日経能楽鑑賞会「咲嘩」「求塚」

日経能楽鑑賞会は、日本経済新聞社が開催する喜多流の友枝昭世さんと観世流の浅見真州さんのおシテで同じ演目を二日間に分けて競演する会で、今年で第八回となります。狂言についても同じ和泉流ではありますが、野村萬さん、野村万作さんがやはり同じ演目でそれぞれおシテを勤めます。比べっこが好きな私には嬉しい会ですが、平日で開演時間も早いということで、なかなか両方観るのは難しく。今回は一日目の喜多流を観に行って参りました。

狂言「咲嘩」(さっか)

太郎冠者が主人に伯父を連れてくるよう命じられたがひょんなことから咲嘩(詐欺師)を連れてきてしまう。主人は咲嘩を穏便に帰そうとするが、太郎冠者が馬鹿正直さを発揮して主人をヤキモキさせる話。
野村万作さまが演じる太郎冠者は設定では馬鹿キャラなんだけど、最終的には主人をおちょくっているような流れになっていきとても面白かったですぅ~(*´▽`*)

能「求塚」(もとめづか)

《ざっくりあらすじ》
二人の男に求愛された女が態度を決めかねて二人を勝負させるが決着がつかず、女は自らの罪を感じて入水する。女は地獄に墜ち責め苦に見舞われる。旅の僧が女を成仏させようと祈りを捧げるが・・・。

このお話、たぶん観た人ほとんどが感じることは「女は地獄に墜ちるほど悪いことしてないじゃん!」…だと思います。

女は二人に結婚相手としての決め手がないことから、生田川の鴛鴦を射た方の求婚に応じると言います。二人が射た矢は同時に一羽の鴛鴦に命中します。あらあら困った、決まらない。ここでPK戦サドンデス方式なら決まるまで何度でも対決させられますが、そう何羽も鳥を射るわけにもいきませんよねー。女は鴛鴦を犠牲にしてしまった罪悪感から自らの命を絶ってしまうのです(だったら最初からそんな勝負させなきゃいいのにね…(´ヘ`;))。

入水した女の遺骸が引き上げられ、求塚に葬られます。女の死を知った二人の求婚男たちは、塚の前で刺し違えて二人とも死んでしまいます(←ここちょっと不思議です。なんであんたらまで死ぬの!?)

自殺した女は地獄に墜ちます。女はなぜ地獄に墜ちなければならなかったのでしょう。当時の仏教思想では、そもそも女は成仏できないものらしいですよ。女であること自体が罪であると考えられていたのです(んまぁ、理不尽な!ヽ(゜Д゜)ノ)。ましてや罪もないオシドリを愛を試す道具にして殺してしまい、男二人を手玉に取り(?二股かけてたわけではないんですけど)終いには死なせてしまった罪は重い。それで地獄に墜ちてしまったのでしょう。

地獄で女は二人の男の霊から責められ、犠牲にしたオシドリから攻撃され、そのうえに様々な八大地獄の責めに遭います。

女は思ったでしょう。「なんで私がこんな目に!?」たまたま二人が同時に求婚してこなければこんなことにはならなかったのです。輝かしい未来が待っているはずだった若く美しい女性には思いも寄らなかった運命。晴天の霹靂とはこのこと。

現代なら、どちらも振ってしまうか、とりあえず二人ともとつきあってみて良い方を選ぶ、ということもできたでしょうが(笑)

さて、お能の方ですが、おシテは人間国宝の友枝昭世さまです。好きな能楽師さんの一人です。求塚は重い曲ですが過去にも何度か勤められている模様。

前場は菜摘女の姿でツレ2名と一緒に登場してきます。旅の僧(ワキ)が求塚の所在について尋ねますが、さあねぇ~わからないわ、アタシたち忙しいのよん、と軽くあしらわれたり。この辺、キャピキャピとした(←死語?)若い女のグループがおじさんをからかっている(?)感じで季節も早春で明るい雰囲気です。

ツレとワキのやりとりの間、シテは何やら曰くありげな様子を醸して佇んでおります。

ツレ2名が退場してシテだけが残り、なにゆえアナタだけ残ったの?という僧の問いに、女が昔話を始めますが、最初は他人事のように語っていたのが、実はそれは私の話なのよ~という流れになり、空気が一変します。(この辺、二人静で静の霊が憑依する展開に似ています。同じ菜摘女だし~)

自分の話を語り終えた女は舞台中央に設置された作り物(求塚)の中に入ります(中入り)。

塚の中のシテがお着替え(=後見が着替えさせている)中、間狂言の野村萬斎さまが登場し、女と二人の求婚者の話をより詳しく説明します。要は同じ話のおさらいなのですが、シテの謡に比べるとアイの語りの方が言葉がわかりやすく、またシテの謡では語られなかった内容を若干補足していたりしますので、観客にとっては理解の助けとなります。

ワタクシ、アイが出てきて話し始めると前場の緊張から解き放たれ少しリラックス気分になり、姿勢を崩して体をほぐしたり、時には居眠りしちゃったりすることもあります(狂言方の皆様、ごめんなさ~い_(_^_)_)。
しかしながら、近年の萬斎さまのアイはとてもよろしいので常にしっかと観ております。今回地謡でご出演された粟谷明生さまが「萬斎氏の語りは、単なる物着時間稼ぎの境地を離れ、ひとつの演劇として成立していた」と仰っていましたが、全くその通りだと思います。
以前にある狂言方さんが「経験を重ねるにつれ間狂言の方にこそやり甲斐を感じるようになってきた」と仰っていたことがあり、確かに派手なアクションで補えない分、語りの力量が問われる役なのかもしれないな~と思いました。

さて、お話も終わり(着替えも終わり)、後見が作り物の真後ろにいったん着座します。お囃子の演奏が始まり、じきに中からシテが謡うのが聞こえると、後見が作り物の引き回し(周りを覆う布)を外します。すると、前場では小面をかけていたシテが地獄の女を象徴する痩女という面をかけて登場します。この瞬間、シテの居場所である作り物は求塚から地獄の火宅へと変わったとみなしましょう。

痩女…。中年女の顔のように見えますが、本当は若くして亡くなった女性です。しかし地獄の責め苦に遭って弱り果てすっかり痩せこけてしまったということなのでしょう。

僧が可哀相に供養してあげますと言うと、女はありがたや~と嬉しそうにしますが、その直後、いきなり恐怖に満ちた態度に一変し地獄の責め苦を描写し始めます。ここからの昭世さまの演技は、能にしては珍しくとても写実的でありました。はっと体を引いてみたりビクっと驚くような仕草を見せたり、身体全体を使って自分の身に起きていることを一つ一つ表現していきます。

謡も地獄の責めの苦しさ耐えがたさを生々しく伝える迫力ある詞章であります。二人の男の亡霊それぞれから左右の手を引っ張られて責められ、犠牲にしたオシドリは恐ろしい鉄鳥に姿を変え、女を猛攻撃します。女は鉄鳥のクチバシで脳天を突かれ脳髄を吸い取られます(ひえぇぇ~~~~(((;゚д゚))))。逃げようとしても前は海、後ろは火焔、逃げ場がなくてすがりついた柱もたちまち炎となり体は焼かれ、地獄の鬼どもに鞭で打たれ、八大地獄の全ての責め苦を負わされ、ついには無間地獄の底に上下逆さまに落とされます。シテは必死にワキに助けを求め、ワキも読経し続けますが、願いも空しく、シテは再び火宅(地獄)へと戻ってゆきます。

地獄のすさまじさを表現するために、地謡はかなり激しい感じで謡うのかな~と予想していたのですが、今回、少々抑えめに謡われていました。ちょっと意外でしたがこれがかえって良かったように思えました。地の底から響くような抑えめの地謡が、少しばかりの罪に対して過剰なほどの罰を受けることになった不条理さや、耐えがたい地獄の苦しみが未来永劫続く絶望感をひしひしと感じさせる効果を与えていました。

私には地謡がまるで読経しているように聞こえました。実際に読経しているのはワキなのですが、そんな読経で八大地獄の罰に値する罪深さを救うことなど不可能なのだと突きつけられるかのように・・・。

一般的な能のストーリーには、シテが救いを請う→ワキが供養→めでたく成仏\(^O^)/…というパターンが多いように思いますが、その場合は地謡も元気よく謡ってパァーッと気持ちよく終わることが多いです。しかし、今回は成仏できなかったどころか、再び苦しみの世界に自ら戻っていくのですよね。地獄の責め苦の様子を恐ろしげに描写しながらも、シテの救いを求める気持ちから諦観や絶望感へ至る心の変化がよく表れていました。何とも心が痛くなる結末です。

求塚、奥が深いですよね~。比較のために二日目の観世流も観てみたかったですね。でも、あまりに救いがなく凄惨極まりない重すぎるお話なので、二日続けて観るのはちょっとエネルギーが要るかもしれません。

Musical Live 「レ・ミゼラブル」

本日はお友達で役者の橋爪紋佳さん、佐々木恭祐さんが出演する Musical Live「レ・ミゼラブル」を観るために西新宿へ。

「レ・ミゼラブル」といえば超有名でミュージカルや映画もヒットしているようですが、ワタクシ今まで一度も拝見したことがございません。小学生の時に児童向けの書籍で読んだくらいですぞ。知っていることといえば、ジャン・ヴァルジャンという主人公の名前と、教会で銀の食器を盗んだり銀の燭台をもらったりするエピソードだけ(最初だけやん!)。

自由席なのでなるべく良い席をゲットしようと開場時刻の12時半めがけて会場の関交協ハーモニックホールへ。しかし、到着すると既に長蛇の行列が!しまった、もしや出遅れたか!?

受付でチケットを受け取り、客席内に入ると既に前の方は席が埋まっている様子。スタッフの方が誘導を行っていて「何名様ですか?」との問いに「4人です」と答えると、なんと「最前列が空いております」との返答。迷わず最前列へ。1列12席しかない細長い会場、ほとんどど真ん中。ラッキー~~\(o^▽^o)/

開演時間13時、前説(?)の男性が登場し、楽しいトークで、ミュージカルライブとは?という説明や、観劇中の注意事項や拍手の練習などで観客席をなごませます(TVの公開放送みたいね。笑)。

いよいよ第一幕の開演です。

いきなり物語が始まるのではなく、まずキャストの方々が一人ずつ歌いながら登場。おー、なんか宝塚みたい.。゚+.(・∀・)゚+.゚って、宝塚も一度しか観たことないですけど(笑)

我らが紋佳ちゃん(ファンティーヌ)、恭祐くん(アンジョルラス)も最初から登場して歌います。二人とも歌上手~~(*´▽`*)

舞台がかなり近くて低いので役者さん至近距離です。歩く振動まで伝わってくる近さで臨場感たっぷり。ワタクシちょうど紋佳ちゃんの立ち位置の目の前で、気のせいかも知れないけど目が合ったような気がするの(*^^*) なんか照れる~(*/▽\*)

物語が始まりジャン・ヴァルジャンが登場し教会で食器を盗むという(私にとって)お馴染みのシーン。記憶では神父だったような気がするけど、この舞台ではヴァルジャンを救ったのは二人のシスターでした。

第一幕は主にファンティーヌの物語であります。ファンティーヌ役の紋佳ちゃん。幼い娘コゼットのために身を粉にして働き、生活苦から売春婦に身を落としながらも娘への愛は決して忘れず、最後に病にかかって亡くなるまでを精一杯熱演しました。紋佳ちゃん素敵すぎ(*n´ω`n*)

第一幕が終わり、あーー紋佳ちゃんもう出てこないのか~としょんぼりの私たち(´-ω-`)

子供の頃に読んだお話にはなかったエピソードがたくさん出てきたので、へぇ~~こういう話だったのね、と初めて知りました。

休憩後、再び前説のお兄さんが登場し、第一幕は拍手するところ少なかったですけど第二幕はたくさんありますからね~などとまた楽しいトークがあり、第二幕開幕です。

第二幕は労働階級の若者たちで組織された結社の革命活動と、そのメンバーの一人マリウス、および、ファンティーヌの娘で今はヴァルジャンの娘として暮らすコゼットの恋愛物語が中心となります。

ここからはアンジョルラス役の恭祐くんが大活躍!明治座での江戸の町人役も元気いっぱいで良かったけど、フランスの闘う革命家の役、キリッとしていてめっちゃカッコええわぁ~~(*´▽`*) しかも今回はメインの役。出番も多くて嬉しい限りです!

彼の出演した明治座のお芝居の話はこちら↓
「きりきり舞い」@明治座

何と言っても若者達が決起するシーンとクライマックスの暴動シーンが手に汗を握る展開で観ているワタクシも非常に興奮いたしました。舞台上を走り回る若い人達を観ていて、あぁ、若いってええなぁ~~(´ー`)・・・としみじみ感じておりました。世の中の変革を信じて熱く行動する劇中の彼らと、このライブに汗を流して精一杯取り組んでいる役者の彼らと、両方に対してそんな思いを抱いたのであります。

暴動シーンでは王政側のキャストは1人だけしか出てきません。仮面をかけて軽々とした身のこなし、ダンスめっちゃ上手~~~。誰!?って思っていたら、あの前説のお兄さんじゃありませんか!いったい何者なんでしょう??プログラムにプロフィールが載っていないようなんですが。いったい誰なのか?教えて、偉い人!

勢いよく決起した若者達ですが、暴動は王政側に鎮静されていき、若者達は不利な状況に立たされます。

マリウスへの想いを胸に秘めながら告げることができず、マリウスの身をかばって銃弾を受けたエポニーヌがマリウスに抱かれながら息を引き取るシーンは可哀相すぎて涙~~(T_T)

暴動でほぼ壊滅した市民軍ですがマリウスだけは生き残ります。マリウスはコゼットと結ばれ、負傷した自分を救ったのがジャン・ヴァルジャンと知ります。コゼットからヴァルジャンの過去と真実を全て聞き、二人でヴァルジャンを教会に迎えに行きます。しかし、ヴァルジャンは静かに天国に旅立つのでした。

このとき、ファンティーヌ役の紋佳ちゃんが再登場しました。天国からヴァルジャンを迎えに来たのでしょう。教会でのこのシーンはとても感動的でした。罪人として長年生きてきたが、教会で盗みを許されて以来、善人として生きることを決心し、聖人のような後半生を生きてきた。それでもコゼットが幸せになったこのときになってようやく彼は肩の荷を下ろすことができたのだなと。もう、涙が止まりません~~~~(T_T)(T_T)(T_T)

最後に役者さん達がまた一人一人自分のテーマソングを歌いながら舞台上でご挨拶です。あぁ~、宝塚を観ているようです(だから一度しか観ていないんですけどね)。

今回、ミュージカルではなく、Musical Liveと銘打たれていましたが、音楽が全て生バンドの演奏なのでした。ギター、ピアノ、ベース、ドラムスの4人のミュージシャンの皆さんが上手の舞台袖で演奏なさっていました。前方の左側に座っていたお客さんには全員見えたと思うのですが、私は右側に座っていたのでダルビッシュ似のピアニストさんしか見えませんでしたが、スピーカー近くで音の迫力はすごかったです。

ワタクシはいろんな舞台を観ても感動はしてもあまり泣くことはないんですが、今回感極まってしまった理由の一つが音楽にあったような気がします。元々の楽曲の良さももちろんありますが、どの役者さんの歌もとても素晴らしく心の奥底に訴えてくるような力がありましたし、楽器の演奏も存分に気分を高揚させてくれるものでした。音楽の力ってすごいなぁ~~と思いました。若い頃はあまりミュージカルを好まなかったんですが(タモリさんがミュージカル大嫌いと公言していた影響が大きいような気が…。別にタモさんファンじゃありませんけど。笑)これからはもっと観に行ってみたいです。

感動の幕が下り、帰り際に紋佳ちゃんと恭祐くんとも挨拶できて、記念撮影までしていただいちゃいました。本当に素敵なお舞台でした。楽しい時間を本当にありがとう!

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紋佳ちゃんを囲んで
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紋佳ちゃん、恭祐くんと。他の役者さん方にも無理矢理入って頂きました。ありがとうございました♪