおそらく初めてだけど、この二人で観てしまったので、次に別の配役で観てもなかなか満足できないかもしれない。

合柿

柿売りが甘い柿だと言って参詣人らに売ろうとするが、試しに食べさせた柿が渋柿で、柿売りが食べてみてそれが甘かったらカゴごと買ってやるという参詣人らに、食べたらやっぱり渋柿で柿売りはそれを甘いように振る舞うがごまかしきれず、最後は参詣人にどつかれて売り物の柿もばらまかれて終わる話。

これ結局どっちが悪いのかな?柿売りが渋柿と知っていながら甘いと騙して売りつけようとした?それとも柿売りには悪気はなく試したのがたまたま渋柿で参詣人らが過剰なイジメをした?
柿売りは渋くてもとにかく売れればいいとズルい考えを抱いていたかもだけど、最後のしっぺ返しには多勢に無勢の感があり、ちょっと柿売りに同情してしまった。柿売りを演じた万禄さんが難しい役柄を好演。


秋を感じさせる演目の数々、甘い話も苦い話も楽しゅうございました。ごちそうさまでした。

萬狂言 ファミリー狂言会 秋

萬狂言 ファミリー狂言会に初参加しました。以下、感想など。

柿山伏

近頃は小学校6年生の教科書に載っているとのこと。私が小学生の頃には「附子」が載っていた。
「附子」はストーリーが滑稽で単純に面白いと思うが、「柿山伏」の場合は動物の鳴き声(それも昔の表現)が出てきたりするので、言葉の面白さが小学生の好奇心をそそるのではないかな。

小笠原匡さんの解説

「首引」の解説で、鬼がかける狂言面を実際につけて鬼が人間を怖がらせる演技。小笠原さんが「どうです?怖いでしょう〜〜」と言うと子どもたち「怖くないーー笑」。子どもは正直だな(笑)。次にやはり同じ面をかけて今度は情けない演技。先ほどの怖い鬼と対比すると全く違う印象に、場内からほおぉーーと感嘆の息が漏れる。

次に「首引」に出てくるセリフをみんなで大きな声で言ってみるお稽古。小笠原さんが見本をやって見せ、後について復唱。小笠原さんが「これは嬉しそうに!怖そうに!痛そうに!」と言うんだけど、なかなかオーバーな表現は難しいみたい。やっぱり恥ずかしいのかな。

小笠原さんは観客をノセるのがとても上手い。子どもたちも楽しげに前のめりになって体験を楽しんでいた。

首引

人を喰らう恐ろしい鬼も可愛い娘には親バカになってしまうところが、鬼なのに人間くさくて可愛らしい。そういえば、「人くさい」という言葉は狂言では「美味しそうな人間のにおいがする」の意味と解説されていた。狂言に出てくる鬼は人間以上に人間っぽいところがあって面白い(人間の方がよっぽど鬼かと思うことがある)。

小鬼たちが姫鬼を加勢する場面のかけ声「えーいさらさ、えいさらさー」を一緒に声出していいですよ、と事前に小笠原さんに言われていたので、子どもたちの中には一緒にかけ声を掛ける子も。

上演後に「鬼が怖かった人ーー、可愛いと思った人ーー」と聞かれて、みんな「可愛いーー♡」と答えていた。この後、「えーいさらさ、えいさらさー」がしばらく頭を離れなくなる。

狂言たいそう

実はひそかにこれを楽しみにしてきた。河野佑紀さん始め、若手の狂言師の皆さんが舞台上に勢揃い。まず小学生までの子どもたちがその場で立つように促される。それ以外の大きい人達は場所が空いていたら立つ。

河野さんから個々の歌詞や動作の説明があって、音楽がかかる。おぉーー、音楽があるんだ!?と楽しい気分になってくる。歌は万蔵さん!手持ちのプログラムを見ると歌詞も万蔵さん作。振り付けは歌のおにいさんの佐藤弘道さんと一緒に作ったんだって。

大人は誰も立っていなかったので座席に座ったままで一緒にたいそうした(本当は立ちたかった。笑)。狂言の台詞や動作がたくさん入っていて楽しかった。全国の小学校で流行らせたいな。

初めてファミリー狂言会に参加したが、子どもたちのお行儀が良い。騒ぐ子は一人もいなかった。大人の言うことをよく聞く良い子ばかりだ。でもちょっとおとなしかったかな。

私の前列に座っていた小学校高学年の男の子が終始とっても楽しそうだったんだけど(彼のワクワク感が伝わってきた)、隣のお母さんの顔色を気にして立ち上がる勇気が出なかった様子。お母さんが笑顔で「ほら立ってやってごらん」と促せば彼はきっと立ち上がって楽しくたいそうしただろう。

シャイな子どもも多いから、大人が率先してノリノリで楽しむところを見せた方がいいんじゃないかなと思った。場合によっては大人も一緒になってたいそうする。ほらお父さん、お母さん、恥ずかしがらずにご一緒に!


ファミリー狂言会とても楽しかったです。お子様はもちろん、演目も解説もわかりやすいので、狂言初心者の大人にもお勧めと思いました。

萬狂言 秋公演につづく。

パリ日本文化会館20周年記念 特別狂言公演 KYÔGEN “人間国宝・野村萬師をお迎えして”

パリ日本文化会館20周年記念として催された特別狂言公演を拝見して参りました。

和泉流狂言方・小笠原匡さんからパリで狂言の特別公演を催すというお話をお伺いしたのは一年以上前のお話。まさか自分が海外にまで日本の伝統芸能の公演を観に行くことになるとは思ってもいなかったです。
しかし、御年87歳の野村萬さまが遠路はるばるフランスまでお越しになりご出演なさるとお聞きして、これはこの上ない素晴らしい機会、もう行くしかないでしょ!!と、勢いで決心してからはトントン拍子で話が進んで、ついにフランスの地に降り立っちゃいました。

二日間の公演は前売チケットは早々に完売となっていました。スゴイ人気です!!
あらかじめ小笠原さんの奥様にお手配いただいていたのでホント良かった〜。
演目は両日とも「三番叟」「金岡 大納言」「二人袴」の三曲。
私は二日目の千秋楽を拝見しました。

海外公演では、どうしても外国の方々のウケが良さそうで出演人数も少なくて済む、棒縛や附子や蚊相撲なんかが選ばれそうな気がしていたので(←あくまでイメージです)、ストーリー性より儀式性の要素が強い三番叟や稀曲の金岡が上演されることは意外でした。それに、お囃子が必要な曲だったのも、海外公演としては何とも贅沢な選曲と感じました。

オープニングは「三番叟」。三番叟は野村万蔵さん、千歳は今年1月に襲名したばかりの野村万之丞さん。万蔵さんの三番叟は何度か拝見していますが、パリで拝見したからでしょうか?一段とお洒落な三番叟に見えました☆彡 儀式的な緊張感は日本と変わらず、特別公演の幕開きにふさわしい素晴らしい三番叟でした(^o^)

三番叟って日本人にとっても他の狂言の曲と比較して少し特殊に感じる曲だと思うんですが、フランス人の方々にはどう感じられたのかなーと興味あります。私が初めて三番叟を観た時のような神秘性をフランスの方も感じたでしょうか。
フランスも日本と同じ農耕民族ですから、五穀豊穣を寿ぐ三番叟の精神には相通ずるものがあるかもしれません。

萬さまがシテをお勤めの「金岡」。妻役は能村晶人さん。
この曲は和泉流にしかない稀曲だそうで、私もおそらく初めての拝見です。

絵師である金岡が宮中で美人の女中に一目惚れをして物狂いとなる。 それを心配した妻に話すのですが(え、話しちゃうんだ!と思いましたが、物狂いになってますから、止められないんですね。笑)、そんなら私の顔を彩色して美人にしてみなさい、と妻は言います。そして妻の顔に色を塗り始めますが、やっぱり美人にはほど遠い、と言ってしまい妻の怒りを買う・・・というお話。

舞台上で本物の紅白粉を使って筆で妻の顔に色を塗るシーンがあって、舞台や装束に粗相をしないように塗るだけでも気を遣いそう〜。それなのに、どうってことないよって感じで軽やかにやってのける萬さま。
宮廷絵師で素晴らしい絵を描けるはずなのに、おてもやんのような顔だったので(まるでわざと下手っぴに塗って妻をおちょくっているかのよう。笑)お客さんにも大ウケでした。

お囃子も入って格調高い謡や舞で観客を魅了する。大曲でありながら素直に笑える要素も多くて面白い曲でした。

おいくつになられても艶っぽく恋の狂いを演じるのがお似合いになる萬さま。一昨年は枕物狂でその芸格の高さに圧倒されましたが、あぁーー、またもや至芸の極みを拝見してしまった(*´▽`*) これを拝見できただけでもはるばるフランスまでやって来た甲斐があったというものです。

トリの演目は、小笠原匡さん、弘晃さん親子が、実の親子役を勤める「二人袴」。この演目は万国共通で楽しく見られる内容だと思うのですが、予想通りめっちゃうけていました。あと、実の親子が演じたせいか、一段と愛にあふれた二人袴でしたねぇ〜(*´▽`*)

弘晃さんはパリ在住でフランス語が堪能なので、フランス語で演じるバージョンがあったらきっと面白いんじゃないかな〜とふと思ったりもしました。他の役者さんがフランス語できなくても、日本語とフランス語まぜこぜでも面白いと思いますよん(^_^)v

フランス人の観客の皆さんがどのような反応をするのか興味津々でしたが、驚くほど日本的な鑑賞態度でした。
拍手もお囃子方や地謡がすべて退場した後のタイミングで起こり、余韻を楽しんでいました。このへん、予習してきたのかと思うほど日本的(むしろ日本よりマナーが良かったくらいに感じました)。
観客の中に日本人が多く含まれていたこと、また、もともと日本文化に造詣が深いフランス人が多かったと思われることもあると思いますが、日本のものに限らず舞台芸術を見慣れているなどで勘所が自然と備わっている方々が多かったのかもしれません。

次にパリ日本文化会館のホールについての感想です。

通常、能舞台でない普通のホールを能や狂言で使用する場合は、本物の舞台上に仮の柱を立て、舞台上の脇正面席の領域に黒っぽい幕などを敷いてデッドスペースにしてしまいますが、今回のホールでは座席が可動式になっていて、目付柱などはもちろん仮の柱ですが、ちゃんとした脇正面席が作られていました。

フランスのお客さんの体格に合わせているのだと思いますが、椅子がゆったりしていて座り心地がとても良かったです。前の椅子との間隔も広くてゆったり足が伸ばせるほど。前の列から適当な高低差があり、前の人の頭はまったく気になりませんでした。

座席番号が後列からアルファベ順に振られていて、客席の中央を境に左右に分けて、席番が偶数・奇数に分かれていたので(これ世界標準?)、自分の席を探すのかなり迷っちゃいました(^_^;

鏡板は布に松の絵が描かれたものだったのでちょっとばかりショボーンな感じでした(´・ω・`)。
また、舞台に張ってある床板も普通の能舞台のように檜の一枚板ではないので(もちろん瓶も埋まっていない(^_^;)、足拍子がきれいに響かないというような難しさはあったように聞きました。

フランスに能楽堂を・・・という話もあったりなかったり・・・するとか?
実現すると良いですね(^_^)

フランスを始めとして世界に狂言や日本の伝統文化を広めるために尽力なさっている小笠原さんご家族や、素晴らしいお舞台をご披露していただいた万蔵家御一門の方々に心からの敬意を表したいです。

公演日以外はパリやベルサイユを観光して、まぁ旅行先ならではのハプニングもあったりはしましたが、とても楽しいフランス滞在となりました。

あまりに楽しかったので、ぜひまた行きたいと思い、残ったユーロを日本円に両替しないで持ち帰ってきました(笑) またヨーロッパですごい公演が企画されることを願います!

パリ日本文化会館。エッフェル塔の近くにあります。想像してた以上に立派な会館でした。
能舞台を仮設したホール。ちゃんと脇正面席があります! たいへん座り心地の良いお座席でした。でも、鏡板がちょっぴりショボーン(´・ω・`)

萬狂言特別公演 六世野村万之丞襲名披露

萬狂言新春公演を拝見しました。

野村万蔵さんのご長男・虎之介さんが六世野村万之丞襲名を披露なさる特別公演であり、また、万蔵さんの3人の息子さんがそれぞれ三番叟、奈須与市語、千歳の披キ(=重要な曲を初演すること)というたいへん豪華な公演でした。

いつでもお披きのお舞台は、拝見する私共もワクワクしながらも緊張が伝わってくるようでつい手に汗をにぎってしまいます。今回もそのような複雑な思いで舞台を見つめます。

しかも、正面席の最前列という幸せ。この歴史的瞬間をしかと眼に焼き付けますぜ!という気分です^^

万之丞となった虎之介さんの三番叟は、名家に生まれて伝統を受け継いでいくという、背負うものの重さをしっかりと受け止め覚悟を決めたかのように思える、非常に気迫に満ちたものでした。

重圧による緊張は極限に達していただろうと想像しますが、進行と共にノリが良くなり、この大舞台を楽しんでいるようにさえ見えてきて、初めてとは思えないほど堂々とした素晴らしい三番叟でした。

同様に次男の拳之介くんの奈須与市語も、これまた初めてとは信じ難い堂に入った熱演であり圧倒されました。

三男の眞之介くんの千歳は一所懸命さが伝わってきてとても初々しかったです(*^o^*)

3人ともきっとお稽古をそれこそ死に物狂いで重ねてきてものすごく頑張ったんだろうな~と胸が熱くなりました。

この貴重な経験を糧にして大きく羽ばたいてくれることでしょう。

ほかにも野村萬さまを始め豪華な出演陣での狂言、小舞、舞囃子など豪華なラインナップで大満足。

最後に上演された「歌仙」は、和泉流固有曲ですが、和泉流の他家の方々や大蔵流の方々が共演され、元々登場人物が多くお囃子や地謡も入って華やかな曲ではありますが、万蔵さんのアイディアでさらにわかりやすく面白く改作されており、ご出演の皆さまのキャラも立っていてたいへん楽しく拝見しました。

ところで、歌仙はおめでたい曲として位置づけられていると本で読みましたが、以前に観た時には、喧嘩して終わる話なので、これっておめでたい話なの?と素朴な疑問を感じていました。

ところが今回は、さっきまで喧嘩していた歌仙たちが一緒にピョンピョンと飛び跳ねながら退場するエンディングが意表をついていて笑いが止まらず、ともかく楽しい気分でお開きとなったのでたいへんヨカッタです(^o^)

延年之會 第参回「コンメディア合戦!! イタリア仮面劇 vs 狂言」

和泉流狂言師・小笠原匡さんが主催する、延年之會 第参回「コンメディア合戦!! イタリア仮面劇 vs 狂言」を拝見しました。

イタリアで16世紀に発祥した伝統的仮面劇であるコンメディア・デッラルテはヨーロッパでの商業的な演劇の起源だそうです。

シェークスピアやモリエール、セルバンテスなどのヨーロッパの名だたる劇作家たちがコンメディア・デッラルテの影響を受けて創作したというのですから驚きです!

狂言と共通するところは、どちらも仮面を使用するところ、また、喜劇であること。

使う仮面によって役柄や性格が決まったり、お金に執着する父親や主人を恐れる召使いなど「お約束的なキャラクター」が出てくるところ、「お約束的なストーリー設定」が存在するところなどは、狂言によく似ています。

一方、狂言と異なる特徴としては、台本はなく粗筋だけが決まっていてあとは即興であること、風刺性が何よりも際立っていること、女性の役者が登場することなど。

綺麗な女優さんの顔が見えないのはもったいないので、女優は面をかけないんですって。女優を起用してから観客も増えたそうな^^*

狂言と違って、性格の良い人は出てこないんだそうです。だから母親は登場しないんですって。さすが、お母さんを大切にするお国柄ならではですね。マンマミーア!

さて、今回の上演では、狂言とのコラボがどのような形で提供されるのか、始まる前から興味津々!o(^-^)o

前半は、古典的な狂言の演目と典型的なイタリア仮面劇の名場面をそれぞれの役者により一番ずつ上演。

そして後半は、前半に上演した古典狂言を翻案したイタリア仮面劇が上演されました。

観る前はイタリア語のお芝居が理解できるか心配でしたが、日本人の役者さんが日本語のセリフを途中で入れたり、イタリア語だけでなく、英語セリフも混ざっていたので、全然大丈夫でした!

また設定がわかりやすく、台詞回しや動きも大袈裟で面白いので、言葉がわからなくてもとっても楽しめました。現代のコントにも相通じる感覚で馴染みやすく、ボケツッコミ、ノリツッコミのような、関西芸的な一面も(笑)。

狂言の演目の翻案作品は、題材の狂言を観た後だったので、特に理解しやすく面白くて大笑いしちゃいました♪
狂言の「附子」が「ウラン」になって防護服を着ちゃったりして、現代的な風刺が入っていてなかなかブラックでしたね~。

鏡板に近づきすぎたイタリア人役者さんに小笠原さんが「あんまり近づかないで、怒られるから!(^_^;」とかアドリブで言ってて笑っちゃいました(笑)。
役者が観客席から登場したり、キザハシ(能舞台の正面にある階段)を昇り降りしたり、普段の能狂言の舞台ではありえない演出もたくさんありました。

正直、能舞台でここまでやっちゃってもいいの??という演技もかなり多かったですが、そのハチャメチャ感は決して嫌いじゃないです(笑)

この企画は今回が初めてなのかなと思ってましたが、大阪では以前から上演していたそうで、東京は初お目見えだそうです。

大阪と東京では能楽堂の対応や観客の反応も違うため演出などは変えた部分もあるとお聞きしました。即興の舞台芸術においては当然なことなのかもしれないですが、ご苦労なことも多かったと思います。本当にお疲れ様でした~。

古典狂言の方には東京公演のみ野村万蔵さんが特別出演、やはり華があり舞台が引き締まりますね^^*

イタリア人役者のアンジェロ・クロッティさん、アンドレア・ブルネェラさんはイタリアのみならずヨーロッパ各地でご活躍の俳優さんだそうです。少しお話させていただきましたが、とても楽しくてチャーミングなお二方でした♪

これまで狂言師としてしか拝見していなかった小笠原さんの今回の舞台役者っぷりはとても堂に入っていて、つくづく多才な方だなぁ~と感服いたしました。

女優のTAKAKOさん、これまで能楽堂のロビーでおしとやかな和服姿はよくお見かけしていたのですが、今回初めて舞台上でのご活躍を拝見することができ、いきいきとしたコメディエンヌぶりがとても素敵でした♡

若い神宮一樹さん、とても上手なのでてっきり本職の役者さんだと思っていましたら、ご本人にお伺いしたら小笠原さんの狂言のお弟子さんだそうで、イタリア留学時のご縁でこの演劇に出会い舞台に参加する運びとなったそうです。これからもぜひ頑張って続けてほしい!

おかげさまで楽しい時間を過ごしました。小笠原匡さんは次回はどのような驚きを我々に提供してくださるのでしょうか!?とても楽しみです!\(^O^)/

萬狂言 秋公演

萬狂言の秋公演を拝見いたしました。

袷の着物がちょうど良い気温となり、週末としては久々の雨の心配がない日で、いそいそと出かけましたよ(^^)

「樋の酒」は鉄板の面白さ。野村萬さまの太郎冠者が主人に叱られてもまだなお酒を飲もうとするシチュエーションは幾度となく拝見してきた場面ですが今回もまたイタズラっ子ぽい笑顔にやられましたわ〜(*´▽`*)

大蔵流との異流共演「茶壷」。流儀が異なるとかなりの難しさがあると万蔵さんが解説でおっしゃっていましたが、観ている方には全くその困難さがわからないほど自然な掛け合いでした。
一方で、二人の男が同じ内容を語りながら一緒に舞う型にははっきりわかる相違があり、そこは流儀の違いなのでしょうね。でも、舞が違っていることでかえって面白く感じました。

河野佑紀さんの「奈須与市語」はお披きでした。
御本人はさぞや…ですが、観ているこちらも手に汗握る緊張、すっかり母の気分に^^; ともかく最後まで無事に勤められて安心いたしました。
とても良い経験になったと思いますので、今後のご活躍を期待してます^^*

「釣針」は、文楽にもこの狂言が基になって作られた「釣女」という演目があります。
主人の妻を釣ったら美女だったので、太郎冠者も負けじと妻を釣るのだがそれが醜女だった、という筋はあらかた同じなのですが、狂言では美女の方は観客に顔を見せないんですね(文楽では美女の顔を見せます。歌舞伎ではどうなの?)。
美女の狂言面って無いのかしらん?でも、醜女の演技を通じて、あっちは美女なんだって思わせるのはさすがです。

同行の友人はこの日の午前に行われたファミリー狂言会も観て、チビッコたちに混じって狂言たいそうにも挑戦してきたそうで、とても楽しかったと言っていたので、次は挑戦してみようかな!

第弐回 延年之會

和泉流狂言方、小笠原匡さんの延年之會に行って参りました。

狂言「昆布売」

召使いが出払っていて一人で出かけた大名が通りがかりの昆布売りに太刀持ちをさせようとするが、大名になぶられて腹を立てた昆布売りが太刀で脅して代わりに昆布を売らせようとし・・・。

小笠原匡さんのご長男、弘晃君が昆布売り、人間国宝の野村萬さまが大名の役です。
昆布売りが大名に謡節、浄瑠璃節、踊節などで売ってみよと次々と命令するのですが、二人がそれぞれに謡ったり踊ったりするのが面白いです。浄瑠璃節では三味線をマネる場面があり、三味線は比較的新しい楽器で狂言に出てくるのは珍しいような気がして、おや、なんだか新鮮、と思ってしまいました。

萬さまにお相手していただいた弘晃君、年の差は70歳くらいはあり、本当の祖父と孫のように萬さまが温かく包み込んで弘晃君を導き、弘晃君も緊張する様子を見せずのびのびと演じていました^^*

新作落語狂言「子ほめ」

酒好きの男がタダで酒が飲めると聞いてご隠居を訪ねる。ご隠居から人に酒を飲ませてもらうにはお世辞の一つでも言うようにと年齢を見た目より若く言うと良いなどと教わる。そして最近子どもが産まれたという知り合いの家を訪ねてタダ酒にありつこうとする。しかし、元々口が悪い性分に加えて教わったことに応用が利かない男はかえって相手を怒らせてしまい・・・。

落語の「子ほめ」をベースに、故八世野村万蔵さんが劇作・演出した新作狂言です。
小笠原匡さんは八世万蔵さんの一番弟子。師匠の得意曲でシテを演じられました。
私は落語には詳しくないのでイメージとして、少しばかりおバカでズレたキャラが出てきてトンチンカンなことをするというのは、いかにも狂言にありそうな話で、狂言の素材として落語は相性が良さそうです。

上演後の懇親会で九世野村万蔵さんにお伺いしたお話では、落語狂言は何曲かあるそうですが、狂言に合う演目とそうでないのもあるそうで、その中でも子ほめは一番しっくりくる曲じゃないかとおっしゃっていました。

また、演出で細部を変えたりするそうで、確かに今回もエンディングが常と変わっていたり、現代の言葉で洒落を飛ばすような演出がありました。落語自体が古典を現代風にアレンジしたり、客の反応などに応じてどんどん内容を変えていける類の演芸だそうなので、狂言の方も同じように自由に変化させやすいというのはありそうです。

狂言「木六駄」

言わずと知れた狂言の大曲です。以前にも木六駄については書いたことがあるので、あらすじについてはこちらをどうぞ。
萬狂言 冬公演 大倉流和泉流 異流公演 二題

私がまだ能の観始めで狂言は能と能の間に演じられるコメディと捉えていた頃、この曲を観て初めて狂言の演劇性や技芸の奥深さに目覚めたという演目です。以来、この曲が大好きになり上演される時は好んで観に行っています。

小笠原さんは今回この曲のシテを50代で初主演ということでした。野村万蔵さんが茶屋、野村萬さんが伯父を勤め華を添えます。

前半の牛追いのシーンは一人芝居で、雪深い山道の情景や言うことを聞かずに逃げたり動かなくなったりする牛をあたかも舞台上にいるように表現しないといけないたいへん技量の要る場面です。勝手な牛たちに翻弄されてへとへとになる様子はコミカルでもありますが、雪深さと寒さと周囲の静けさを感じさせるような情趣があります。

後半は茶屋との酒盛りがメインのシーンで、主人の酒に勝手に手をつけて酔っていくうちにだんだん気が大きくなり全て飲み干してしまい牛に運ばせてきた薪まで茶屋に渡してしまいます。この酒宴での茶屋との掛け合いはとても楽しい場面です。謡や舞も聴きどころ見どころで、特に相当酔って足をぐらつかせながら舞うのは見てる方は何の気なしに笑ってしまうのですが相当難易度が高そうです。

太郎冠者が行きたくないのにしぶしぶ牛を追っていて苦労する寒くて暗い大雪の山道の場面と、茶屋で酒を呑んで体が温まり最後には酔って気分まで明るくなる、という温度差を感じる展開が演劇的に面白いところだと思います。そして演じる方としては難しいところなんじゃないかと。

この曲はやはり年齢と経験を重ねないと難しい演目だと感じます。

万蔵さんも、相応の年齢になってから演じるのがふさわしい演目だが年を取ってから突然やれと言われてもできるものでないので、若いうちから慣らすために役を当てられ、当然最初はうまくできないのでいろいろ厳しいことを言われてしまう。そうやって演じているうちにふさわしい年齢になって良い舞台ができるようになる、とおっしゃっていました。

小笠原さんは、そういう意味ではこの曲での助走期間は無かった状態での50代の初挑戦だったわけですが、たいへん味わい深くこの曲を仕上げていらしたと思います。師匠の芸に間近で触れつつご自身も様々な曲で修練を重ねてきたことでこの演目に立派に立ち向かうことができたのですね。

小笠原さん、子ほめに続いてお酒がらみの演目。聞いた話ではご本人もお酒がお好きだそうです。酔ってご機嫌になるシーンを見ていたら、こちらも早く呑みたい気分になってきました(笑)

次回の延年之會は、11月27日(大阪)、12月4日(東京)「コンメディア合戦!! イタリア仮面劇 vs 狂言」だそうです。どんな内容になるかは全く想像がつきませんが、小笠原さんの次なる挑戦がとても楽しみです!

「大田楽」 萬狂言 特別公演 ~八世万蔵十三回忌追善~

能楽堂では初めての上演となる「大田楽」を拝見いたしました。

「大田楽」とは?
能狂言より古い時代に存在した田楽という芸能を題材に、八世野村万蔵氏(五世野村万之丞氏)が構成演出の指揮を執り能楽界を始め様々な分野の演劇人、音楽家、研究家の方々と共に2年間の歳月をかけて創り上げ平成2年に完成させた古くて新しい芸能。
その後、各地に広がり定着。市民参加にまで裾野が広がり26年経った今でも上演が続いており、海外公演も行われている。

この度、万之丞さんの十三回忌追善の会にあたり、原点に立ち返り、初演時に出演した能楽師の方々を再び迎え、万之丞さんの実弟である九世万蔵さんが演出し、現在各地で大田楽を継承・上演されている方々と共に、国立能楽堂で上演する運びとなったそうです。

ワタクシ「大田楽」は映像でしか観たことがなく、しかも能楽堂で初演時のメンバーが再結集ということで、かなりワクワクでございました o(^-^)o

まず、能舞台上に一畳台、大太鼓などが運ばれてきて置かれ、道成寺の鐘を吊す滑車に、神社の鈴が吊られました。(その時、ワタクシは「鈴後見…」という言葉が頭に浮かんでました。どうでもいいですが。笑)

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脇正面席後方の扉が開き、田楽法師一行が隊列を組んで音楽を奏しながら客席の通路を行進してきます。すぐ脇を通っていく演者の皆様を目のあたりにし、否が応でも胸が高鳴ります♪

全員が能舞台に収まるのか!?という大人数が次々と入場。もちろん一度に全員が本舞台にのることはできないので、本舞台の他、橋掛かりや客席通路もまんべんなく使ってパフォーマンスするような形。

複数名の踊り手たちが繰り広げるダイナミックな踊りは、舞台から落っこちてしまうのでは!?と心配になるほどスピード感と躍動感にあふれるものでした。

万之丞さんの一番弟子である小笠原匡さんが踊った番楽は特に躍動感あふれる踊りでとてもカッコ良かった!小笠原さんは大太鼓も打っていて、なんてマルチタレントなの~と思いました。

野村万禄さんの勇壮な王舞。緋の装束に天狗の面をかけて鉾をかざして仁王立ちし後ろに大きくのけぞるポーズを何度かなさったのがとても印象的でした。

色鮮やかで巨大な獅子頭(6キロ近くあるそう!)を操って跳んだり跳ねたり激しく踊る獅子舞はとても豪快でした。
二頭の獅子はシテ方の片山九郎右衛門さんとワキ方の宝生欣哉さんです。初演時には青年だったお二方も26年たって年齢を重ねられ、失礼ながらちょっと心配でした(^_^; しかし初演時には赤坂日枝神社の大階段を登りながら舞った(!)とのことですから、それに比べれば楽勝だったのでは!(笑)

白装束に翁烏帽子姿の田主(一行の長)役である野村萬さまが能舞台後方の台座に着席され、それはそれは高貴で神々しいお姿でした。
萬さまの読み上げる奏上、万之丞さんの功績を称え今なお伝え継がれんことを慶び田楽の開催を宣言する、といったところでしょうか。萬さまの謡がかりで美しい読み上げ声が静まりかえった場内に荘厳に響きました。

稚児舞。二人の稚児は万蔵さんと小笠原さんのご子息方が演じました。橙色と緑色の装束が色鮮やかで可愛らしい♡ でもさすが普段から数々の舞台をこなしているだけあり、きっちり堂々と舞っていました。

万蔵さんの三番叟。翁の三番叟のように黒い面をかけて黒装束。手足に鈴をつけておりました。かなり複雑なリズムで軽快かつ勇壮に足拍子をテンポ良く踏んでいきます。途中で笛の一噌幸弘さんが三番叟にすり寄っていくようなシーンもありユーモラスで面白かったです。

普段は紋付袴姿のお囃子方の先生方が色とりどりの花笠や装束を身にまとっておられたのも見目麗しく新鮮でした^^*

楽器の種類も多種多様。大鼓、小鼓といった能楽でお馴染みの楽器のみならず、腰鼓、編木、銅拍子といった珍しい楽器や、笙や篳篥などの雅楽の楽器、大太鼓。賑やかに囃して祭りを盛り上げます。笛は能管でなくて篠笛?龍笛のようにも見えました。

各地で大田楽を継承されている方々の番楽、日体大の方々のアクロバット、京劇俳優の変面など、次々と繰り出されるパフォーマンスがどれもこれも素晴らしくて、歓声や拍手が起こって会場が沸き、観る方もどんどん気分が高揚していきます。

最後は総勢の群舞となり、土蜘蛛ごとく千筋の糸が客席に向かってまかれ、ワタクシ共、前方席ゆえ両手を差し上げて糸を掴もうとしちゃったり、糸まみれになりながらも満面の笑顔でございました(笑)

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蜘蛛の糸まみれになり喜ぶ我々(笑)

田楽法師一行は再び隊列を組み、舞台を降りて客席の通路を行進して退場します。
名残惜しいとばかりに拍手・拍手・拍手。ワタクシ、長年の能楽堂通いでも、あれほどの割れんばかりの拍手の音をいまだかつて聞いたことはありませんでした。

拍手いつまでも鳴り止まず、いったん退場された万蔵さんと萬さまが再び舞台上におでましになり、観客にご挨拶をなさいました。
萬さまの「後ろで座って見ていながら長男の短く太い人生を追憶することができた」というお言葉には胸が熱く…(;_;)

関わってこられた皆様方の万感の想いが込められた大田楽、実に楽しく感動的な一大エンターテインメントでした。

天国の万之丞さまもきっと楽しんでご覧になっておられたことでしょう。(^_^)

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