観世能楽堂で「花影会」を観て参りました。
<演目>
能「采女」
狂言「成上り」
能「正尊」
他、仕舞三番
「正尊」【ざっくりあらすじ】
頼朝の命を受けて義経を討ちに行った土佐坊正尊だが、陰謀がばれそうになり義経&弁慶の前で起請文を書いて読みあげ、そんなつもりないよ~んと弁解する。その夜、シメシメばれなかったゾと思いこんでた正尊は夜討ちを決行するが、しっかりばれていて義経側に迎え討たれ縛り上げられ連れて行かれちゃった。
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起請文(きしょうもん)とは、人との約束を破らないことを神仏に誓う文書のことです。正尊は身の潔白を示すために「討ちに来たわけじゃないことを神々に誓う。もし破ったら地獄に落ちてもやむなし」という契約書を書いたわけです。
「正尊」は1時間ほどの短い能ですが、見どころがたくさんある作品です。そのうちの1つが起請文の読み上げです。「正尊」の起請文を読む部分は、「安宅」の勧進帳、「木曽」の願書と並んで、三読物と呼ばれていて、いずれも重習(=長い修練を積んだ後に習得と上演が許されるもの)です。
シテが起請文を読み上げるシーンですが、実際には何も書いていない白紙を手に持って読みます。勧進帳ならば何も書いていないものを読むという設定だからそのまんまだけど、起請文の場合は何かデタラメでもいいから書いてあった方がいいんじゃないの?と思いましたが、能はイメージで鑑賞する芸能ですから、観客の方も、そうね、何か書いてあるのよね、と想像しながら観るお約束です。
シテは直面(能面をかけていない)で、私は脇正面最前列で起請文を読むシテの真ん前だったため、表情がよく見えました。すると、ちゃんと目線が文字を読んでいるがごとく動いているんですよね!そうするように師匠から習うのかもしれませんが、面をかけている時はきっと顔は動かしても目線までは動かしませんよね。直面ならではの細やかな演技にちょっとした感動!ガラスの仮面で北島マヤがパントマイムでティーカップの持ち手を持つとき、手がテーブルから浮いている!と驚愕されたシーンを思い出しました。マヤ、なんておそろしい子!(わかる人しかわかりませんね。笑)
さて、話はワープしますが、最後に正尊がたくさん家来を連れて討ち入りしてきます。正尊と家来9人がぞろぞろと橋懸かりに登場します。橋懸かりに入りきるのがちょっと窮屈なくらいぎゅうぎゅう詰め(+_+) 全員、直面です。今日はイケメンのツレが多くて眼福でした(笑)本舞台上には、義経、弁慶、静御前、義経の家来2人、その他に、地謡8人、囃子4人、後見2人いますんで、一時は舞台上が29人にもなります。登場人物、多すぎでどこ見たらいいかもうわかりません(笑)
全員集合したところで正尊勢vs義経勢の斬り組がはじまります。斬り組というのはわかりやすく言えばチャンバラのことです。能にゆったりしたイメージをお持ちの方にはチャンバラ?って思われるかもしれませんが、あるんですよー。しかも、正尊の斬り組はかなり派手でアクロバティックな型の連続に、初めて見る人はたぶんビックリです!
正尊の郎等が次々と斬られていきます。正尊勢の方が人数多いのに、義経側のたった2人しかいない家来に簡単に斬られていきます。まあ、水戸黄門の助さんと格さんのようなもんですね(笑)
時代劇なら斬られた後は、その場に倒れて動かなくなるか、斬られたぁ~という体でフレームアウトするかだと思いますが、能の場合は「今斬られて死んだよ」というお約束の型をします。それが、飛び安座だったり、前方宙返りだったり、仏倒れ(直立したまま後ろに倒れる)だったり、とにかく驚くほどの派手な型!下手すれば怪我をしかねない危険ワザの数々です。
正尊の郎等のうち最後に斬られた姉和光景は、前方宙返り+仏倒れと二つを連続でこなしました。仏倒れは床直前まで後頭部が下がっていたのに着地するときはちゃんと背中から着いていました。ま、背中からでもかなり痛そうですが・・(>_<) 能楽師さんの運動神経は想像以上に優れているようです。
正尊の家来が全員倒された後、正尊と弁慶の一騎打ちになるんですが、最初二人とも長刀を振り回して激しい斬り合い、しまいに二人とも長刀を捨て、相撲のごとく取っ組み合いを始めます。今日のワキ弁慶は人間国宝・宝生閑さま、年初に体調を崩されていましたが、今日は速い動きも多く、長刀を振り回したり、最後には取っ組み合いまでなさって、もう完全復活と思ってよろしいですね!?閑さま贔屓のワタクシといたしましては、感無量でございます~(T_T)
最後に弁慶が正尊を押しつけて勝ち、二人の家来が正尊に縄をかけて連行するんですが、その連れて行かれ方がまた仰天。正尊は斜めに仰向け気味に身体を預けるような体勢で二人の家来に抱えられ、三人並んでものすごい勢いで橋懸かりから幕に走り込みます。まるで連れ去られた宇宙人のようでした(笑)
最初の能が「采女」という典型的な夢幻能(霊的存在が主人公)であり、いかにも能らしい世界観が表現されていました。終始ゆったりした流れで2時間以上かかる曲ですので、お能に慣れていない方にはちょっと忍耐がいるかも(^_^;) 今日は若手中心の出演者で構成され舞や謡も瑞々しくとても良い舞台だったと思います。
対照的に「正尊」は現在能(現実世界の出来事を描写)で、シテやツレも能面はかけず(生きてる人間だから)、時間も短く登場人物が多くて動きが派手で、初心者にもお勧めの演目です。私もこの手の能は好きでよく観に行っており「安宅」(勧進帳)なども大好きです。次の「花影会」(11月)は「安宅」を上演するそうです。ご興味がある方はいかがでしょう?歌舞伎の勧進帳と見比べてみるのも面白いと思いますよ!