4月17日(木) 18:30開演 宝生能楽堂
○解説
本日の解説(※)は野村萬斎さまです。解説は万作の会の皆さんが持ち回りでなさっていますが、誰なのかは当日行ってみないとわかりません。(※)解説者が誰であるかはチケット予約サイトでわかるそうです。(ひろみさん情報ありがとう\(^_^)/)
18時30分と早い時間に始まるこの公演、解説に間に合わないことも多いんですが、本日は半休とって会場前に到着、間に合って良かったぁ。
さあ、今回、初めて知ったことは、和泉流は謡本を刊行できないそうで。理由は家元がいないから(へぇ~)。古本屋でしか手に入らない、と萬斎さま。確かに能楽堂で和泉流の謡本は見たことないわな。
さてこれ以降、萬斎さまの解説の内容も織り交ぜまして、各演目の感想などを。
○小舞「海老救川」「田村」
「海老救川」、各地の川の名とそこで獲れるいろいろな海老の名が出てくる楽しい曲です。萬斎さまが子供の頃、初めてお稽古した時に、謡の最後の一節で吹き出したと仰っていたので、一所懸命謡に集中して聴いていたら「海老のハナゲ」という文句が!鼻毛!?海老の触覚のことらしいです。いかにも小学生男子のツボにハマりそうな単語ですよね(笑)
「田村」は能から逆輸入した曲である、と萬斎さま。我々には狂言は能の先行芸能であるという意識がある、と仰っていました。確かに現在では狂言は能の添え物扱いになっているようなところがありますから(狂言の間に休憩している観客も少なくないですし…)それに対する反発があるようですね…。
○狂言「蟹山伏」
山伏物の演目は少ないが人気があってどれもよく上演される、と萬斎さま。
山伏と強力が山で正体不明の化け物と出会い、化け物がかけた謎かけを解いて蟹の精であると見破り退治しようとするが、逆に二人とも耳を挟まれてしまう。
各地に蟹問答の民話や伝説が残っています。謎かけを挑んで答えられなかった僧侶を次々と殺していた化け物を、ある僧侶が謎かけを解き蟹の精の正体をあばいて退治した、という話です。
蟹山伏はこの話をルーツにしたと考えられていますが、民話では蟹の精は退治されるのに、狂言では反対にとっちめられるところが面白いところです(しかも殺されるわけじゃなく耳を挟まれる程度なのが微笑ましいですね)。
狂言では蟹の精など人間以外の役の場合に面をかけますが、子供が演じる場合には面をかけないんだそうです。
本日の子方は素人のお弟子さんとのことで、このように時々素人さんにも舞台を経験させているんだそうです。可愛らしく伸びやかに上手に演じていました。こういう経験をきっかけに、将来、狂言師になってくれれば嬉しいですね。
○狂言「花盗人」
他人の庭の桜の枝を盗んで、庭の主人に捕えられ縄をかけられた男。自分の不遇を儚み行為を悔いて涙を流し、桜にちなんだ古歌を詠みますが、盗人の風流な感性に感心した主人が縄を解いてやります。主人は盗人に酒をふるまい、謡や舞で宴となり、二人で桜を愛でます。満足した主人は盗人に桜の枝を与えます。
萬斎さまによると、笑うところはなく渋い曲、大蔵流の方が面白い、と仰っていました(笑)大蔵流はたくさん人が出てきますが、和泉流は登場人物が二人です。しかし、花尽くしの古詩、古歌、小謡、小舞が次々と披露されて味わい深い芸を楽しむことができ、舞台上に桜の花が飾られて春を感じられ、私は大好きな演目です。
万作さまが縄をかけられて、泣くシーン。なんだか最近、万作さまの泣くシーンをよく見ているような。万作さまの泣き姿は本当に可哀そうで見ているこちらまで切なくなります。あぁーーー、泣かないでください、万作さま…。でも、最後にめでたく終わってホッとします。
狂言には対立している者同士が最後に仲良くなりめでたく終わる曲がたくさんあります(もちろん、やるまいぞやるまいぞ~と怒られて終わるのも多いですが。笑)。風流だからと言って許してあげるところなどは心の豊かさや懐の深さを感じます。世知辛い世の中でも気持ちは斯くありたいものです。
○狂言「六人僧」
三人の男が諸国仏詣の旅に出かけるが、道中、絶対に腹を立てないという誓いを立てる。夜、一人が熟睡しているところ、他の二人がいたずら心を起こして、寝ている一人の頭の毛を剃ってしまう。目を覚ました男が二人の仕業に気付いて憤慨するが、腹を立てない誓いを立てたと返されて二人を責めることもできない。男は何とか仕返しをしたいと思う。国元へ帰り、二人の男の妻を訪ねて、夫らは川で溺れて死んでしまった、そのため自分は二人を供養するために頭を丸めて出家したのだと嘘をつく。二人の妻は悲しみ後を追って自害しようとするが、男はそれを止め、出家して供養するのがよかろうと勧め、二人の妻の頭の毛を剃ってしまう。そうして男は二人の男のもとへ引き返し、妻たちが夫は浮気するために旅に出たという噂を本気にして嫉妬に狂い刺し違えて死んだと嘘をつく。二人は最初は仕返しの嘘に違いないと信じないが、男が剃髪して得た妻たちの髪の束を遺髪だと言い差し出すとすっかり真実だと思い込み自分たちも仏門に入る決心をし頭を丸める。ところがじきに二人の男が真相を知るところとなり、妻たちをそそのかした男の妻も尼にしてやろうと息巻くが・・・。
この演目は初めて観ました。和泉流にしかないらしく、あまり上演されない曲のようです。比較的長い曲ですが、ストーリー性があって登場人物も場面展開も多く、たいへん面白かったです。
いい大人がいたずら心を起こして実行しちゃうところはいかにも狂言ぽいですが、ここまで演劇的な展開の曲は珍しいのではないでしょうか。次はどうなるんだろうとドキドキしながら拝見しました。
最初にいたずらされたシテの石田幸雄さんが機転を利かせて二人の男に一矢報いるところ、一枚上手な感じはさすがです。痛快でした!