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宝生流企画公演「夜能」

今宵は宝生流企画公演「夜能(やのう)」@宝生能楽堂。
平日の夜に能とその他の伝統芸能を気軽に楽しむ企画が始まりました。

第一回の本日、伝統芸能のお相手は、雅楽「二つの鼓」。鞨鼓と三ノ鼓が登場。雅楽と言えば笙や篳篥、龍笛などの管楽器がまず思い浮かび、打楽器のことは恥ずかしながらこれまであまり気にしたことがなかったのですが、詳しく解説していただいて興味が湧いてきました。

鞨鼓は能の小道具として登場する鞨鼓よりは大きく、木製の台の上に横向きに置いて、2本のバチで両方の面を打ちます。
三ノ鼓は鞨鼓よりさらに大きく、床に直接横向きに置いて、左手で調べ緒を握り、右手のバチで打ちます。
ちなみに、鞨鼓と三ノ鼓は演奏曲のジャンルが違うため同時に演奏されることはないそうです。

演奏曲の一曲目は「太食調 合歓塩」を鞨鼓と笙、また、篳篥は唱歌(しょうが)で。篳篥の唱歌というものを初めて聞きました。二曲目は「高麗壱越調 貴徳急」を三ノ鼓と篳篥で。本来であれば舞が入る曲だそうです(今回は楽器の演奏のみ)。

能「放下僧」。兄弟が父の仇討ちをするお話。昨日の「鉢木」に引き続き、本日も現在能です。

「放下」というのは大道芸の一種で、「放下僧」は放下を行う僧、または、僧形で放下を行う者のことを呼ぶそうです。

ツレの弟、ワキの敵役にはちゃんと名前があるのに、主人公のシテには名前がなくて「小次郎の兄」となっています。解説で宝生流の和久さんがバカボンのパパに例えていたのがウケました^^*

禅問答の話芸や曲舞・鞨鼓の舞・小歌と芸尽くしが見どころになっています。芸で敵を油断させる同類の曲としては「望月」がありますね。

放下僧の芸が盛り上がりを見せた頃、敵役のワキが笠だけ残してスタスタと立って歩いて切戸口より退場してしまい、兄弟は本人がいなくなった笠に向かって刀を突き立て仇討ちを成し遂げます。おそらく能を初めて見る人にとっては珍妙なシーンだと思うんですが、生々しくならないために考えられたのか、いかにも能らしい面白いお約束ごとですね。あえて解説の時には説明されなかったんですが、初めての方にもわかってもらえたかしらん?

延年之會 第参回「コンメディア合戦!! イタリア仮面劇 vs 狂言」

和泉流狂言師・小笠原匡さんが主催する、延年之會 第参回「コンメディア合戦!! イタリア仮面劇 vs 狂言」を拝見しました。

イタリアで16世紀に発祥した伝統的仮面劇であるコンメディア・デッラルテはヨーロッパでの商業的な演劇の起源だそうです。

シェークスピアやモリエール、セルバンテスなどのヨーロッパの名だたる劇作家たちがコンメディア・デッラルテの影響を受けて創作したというのですから驚きです!

狂言と共通するところは、どちらも仮面を使用するところ、また、喜劇であること。

使う仮面によって役柄や性格が決まったり、お金に執着する父親や主人を恐れる召使いなど「お約束的なキャラクター」が出てくるところ、「お約束的なストーリー設定」が存在するところなどは、狂言によく似ています。

一方、狂言と異なる特徴としては、台本はなく粗筋だけが決まっていてあとは即興であること、風刺性が何よりも際立っていること、女性の役者が登場することなど。

綺麗な女優さんの顔が見えないのはもったいないので、女優は面をかけないんですって。女優を起用してから観客も増えたそうな^^*

狂言と違って、性格の良い人は出てこないんだそうです。だから母親は登場しないんですって。さすが、お母さんを大切にするお国柄ならではですね。マンマミーア!

さて、今回の上演では、狂言とのコラボがどのような形で提供されるのか、始まる前から興味津々!o(^-^)o

前半は、古典的な狂言の演目と典型的なイタリア仮面劇の名場面をそれぞれの役者により一番ずつ上演。

そして後半は、前半に上演した古典狂言を翻案したイタリア仮面劇が上演されました。

観る前はイタリア語のお芝居が理解できるか心配でしたが、日本人の役者さんが日本語のセリフを途中で入れたり、イタリア語だけでなく、英語セリフも混ざっていたので、全然大丈夫でした!

また設定がわかりやすく、台詞回しや動きも大袈裟で面白いので、言葉がわからなくてもとっても楽しめました。現代のコントにも相通じる感覚で馴染みやすく、ボケツッコミ、ノリツッコミのような、関西芸的な一面も(笑)。

狂言の演目の翻案作品は、題材の狂言を観た後だったので、特に理解しやすく面白くて大笑いしちゃいました♪
狂言の「附子」が「ウラン」になって防護服を着ちゃったりして、現代的な風刺が入っていてなかなかブラックでしたね~。

鏡板に近づきすぎたイタリア人役者さんに小笠原さんが「あんまり近づかないで、怒られるから!(^_^;」とかアドリブで言ってて笑っちゃいました(笑)。
役者が観客席から登場したり、キザハシ(能舞台の正面にある階段)を昇り降りしたり、普段の能狂言の舞台ではありえない演出もたくさんありました。

正直、能舞台でここまでやっちゃってもいいの??という演技もかなり多かったですが、そのハチャメチャ感は決して嫌いじゃないです(笑)

この企画は今回が初めてなのかなと思ってましたが、大阪では以前から上演していたそうで、東京は初お目見えだそうです。

大阪と東京では能楽堂の対応や観客の反応も違うため演出などは変えた部分もあるとお聞きしました。即興の舞台芸術においては当然なことなのかもしれないですが、ご苦労なことも多かったと思います。本当にお疲れ様でした~。

古典狂言の方には東京公演のみ野村万蔵さんが特別出演、やはり華があり舞台が引き締まりますね^^*

イタリア人役者のアンジェロ・クロッティさん、アンドレア・ブルネェラさんはイタリアのみならずヨーロッパ各地でご活躍の俳優さんだそうです。少しお話させていただきましたが、とても楽しくてチャーミングなお二方でした♪

これまで狂言師としてしか拝見していなかった小笠原さんの今回の舞台役者っぷりはとても堂に入っていて、つくづく多才な方だなぁ~と感服いたしました。

女優のTAKAKOさん、これまで能楽堂のロビーでおしとやかな和服姿はよくお見かけしていたのですが、今回初めて舞台上でのご活躍を拝見することができ、いきいきとしたコメディエンヌぶりがとても素敵でした♡

若い神宮一樹さん、とても上手なのでてっきり本職の役者さんだと思っていましたら、ご本人にお伺いしたら小笠原さんの狂言のお弟子さんだそうで、イタリア留学時のご縁でこの演劇に出会い舞台に参加する運びとなったそうです。これからもぜひ頑張って続けてほしい!

おかげさまで楽しい時間を過ごしました。小笠原匡さんは次回はどのような驚きを我々に提供してくださるのでしょうか!?とても楽しみです!\(^O^)/

第73回 野村狂言座

今年初めの野村狂言座を拝見。素囃子の神舞に狂言四番と年初にふさわしい豪華なラインナップ。

「松楪」
祝言的な演目。前半お決まりのやり取りが寄せては返す波のようでついつい眠りの世界へzzz。最後に二人が一体となって舞うのは珍しく面白かった。

「磁石」
名古屋の野村又三郎さん一門がゲスト出演。又三郎さんは近ごろ東京の舞台で何度かお見かけする機会に恵まれ、お若いのに貫禄も実力も十分でキャラクターも良くファンになりつつある。又三郎家の「磁石」は同じ和泉流でも万作家とはまた違うのだそう。どこがどう違うかまではわからなかったけど、とても楽しく拝見した。

「節分 替」
「替」と付くのは小書き(特殊演出)で、通常はシテが謡いながら舞うところ地謡が出て代わりに謡う。老熟の域に達した万作さまの体力を考慮しての新たな演出とのこと。また、万作さまは最初は鬼の面をかけて登場するのだが、途中で(舞が本格的に始まるあたりで)面を外された。これはストーリー的には不自然な感じがしたので、やはり体力面を考えてのことなのだろうか。最初からそういう演出だったのか舞台上の機転なのかはわからない。

実はこの「節分」、チラシには袴狂言(=装束をつけない)で演じると掲載されていた。しかし、実際には装束をつけて上演された。鬼の面をつけて謡ったり舞ったりするのは体力的にかなりきついために袴狂言にするつもりだったのだろうか。装束をつけるよう変更した理由の説明は特になかった。

このところ万作さまは舞台上で動いた後に呼吸が荒くなることが多くなっている。昨日はかなり後方の席だったのに息づかいの音がはっきりと聞こえて心配になるほどだった。しかしながら、身体的な表現はいまだ全く見劣りしない。型や足取りはしっかりしていて座った姿勢から立ち上がるときも全くぶれないし、転がったり跳んだりも問題なく。ご高齢のためにお声は小さくなり心肺能力は衰えてきているとしても、身体の強靱さと動きの正確さは84歳の年齢を感じさせず、まさに超人的。

鬼が人間の女に心を奪われて小歌を謡い艶っぽく口説くところは「花子」を思い出させる。鬼が女に袖にされて「エーンエーン」と泣くところで多くの観客は笑っていたけれども、私は一緒に泣きたかった。万作さまが演じられると笑いだけに留まらず愛や悲しみや皮肉もいろいろ入り交じった深いドラマになるような気がする。芸域の深さってこういうところに出るんじゃなかろか。

「仁王」
これは登場人物も多く素直に笑える表現が多くて文句なく楽しい演目なのだが、近くの席に最初から最後までけたたましく爆笑している人がいて、それが少しばかり体調の悪かった私にはストレスになってしまった(不運)。そのせいなのか、いつも濃いめの演技の萬斎さまが今回は特に脂っこく感じてしまったな。シテの石田幸雄さんは相変わらずとても良かった。

全体として盛り沢山の内容であったが「やっぱり万作さま!」の一言に尽きる。「節分」だけ観たとしても来た甲斐があったと十分に思わせるこの存在感。ご高齢でお身体の心配はついて回るし、苦しそうな息づかいでお気の毒に感じることはあるのだけど、まだまだお舞台を拝見し続けたい!と切に願う。

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宝生能楽堂ロビーに飾られている鏡餅

桑田貴志 能まつり「碇潜」

本日は「碇潜」(いかりかづき)という能を拝見しました。上演機会が少ない演目ではないでしょうか、ワタクシも初めて観ました。

何と言っても印象的だったのは、シテが扱う大きな碇の作り物です。写真のチラシを見て頂きますと、ピンとくる方もおられると思いますが、そう、歌舞伎や文楽の「義経千本桜」の「碇知盛」ですね。
元々能「碇潜」の翻案により浄瑠璃の「碇知盛」の段が作られましたが、この大きな碇の作り物を使う演出は、歌舞伎・文楽の「碇知盛」から能に逆輸入されたものなのだと解説にありました。へぇ~。そもそも原典の平家物語には知盛が入水の際に碇を担いだという記述はないんですよね。能で生み出された碇のイメージを歌舞伎・文楽が視覚化して、それを能も取り入れたということなのですね~。

また、「大屋形船」というお能で最大の作り物も登場しました。後見が引き廻し(周りの布)を外すと中から4人も登場してビックリ!4人は安徳天皇、二位尼、大納言局、平知盛です。二位尼が幼い安徳天皇と共に入水する場面がありましたが、安徳天皇と同じ年回りの子方が演じていることもあり、静かに船から踏み出す瞬間はやはり涙を誘いますナー。
その後、知盛が薙刀を振り回す勇壮な舞働があり、もはやこれまでと碇を頭上にかつぎ上げて海に飛び込むシーンは迫力満点で、脇正面席のお客さんの多くが体を乗り出して振り返って見るほどでした。船弁慶もそうだけど、お能の知盛って本当にカッコいいナ~。

本日は仕舞が「清経」「女郎花」で、入水に関係ある曲を集めたとのことでした。入水の理由や表現は様々ですが、なかなか粋な選曲でございますな。

第69回 野村狂言座

あけましておめでとうございます。

今年の初観能は「野村狂言座」でございます。

本当はこの前に別の能の公演を一つ観ているんですが、なんか内容がイマイチだったので、観なかったことにしました(苦笑)。

さて、野村狂言座です。これまで年間チケットで毎回木曜日に観ていたんですが、諸事情により今回は年間チケット買いませんでした。年末の公演だけ行こうと思っていたのにやっぱり無性に行きたくなり、行かれなくなった方から良席のチケットを譲っていただけた幸運もあり、金曜日の鑑賞です。

ところで、宝生能楽堂では最近、座席がリニューアルされました。以前の座席は布カバーがかけてあって、時間が経つにつれどんどんお尻が前に滑っていき偉そうな姿勢で鑑賞することになっていたのですが(私だけか?)新しい座席はなかなか座り心地が良いです。

そして、今回気づいたのですが、席番の付け方が変更になっていました。チケットを見ると、正面席へ列64番台。ん?60番台?以前はそんな番号なかったような。一列にはせいぜい20席ほどしかなかったはず。補助席(パイプ椅子?)でも出てるのかしらん、と思って座席を探していましたら、以前は10番台だった席に60番台が割り振られていました。つまり、以前は正面席と中正面席と脇正面席で番号が同じ席があったわけですが、新しい席番は、脇正面席ひと桁番台~10番台、中正面席20~30番台、正面席50~60番台として、各エリアで番号が被らないようにしたようです。慣れていない人は自分の座るべきエリアを間違えて、他のエリアの同じ番号に座ってしまったりすることがよくあったのでしょう。これは些細なことのようでなかなか評価できる変更です。

60番台という新しい席番
60番台という新しい席番

宝生能楽堂は自宅から一番近い能楽堂だし、トイレの個室が多くてどんなに行列が長くてもめちゃくちゃ捌けが良いので、好きな能楽堂です(どんな好きポイントなんだか。笑)

話を戻します。最初に野村萬斎さまの解説。時折ギャグを織り交ぜながら巧みなトークで会場を和ませます。加山雄三の歌がらみのギャグや「(ガール)ハント」というワードは昭和な人にしかわからないであろうに(笑)。ギャグというワード自体、ワタシが昭和だわw

萬斎さまの解説は絶好調で、5分オーバーする勢い。暴走する余り(?)客席に向かって「誰か止めてください」だって(笑)。「昨日はこんなこと話してないんですけどね、イマイチ伝わらなかったみたいなのでね(話を付け足してみた)」…とか(笑)。いつも木曜に行っていましたが、ひょっとしたら解説のみならず演目も、金曜に行った方が木曜の反省が生かされて完成度が高いのかもと思ったりしました。

さあ開演です。まずは囃子方のみによる素囃子「神舞」。正月公演ならではの豪華な幕開きです(幕はないけど。笑)。

つぎに狂言「夷毘沙門」。二人の神様が出てくるお話ですが、平日の会社帰りで疲れていたのか、ここで沈没しかけるワタシ・・・。

狂言「千鳥」はよく上演される演目ですが、太郎冠者が今回は萬斎さまでなく石田幸雄さんでした。萬斎さまは酒屋の役です。いつもと逆パターンの配役でちょっと新鮮。石田さんのお茶目な太郎冠者ぶりもなかなかいいもんでした。まあ、この演目はハズレがないですね。会場からも素直な笑いが起きてました。

休憩を挟んで、最後の演目が「若菜」でした。果報者(高野和憲さん)が海阿弥(野村万作さま)をお供に連れ、野遊びのため大原に出かけると、若菜摘みの大原女たちが通りかかり、二人が女たちを誘って酒宴が始まる、という話です。萬斎さまの解説によると、太郎冠者ではない海阿弥のようなキャラクターが出てくるのはこの作品ぐらいで、萬斎さまが10代の頃に出演された黒澤明監督の映画「乱」での秀虎と狂阿弥の関係性に通じるものがあるそうです。「乱」はシェイクスピアのリア王を題材に作られましたが、「乱」の狂阿弥はリア王の道化とは少しキャラが違う感じがします。黒澤監督は「若菜」を観て秀虎と狂阿弥の関係性を作り上げたような気もしますね。そういえば狂阿弥を演じたピーターに野村万作さまが狂言指導をなさったんですよね。息子が出演してるからなのかと思っていたけど、黒澤監督が能狂言から影響を受けていることを考えると、先に万作さまにオファーがあったと考えるのが自然ですね。

萬斎さまは「若菜」には「笑うところがない」と解説していましたが、確かにその通りでした。酒宴での謡や舞が聴きどころ観どころの作品です。皮肉なところが一つもなくて、誰も彼も性格が良くて、大原女たちは初めは恥ずかしがって誘いを断るのですが、再三の誘いには気持ちよく応じてお酌をし謡って舞います。万作さまの可愛らしくて味わい深い道化の演技も本当に微笑ましく、謡も舞もとても素晴らしかったです。萬斎さまも大原女の一人として出演されていました。お正月にぴったりのほのぼのした雰囲気で心が和みました。萬斎さまが、果報者を妬んだりしないで幸せな人がいるんだなと思って温かい目で観てほしいとおっしゃっていたのですが、実に幸せな気分にさせてもらえる良い作品に出会えた思いです。今年も良い年になりそうです(^_^)

ロビーにはお正月らしく鏡餅と酒樽が。
ロビーにはお正月らしく鏡餅と酒樽が。
能舞台にも正月飾りが。
能舞台にも正月飾りが。

野村狂言座「蟹山伏」「花盗人」「六人僧」

4月17日(木) 18:30開演 宝生能楽堂

○解説

本日の解説(※)は野村萬斎さまです。解説は万作の会の皆さんが持ち回りでなさっていますが、誰なのかは当日行ってみないとわかりません。(※)解説者が誰であるかはチケット予約サイトでわかるそうです。(ひろみさん情報ありがとう\(^_^)/)
18時30分と早い時間に始まるこの公演、解説に間に合わないことも多いんですが、本日は半休とって会場前に到着、間に合って良かったぁ。

さあ、今回、初めて知ったことは、和泉流は謡本を刊行できないそうで。理由は家元がいないから(へぇ~)。古本屋でしか手に入らない、と萬斎さま。確かに能楽堂で和泉流の謡本は見たことないわな。

さてこれ以降、萬斎さまの解説の内容も織り交ぜまして、各演目の感想などを。

○小舞「海老救川」「田村」

「海老救川」、各地の川の名とそこで獲れるいろいろな海老の名が出てくる楽しい曲です。萬斎さまが子供の頃、初めてお稽古した時に、謡の最後の一節で吹き出したと仰っていたので、一所懸命謡に集中して聴いていたら「海老のハナゲ」という文句が!鼻毛!?海老の触覚のことらしいです。いかにも小学生男子のツボにハマりそうな単語ですよね(笑)

「田村」は能から逆輸入した曲である、と萬斎さま。我々には狂言は能の先行芸能であるという意識がある、と仰っていました。確かに現在では狂言は能の添え物扱いになっているようなところがありますから(狂言の間に休憩している観客も少なくないですし…)それに対する反発があるようですね…。

○狂言「蟹山伏」

山伏物の演目は少ないが人気があってどれもよく上演される、と萬斎さま。

山伏と強力が山で正体不明の化け物と出会い、化け物がかけた謎かけを解いて蟹の精であると見破り退治しようとするが、逆に二人とも耳を挟まれてしまう。

各地に蟹問答の民話や伝説が残っています。謎かけを挑んで答えられなかった僧侶を次々と殺していた化け物を、ある僧侶が謎かけを解き蟹の精の正体をあばいて退治した、という話です。
蟹山伏はこの話をルーツにしたと考えられていますが、民話では蟹の精は退治されるのに、狂言では反対にとっちめられるところが面白いところです(しかも殺されるわけじゃなく耳を挟まれる程度なのが微笑ましいですね)。

狂言では蟹の精など人間以外の役の場合に面をかけますが、子供が演じる場合には面をかけないんだそうです。
本日の子方は素人のお弟子さんとのことで、このように時々素人さんにも舞台を経験させているんだそうです。可愛らしく伸びやかに上手に演じていました。こういう経験をきっかけに、将来、狂言師になってくれれば嬉しいですね。

○狂言「花盗人」

他人の庭の桜の枝を盗んで、庭の主人に捕えられ縄をかけられた男。自分の不遇を儚み行為を悔いて涙を流し、桜にちなんだ古歌を詠みますが、盗人の風流な感性に感心した主人が縄を解いてやります。主人は盗人に酒をふるまい、謡や舞で宴となり、二人で桜を愛でます。満足した主人は盗人に桜の枝を与えます。

萬斎さまによると、笑うところはなく渋い曲、大蔵流の方が面白い、と仰っていました(笑)大蔵流はたくさん人が出てきますが、和泉流は登場人物が二人です。しかし、花尽くしの古詩、古歌、小謡、小舞が次々と披露されて味わい深い芸を楽しむことができ、舞台上に桜の花が飾られて春を感じられ、私は大好きな演目です。

万作さまが縄をかけられて、泣くシーン。なんだか最近、万作さまの泣くシーンをよく見ているような。万作さまの泣き姿は本当に可哀そうで見ているこちらまで切なくなります。あぁーーー、泣かないでください、万作さま…。でも、最後にめでたく終わってホッとします。

狂言には対立している者同士が最後に仲良くなりめでたく終わる曲がたくさんあります(もちろん、やるまいぞやるまいぞ~と怒られて終わるのも多いですが。笑)。風流だからと言って許してあげるところなどは心の豊かさや懐の深さを感じます。世知辛い世の中でも気持ちは斯くありたいものです。

○狂言「六人僧」

三人の男が諸国仏詣の旅に出かけるが、道中、絶対に腹を立てないという誓いを立てる。夜、一人が熟睡しているところ、他の二人がいたずら心を起こして、寝ている一人の頭の毛を剃ってしまう。目を覚ました男が二人の仕業に気付いて憤慨するが、腹を立てない誓いを立てたと返されて二人を責めることもできない。男は何とか仕返しをしたいと思う。国元へ帰り、二人の男の妻を訪ねて、夫らは川で溺れて死んでしまった、そのため自分は二人を供養するために頭を丸めて出家したのだと嘘をつく。二人の妻は悲しみ後を追って自害しようとするが、男はそれを止め、出家して供養するのがよかろうと勧め、二人の妻の頭の毛を剃ってしまう。そうして男は二人の男のもとへ引き返し、妻たちが夫は浮気するために旅に出たという噂を本気にして嫉妬に狂い刺し違えて死んだと嘘をつく。二人は最初は仕返しの嘘に違いないと信じないが、男が剃髪して得た妻たちの髪の束を遺髪だと言い差し出すとすっかり真実だと思い込み自分たちも仏門に入る決心をし頭を丸める。ところがじきに二人の男が真相を知るところとなり、妻たちをそそのかした男の妻も尼にしてやろうと息巻くが・・・。

この演目は初めて観ました。和泉流にしかないらしく、あまり上演されない曲のようです。比較的長い曲ですが、ストーリー性があって登場人物も場面展開も多く、たいへん面白かったです。
いい大人がいたずら心を起こして実行しちゃうところはいかにも狂言ぽいですが、ここまで演劇的な展開の曲は珍しいのではないでしょうか。次はどうなるんだろうとドキドキしながら拝見しました。

最初にいたずらされたシテの石田幸雄さんが機転を利かせて二人の男に一矢報いるところ、一枚上手な感じはさすがです。痛快でした!

野村狂言座

本年初の能楽堂は、宝生能楽堂での「野村狂言座」。素囃子「神舞」、狂言「餅酒」「宝の槌」「岡太夫」と、新年を寿ぐ祝言色の強いラインナップ。お囃子つきでおめでたい舞や謡があったり、「岡太夫」は上演機会が少ない演目ですが(出演者の石田幸雄さん曰くあまり面白くないから。笑)夫婦円満で終わる話で、大爆笑の演目はなかったですが、ほんわか初笑いできました(*^_^*)
能舞台には松飾り、ロビーには樽酒と鏡餅が飾られていました。松の内はもう明けましたが、能楽堂では1月いっぱい正月飾りをする習慣になっているそうです。

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七人猩々

「七人猩々」はとっても楽しい能でした♪ 「猩々」はポピュラーな曲ですが、七人出てくるのは宝生流独特の演出だそうです。イメージ写真を作成してみました。能楽で初めてのフィギュア(?)猩々ストラップも購入しまいましたよ。能楽界きってのゆるキャラ「猩々」かわいいでしょ?
樽酒の鏡開きが行われて観客に振る舞われたり紅白大福をお土産で頂いたりおめでたい雰囲気でとっても楽しかったです~(*´▽`*)

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※イメージです。
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能楽界初フィギュア!猩々ストラップ

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お土産にいただいた大福

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鏡開きが行われ、樽酒が振る舞われました。

野村狂言座

今年初の能楽堂、昨日、狂言の会に行って参りました。
野村万作さまが定期的に行っている「野村狂言座」。演目は「鍋八撥」「素袍落」「業平餅」狂言のみ三番で解説つき。それと素囃子「男舞」。もちろん萬斎さまもご出演です♡

会場は少々、女子率高めな感じ(年齢問わず)? 狂言の会だからというのもあるかも。

そうそう、私の母も萬斎さまを大のお気に入りで、正月に帰省したときも萬斎イイ、萬斎オモシロイと連発してました。母は狂言の舞台を一度も観たことが無いのです。無いというのに何故に好き?テレビの「ぴったんこカンカン」で安住アナに狂言を教えるところを観て好きになったそうで。なるほどー。今度東京に遊びに来た時には、ぜひホンモノの狂言の舞台を見せてあげたいと思います。

正月のお能といえば「翁」でしょうが(もちろん「翁」もこれから観に行きますけどー)狂言の会で笑い初めするのも、縁起が良いですね~。狂言のみ、というのも気楽でいいです。予習も要らないし。お正月ということでおめでたい演目もあり、気持ちよく終わる作品ばかりでとても楽しかったです♪

「業平餅」は平安時代の歌人・在原業平が主人公。業平役は萬斎さまでした。最近、萬斎さまを見る時は、間狂言(能の一部として演じる狂言)か、頭の回転が速く悪知恵が働いたりいたずらをしかけたりするような役ばかりだったので、今回のちょっとのほほ~んとしてアホっぽい(笑)業平の役は、また全然違った味が出ていてなかなか面白かったですよ。

そして、万作さまの可愛らしさといったら・・!あんなに可愛らしい82歳がいるものでしょうか!?「業平餅」では、業平に醜女をおしつけられる傘持ち役を演じましたが、二人のおとぼけコントがもう秀逸!二人とも最初はその娘の顔も見ずに嫁にもらおうとするのですが、娘の顔を見た瞬間の萬斎さまの驚愕の様子(演技っぽくなく素に見えた 笑)、そして、万作さまの思いっきり腰を抜かす演技(本当に腰が抜けてしまったのではないかと心配になりました・・(^_^;))。もう会場、大爆笑です!そして最後は色男の業平が押しの強い醜女にすっかり惚れられて追いかけられて終わるお約束のパターン(笑)

不細工な女性を笑い物にする作品ではありますが、狂言に出てくる女性は強くてたくましいので、全くイヤな感じはいたしません。色男親子は、実際にもそういうこと過去にあったかもしれませんネ(笑)

さて、近頃はイメージ写真の作成にはまっていたのですが、正月ボケか、写真のネタがすぐに思いつかなかったので、今回はイラストを描いてみましたよ。「業平餅」の主人公、在原業平です。少女漫画風(笑)
今回、席が最後列で、萬斎さまのお顔が良く見えませんでしたので、イラストはあくまでイメージです!!
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