赤坂文楽「妹背山婦女庭訓」

「赤坂文楽」を観て参りました。いつもの赤坂区民センターが工事中ということで、今回は高輪区民センターでの開催。会場が狭いということもあり今回はチケット争奪戦でした。案の定、満席でございます。運よく入場できまして本当に感謝です。

第一部、桐竹勘十郎さんと吉田玉女さんがご登場。まずは勘十郎さんから玉女さんの二代目吉田玉男襲名についての祝辞があり、ようやく「女」が「男」になれますねとのジョークに会場もリラックスムードに。玉女さんご自身、故・初代吉田玉男師匠から、「女」が「男」になれるよう研鑽するようにと言われていたとのことで、47年間の時を経て念願叶いまことにおめでたいことです。

「妹背山婦女庭訓」名場面の映像を観ながら、二人のトークが進む形式。ほとんど勘十郎さんがお話しになり、玉女さんはそれに返答するような感じです。

まずは三段目「山の段」の映像が流されます。中央に吉野川が流れ、上手(右側)と下手(左側)に屋敷があります。上手が背山(男の屋敷)、下手が妹山(女の屋敷)という構成です。また、通常は上手側にある太夫と三味線の床も、上手、下手の両方に設置されているという珍しい演出。舞台全体がシンメトリーとなっています。

吉野川は本当に川が流れているように見える仕掛けが組まれ、手動と電動の場合があるそうで、電動は流れが速くて騒音も発するとか、お二人は手動の方がお好みとのことでした。

床は掛け合いで、映像では背山の豊竹呂大夫さんと鶴澤清治さん、妹山の豊竹嶋大夫さんと野澤錦弥さん(現・野澤錦糸さん)が確認できました。20年くらい前なのでしょうか。みなさん、とてもお若くて、私の大好きな嶋大夫さんもこの頃全盛期と言っていいかも、嶋さんの雛鳥はのびやかで色艶のあるお声が素敵でしたわ~~(〃▽〃)

人形は、久我之助を吉田玉男さん、雛鳥を吉田簑助さんが遣っておられました。玉男さんは玉女さんの、蓑助さんは勘十郎さんのお師匠様で、人間国宝であらせられます。お二人がお互いの師匠の芸について様々に語られました。

勘十郎さんは、蓑助師匠の姫を遣う際の品や色気について、自分はまだ出せていないとおっしゃいます。また、玉女さんも、二枚目の役を得意としていた玉男師匠のように、動かさずに存在感を出すのが難しいとおっしゃいます。

お二人とも師匠の芸を観て盗もうとするが、なかなかその域に到達できていない、たいへん難しいとおっしゃるのです。還暦をすぎて、観客の私たちから見れば今や何の文句のつけどころもない大御所であるお二人がなんと謙虚なことなのでしょう!改めて文楽の芸が一生学び続けなければならない険しい道なのだと思い知らされます。

この段は、敵対する家同士の恋人が死して一緒になれたという話なんですが、母親が娘の首に死化粧を施して雛流しの道具に乗せて川を渡します。哀切極まりないこの場面、映像を観ている一同しーーーん…。勘十郎さんが「初めてこの舞台を観た時はたいへん素晴らしくて感動し、今でも大好きな場面です。雛鳥が本当に可哀そうでねぇ・・・(と言葉を詰まらす)」という様子にこちらもグッときました(T^T)

次に四段目「井戸替の段」と「杉酒屋の段」の映像が流されます。
杉酒屋の段は人間国宝・竹本越路大夫さんが語られていました。残念ながら今回は床の映像は流れず音声のみでしたが、私はお舞台を拝聴することはなかったので、これが伝説の!!と感動(*´▽`*)

そして、玉女さんのお若いころ(30歳前後?)の映像が!!なまらかっこええ~~~。今もかっこいいですけど、昔からしゅっとなさってたんですね。玉女さんって髪の色は黒→白に変わりましたが、髪の量は全然変わってないですよねー。

勘十郎さんのお若い映像も見たかったですけど、この時は黒子だった?と思われ。ご尊顔拝することができず残念でございまする…。

玉男師匠と先代勘十郎師匠は「勘ちゃん」「玉男くん」と呼び合う仲だったそうで、玉女さんが玉男さんになったらそういうふうに呼び合う仲になれるかな、と勘十郎さん。同い年で仲が好さそうなお二人です。

さて、お二人の楽しい解説つき、映像の鑑賞もあっという間に終わり、休憩をはさんでの第二部は「道行恋苧環の段」の実演でございます。

舞台の後方、真中に床が設置されました。観客席と太夫・三味線が対面となる配置です。

この段は昨年の東京公演でも上演されましたが、二枚目の求馬を取り合うお三輪と橘姫がとても可愛らしいです。二人は同じ年頃の若い女性ですが、片やお姫様、片や町娘ですので、全く違うキャラクターです。町娘のお三輪の方が積極的な感じです。このような場面でも橘姫はおっとりして品があります。お三輪の方が横恋慕で分が悪いというのもありますけどね。それでも橘姫はライバル出現に心穏やかではないでしょうし。演じ分けが難しそうですね。勘十郎さんも10代半ばの女性を遣うのはとても難しいとおっしゃっていました(もう完璧にしか見えないのにまたまたご謙遜を…)。

ここは床も掛け合いで太夫も役がつき、それぞれのキャラクターを演じます。一人で語るときは登場人物の演じ分けとナレーションを全て一人でやるのでそれはそれで醍醐味なのですが、掛け合いのときは思いっきりその役になりきれるんじゃないでしょうかね。みなさん、伸び伸びと素敵に語ってらっしゃいました。道行は床も人数が多くて人形の動きも美しく、華やかでとても楽しいですね。何度観ても良いものです。

楽しい時間はあっという間に過ぎますね。満足至極!このあと、一緒だった友人と会場で会った友人と合流して御飯を食べに行き、文楽の話でまた盛り上がりました。あーぁーー、2月の文楽も終わっちゃった。ショボ――(´-ω-`)――ン。次は3月の地方公演を楽しみにいたしましょう!

赤坂文楽
人形浄瑠璃 文楽 伝統を受け継ぐ 其の四
~吉田玉男、吉田蓑助から受け継いだもの~
平成26年2月25日(火)18時半開演
@高輪区民センター区民ホール

<出演>
○第一部(トーク)
~文楽における伝統とは、文楽のおもしろさ、妹背山婦女庭訓の見どころ~
桐竹勘十郎
吉田玉女

○第二部
「妹背山婦女庭訓」より「道行恋苧環の段」
桐竹勘十郎
吉田玉女
吉田勘彌
竹本津駒大夫
豊竹呂勢大夫
豊竹芳穂大夫
鶴澤燕三
竹澤宗助
鶴澤燕二郎
ほかのみなさん

今回の会場は高輪区民センターです。白金高輪駅から直結の便利な場所にあります。
今回の会場は高輪区民センターです。白金高輪駅から直結の便利な場所にあります。
ホール玄関に貼られていた公演チラシ。
ホール玄関に貼られていた公演チラシ。
開演前。映像を映すスクリーンとトーク用の椅子が準備されています。
開演前。映像を映すスクリーンとトーク用の椅子が準備されています。
「道行恋苧環の段」の舞台。舞台後方に観客席と対面する形で床が設定されました。
「道行恋苧環の段」の舞台。舞台後方に観客席と対面する形で床が設定されました。
このような帯をして行ったら、友達から「苧環だから?」と言われ、はっ!なんたる偶然(笑)
このような帯をして行ったら、友達から「苧環だから?」と言われ、はっ!なんたる偶然(笑)

式能な長い一日(後編)

さてさて式能・第二部です。
第一部はこちら ⇒ 式能な長い一日(前編)

既に翁プラス四番の能・狂言を見ています。このあとまだ五番あります。100キロマラソン走ってきてすでにフルマラソンの距離を走ったのにまだ半分以上ある・・という感じです。
能楽堂内のお食事処「向日葵」でコーヒーブレイク。通しで観るお客さんが大行列していて、いつもはにこやかな食券係のおじさんもちょっとばかり殺気立っていました。

第二部の最初は喜多流の「羽衣」です。休憩したおかげで少し元気になってきた私。心にチョッピリ余裕が出てきました。
天女の羽衣を見つけた漁師(ワキ)が「きれいだから持って帰って家宝にしよう~~」と言うので、人の落としモノを勝手にネコババしちゃいかんだろーとか、「美しく舞って見せたら返してあげよう~~」と言うので、人のモノだっちゅーにどこまでも自分中心だなーとかツッコミを入れながら観ていました(笑)
席が脇正面の端っこだったので、装束をよく見ることができ、天女の冠に大きな花(ボタン?)が飾ってあってとてもキレイでした。やはり鬘物(女性が主人公の能)は能らしくていいねぇ(*´▽`*)

次に狂言をはさんで、観世流の「放下僧」です。仇討ちの話で、歌舞音曲を聴かせて油断させて討つというところは「望月」という演目と酷似(但し獅子舞は出てこない)。「望月」同様、芸尽くしを見せるというのがこの演目の狙いのようです。
討たれた敵が平然と立ってすたすた歩いて退場するのは能の面白いところです。敵が舞台上に置いていった「笠」が本人の死骸を表現しています。能を何度か見ているとその辺の決まりごとがわかってきます。笠に向って刃を立て恨みを晴らす人たち。ちょっと滑稽ですけどね。そういうものなんだと思って見ましょう。

最後に宝生流の「黒塚」です。本日初めての作り物(大道具)登場。既に九番目の能を見ていますが、もはやランナーズハイとなっているワタクシ、目がらんらんとしてきました。体力は限界に近づいていますが妙な脳内物質が分泌され気分が高揚しています!風邪で熱が上がっていたのかもしれません。とにかく完走まであと10km!

この中で、中入り後のワキとアイのやりとりがなかなか面白い。
妖しいオババ(シテ)が「決して寝所の中を見てはいけないよ~~」と言って去るのですが、従者を演じるアイが好奇心で中を見ようとします。山伏を演じるワキとワキツレは寝ています。寝ているといっても舞台上に寝転んだりはしません。姿勢よく座ったまま首をかしげ閉じた扇を額あたりまで差し上げます。寝ているポーズです。
寝ている山伏が、こっそり中を見ようとする従者に気付いて目を覚まし、従者を制します。このやりとり数回。でもじきに山伏たちは熟睡してしまい、従者はついに中を見てしまうのです。そしたらその中に死屍累々、人間の屍が山ほどに積まれています!!ぎゃぁぁぁーーーー!!従者が山伏たちを起こして報告します。山伏たちもあれは人を食う鬼であったのだと知ると禁を犯した従者を責めないんですね~。でも従者は自分だけ先に逃げちゃうんです。要領のいいやっちゃ(笑)
おどろおどろしいお話でもアイの演技が入ると客席から笑いが起こります。ちょっとした中休みがあって観客もほっとするわけですね。

最後は鬼女と山伏の激しい戦いがあり、山伏が勝って鬼女が逃げていき幕です。鬼は逃げていったものの、めでたしめでたし~というハッピーエンド感がないので、附祝言といって地謡がおめでたい曲の一部を謡います。今回は「高砂」でした。これで全ての演目が終了です。ふぅーーー9時間走りきった (*´-д-)フゥ-3

狂言四番については、野村萬さま、野村万作さま、山本東次郎さまのアラウンド80s人間国宝トリオがそれぞれお元気に演じられていて嬉しい限りでした(*´▽`*) すいません。狂言の感想はバッサリ端折ってしまいました。

式能は一番一番が短めな能で構成されているような気がします(時間の制約上やむなくなのでしょうか)。そういう意味では一本ずつは短い演目で初心者向きと言えます。でも観るのは一部か二部の片方にしておくのがいいかも…。あーーー腰がいてー。

番 組

<第一部>
「翁」(金春流)
能「岩舟」(金春流)
狂言「三本柱」(和泉流)
能「清経」(金剛流)
狂言「神鳴」(大蔵流)

<第二部>
能「羽衣」霞留(喜多流)
狂言「文荷」(和泉流)
能「放下僧」(観世流)
狂言「長光」(大蔵流)
能「黒塚」白頭(宝生流)

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国立能楽堂の中庭に雪が積もっているというのもこれまた珍しい光景。
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終わりましたーーーー。すっかり夜ですね。お疲れ様☆彡
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式能ともなると、番組(=プログラム)も長いです。へろ~~~~ん。

式能な長い一日(前編)

2月16日(日)。今年も式能の日がやってまいりました。

金曜日に降った雪がまだ残っていたせいか、和服のお客さんがいつもより少なめです。
私も着物で行くつもりだったんですが・・・寝坊したぁぁーーー(゜Д゜) 猛ダッシュで行かんと間に合わん間に合わん汗汗
しかも風邪っぴきです。うーーーー、熱っぽいし喉がいたぁぁぁい。でも、とても楽しみにしていたのでとにかくダッシュ!ε=ε=ε=┌(o゜ェ゜)┘

☆式能とは?
奈良時代に起源を持ち、室町時代に完成した能ですが、江戸時代になって儀式として上演されるプログラムが確立されました。それが「式能」です。「神・男・女・狂・鬼」 に分類される五つの能が必ずこの順序で1日がかりで上演されます。また、それぞれの能の間には狂言(計四つ)が上演されます。さらに、五番立ての能の最初に神事である「翁」を演じる正式な番組立てを「翁付」といいます。
江戸幕府が江戸城で催していた儀式ですが、現在では能楽協会が毎年開催したりしています。(←これがワタクシが観てきたやつ)

今回の式能は、古式に則った五番立ての能をシテ方五流が分担しています。また、狂言四番も狂言方二流が二本ずつ分けています。
で、気になったのでワキ方、囃子方はどうなのか調べてみました(全員調べました。ヒマですねーわたしぁ。笑)。現在、ワキ方は三流、囃子方は笛方三流、小鼓方三流、大鼓方五流、太鼓方二流あるのですが、大鼓の大倉流と観世流を除き全流儀の方が参加されていました。ほぼ、まんべんなく配されているのですね。

「翁」は神事という位置づけから、翁から一番目の能「岩舟」が終了するまでは見所(=観客席)への出入りが一切禁止となります。出入り禁止の旨、公演プログラム、公演チラシ、場内掲示、場内アナウンス、チケットへの印字に至るまであちこちに書かれる念の入れよう。それでもご存じないのかまるで見ていないのか、遅刻するお客さんも少なくないのでしょう。実際には「岩舟」の前に途中入場させていましたね。
スタッフが情け深いかプレッシャーに根負けしたかでしょう。厳粛な雰囲気は「翁」までで次の能が始まるとお客も少々リラックスするので、出入り禁止は「翁」終了まででもいいのかもしれません。

翁の間は観客も儀式に共に参加しているという位置づけです。咳払いひとつ立てることも憚られる厳粛な雰囲気の中、翁を先頭に一同橋掛かりより超ゆっくりペースで登場。いやがおうにも緊張感が高まります!

まずは金春流宗家による「翁」です。下掛かり流儀のため千歳(せんざい)は狂言方が勤めました。この場合、千歳が面箱を持って入場します。(上掛かり=観世・宝生流の場合は、千歳はシテ方が務め、面箱持ちがは別に狂言方が勤めます)

お能のお囃子は通常、笛・小鼓・大鼓・太鼓(←いるときといないときがある)一人ずつですが、翁では小鼓が三人登場します。地謡も普通は切戸口から登場しますが、翁では橋掛かりより登場し、舞台の右側ではなく後方に位置取ります。

お囃子、地謡、後見も侍烏帽子、熨斗目、素袍上下と室町時代の格好です。この曲が最高位の格を有していることを示しています。能では、演目や公演の格に応じて、囃子方・後見方・地謡方の衣装が、普通の紋付き袴→肩衣をつける→袴が長袴になる→素袍上下…というように徐々に正装度が増します。衣裳がゴージャスになると、これは改まった会なのだ!重要な曲なんだ!とわかるわけですね

翁役は最初、直面(ひためん=面をかけていない)で登場します。この段階ではまだ翁ではなく太夫です。太夫は舞台正面先まで行くと座して正面席に向かい深々と礼をします。能でお辞儀は他の演目では見られない珍しい光景です。ここで間違っても拍手をしてはなりません!これはアナタ(=観客)にお辞儀をしているのではなく、神格なるものに対して拝礼しているのです(と、どこかで読んだ)。まあ、お客様は神様です、と言ってた歌手もいましたケド(笑)

太夫が意味のよくわからないセリフを謡います。「どうどうたらりら~」とかそんな感じの謡です(何と言っているのかもよくわかりません)。謡というより呪文のような感じです。その辺からしてもう儀式な雰囲気。
そしてまずは千歳が舞います。面箱の中に翁の面が入っています。太夫は舞台上で白い翁面(=白式尉)を面をつけます。面をかけた瞬間に太夫に神が舞い降りるのです。面をつけた瞬間変身するところはヒーローものを髣髴させます。そうしてヒーロー、いや神に変身した翁太夫は、天下太平・国土安穏・五穀豊穣を言祝ぎ、祝舞を舞います。舞い終えた翁は面を外し、正面席に向かい再び深々と礼をし、橋懸かりから退場します。

次に三番叟が舞い始めます。三番叟は野村萬斎さまです。萬斎さま、三番叟はもう慣れたものでしょう、非常に安定感があります。
三番叟は直面で揉ノ段、続けて舞台上で黒式尉の面をかけて鈴を持ち鈴ノ段を舞います。飛んだり跳ねたりの大活躍です。同年代としてはこのお元気さを見習わなければなりません。翁より三番叟の方が出番が長いです。翁ショボ――(´-ω-`)――ン。

さて、翁の後は続いて能の一番目です。ここでは脇能といい神様が登場する演目が配されます。今回は金春流の「岩舟」でした。ちなみに次に続く狂言も脇狂言といいおめでたい演目です。

二番目の能は金剛流「清経」。とてもいい曲なのですが、この辺りでワタクシ、風邪薬が効いてきてちょっと沈没していました…(-ω-ll)

沈没していた間に二番目の狂言も終わり、第一部の終了です。長くなりました。まだ半分以上あります。この続きはまた明日に。

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雪のまだ融けきらない国立能楽堂前。朝10時前ですが太陽がまぶしすぎる!
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開演30分前。開場を待つ長蛇の行列。
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前売チケットは完売。当日券の扱いもなし。人気~~。

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「翁」~「岩舟」の約2時間は出入り禁止になる(建前上)。
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脇正面席の前から三列目。端っこですが良いお席です。前に席がないので足も伸ばせます(お行儀悪い。笑) 橋懸かりにかぶりつきますぞ~~。

第95回粟谷能の会 事前講座

3月に拝見する予定の第95回粟谷能の会(喜多流)の事前講座に行って参りました。
今回は「道成寺」がテーマ、初の夜開催、また、小鼓方大倉流宗家・大倉源次郎さんというビッグなゲストをお迎えするということで、これは絶対に行かずにはいられない!会社を早退して国立能楽堂の大講義室に駆けつけましたよ~。

前半は、今回、道成寺でシテを勤められる粟谷明生さん、明生さんのお弟子さんで私の朗読のお師匠さまでもある女優の金子あいさんによって、道成寺という作品のあらすじや見どころ、シテを演じるにあたっての意気込みなどが語られました。

道成寺を年に2~3回は観ているワタクシですが、演者さん自身からお話を伺う機会は滅多に無いので、初めて知るお話がてんこ盛りで目からうろこが落ちまくりでした。

「鐘入り」ではシテの足がすっぽり隠れるような入り方、すなわち鐘が落ちるより先にシテが落下しないよう飛ぶことが良しとされています。そりゃ頭ぶつけないように飛び込むのは至難の業だろうな~足見えちゃっても仕方ないよな~とこれまで思っていたのですが、明生さん曰く「頭にガーンと衝撃があったら、きれいに飛べている」・・・そうだったのか!ちょっとどころじゃなくしっかり頭ぶつけてるんですね。こりゃビックリ w(゚o゚)w キレイな鐘入りは見たいですけど、どうかお怪我なさいませんように~~~。

後半は小鼓の大倉源次郎さんもトークに加わり、主に「乱拍子」について、流儀による違いやシテと小鼓が呼吸を合わせるそのヒミツなどが語られました。

小鼓方四流の中で幸流だけは「よっ」ボン「ほっ」ボン、みたいにかけ声が短い。今回は大倉流で「ぃよぉーーーーっ」ポン「ほぉーーーーっ」ポン、みたいな感じでかけ声が長くなります。そのためシテと小鼓の呼吸の合わせ方や間合いが大きく異なってくる。なるほどーーー。同じ乱拍子でも何か雰囲気がだいぶ違うと感じたのはそのせいもあったのか。

シテ方や狂言方の流儀の違いは巷でもよく話題に上るし、舞台を観ていてなんとなくわかることもありますが、囃子方やワキ方の流儀の違いは正直これまであまり意識することがありませんでした。しかし、お話を聞くとこんなにまでも違っていてそれが他の役にも大きな影響を与え、全く異なった舞台を生み出すのだということがわかり、こりゃオモシロイ。これからもっと注目して観ようと思いました。

喜多流では幸流の小鼓での道成寺が通例だそうで、明生さんも初演は幸流であり、二度目である今回はぜひ大倉流で!と望まれ豪華共演が実現する運びとなりました。ラッキー\(^O^)/

その他にもたくさんのお宝話が飛び出しましたが、長文になりすぎるので以下省略します(*-∀-)ゞ

「美」と「妖」が交錯する雰囲気、乱拍子に続き急の舞となり、蛇となって鐘に飛び込むその変化を見て欲しいと明生さん。「精神は高め時間は短縮される演出」を目指す、と締めくくられ講座は終了しました。事前講座により演目に関する理解が深まり興味がいっそう掻き立てられ演者さんたちの意気込みもしっかり伝わってきて参加して良かったです(*’▽’*)アリガトウー!

精神が高まることでまた濃厚な舞台が生まれるのでしょう。3月2日の「道成寺」では、1年前の粟谷能の会の「船弁慶」で感じた、演者のエネルギーを観客が受け取り、舞台と見所が一体となる感覚をまた味わいたい、いやそれ以上のもの凄いことが起きるに違いないと大いに期待しております!!

第95回粟谷能の会 事前講座
2014年2月12日(水) 18:00~19:30 @国立能楽堂 大講義室
<出演>
粟谷明生さん(シテ方喜多流)
大倉源次郎さん(小鼓方大倉流宗家)
金子あいさん(女優)

※主催者および出演者に写真撮影および掲載の許可を得ています。

60名以上のお客様がご来場。
60名以上のお客様がご来場。
最前列に陣取りました。
最前列に陣取りました。
進行役の女優の金子あいさんと、道成寺のシテを勤められる粟谷明生さん。
進行役の女優の金子あいさんと、道成寺のシテを勤められる粟谷明生さん。
 明生さん、道成寺を勤められるのは2度目だそうです。お父様の菊生さんは生涯1度だったそうです。初演の演技を振り返り二度目に臨む決意を語ります。
明生さん、道成寺を勤められるのは2度目だそうです。お父様の菊生さんは生涯1度だったそうです。初演の演技を振り返り二度目に臨む決意を語ります。
 道成寺のあらすじを紹介するあいさん。
道成寺のあらすじを紹介するあいさん。
 鐘を作る話が興味深かったです。鐘(に限らず道具は全て)は能楽師さんらが自ら手作りします。木製で周りにわらを巻き、竹で土台を作って布を被せて縫い付けます。最初から作ることもありますが、途中まではできていて、5~6人で2日ほどで完成。
鐘を作る話が興味深かったです。鐘(に限らず道具は全て)は能楽師さんらが自ら手作りします。木製で周りにわらを巻き、竹で土台を作って布を被せて縫い付けます。最初から作ることもありますが、途中まではできていて、5~6人で2日ほどで完成。
 大倉源次郎さんがトークに加わります。大倉流の宗家というので高嶺の雰囲気を想像していましたが、お話も上手で親しみやすく気さくなお人柄。
大倉源次郎さんがトークに加わります。大倉流の宗家というので高嶺の雰囲気を想像していましたが、お話も上手で親しみやすく気さくなお人柄。
 小鼓を実際に鳴らしていただきます。音の種類が4種類ありチ・タ・プ・ポと表現されるなど実演付きで解説。
小鼓を実際に鳴らしていただきます。音の種類が4種類ありチ・タ・プ・ポと表現されるなど実演付きで解説。
 左手の握り方と、右手のどの指で(何本で)打つかで、音の種類が決まるわけですね。
左手の握り方と、右手のどの指で(何本で)打つかで、音の種類が決まるわけですね。
 打つ姿があまりにカッコいいので何枚も撮影してしまいましたぁ~(*´▽`*)
打つ姿があまりにカッコいいので何枚も撮影してしまいましたぁ~(*´▽`*)

若手能「道成寺」

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公演プログラム。黄色いのは国立能楽堂開場三十周年記念のシール。

国立能楽堂で催された「若手能」を拝見してきました。
「若手能」とは次代を担う若手能楽師が集う能楽若手研究会公演のこと。若手能楽師中心に配役され、国立能楽堂養成研修の修了生が数多く出演されています。

さて、今回は国立能楽堂開場三十周年を記念して大曲『道成寺』が上演されました。

『道成寺』は人気曲です。本日もほぼ満席でした。チケットはいつも争奪戦です(今回は友人のお力添えあり入手できました。ありがたや~(*’▽’*))。『道成寺』は能の演目の中でもかなり異色な部類に入りましょう。特色はやはり巨大な鐘の作り物(=大道具)が登場し、鐘入り、乱拍子などの他の能ではみられない特殊な演出が取り入れられていることです。

☆鐘入りとは・・・シテが落ちてくる鐘に飛び込む最大の見どころです。鐘の重量は80キロほどで、万一失敗すると大怪我の恐れもある命がけの場面です。シテは暗い鐘の中でたった一人で面と装束を替えます。鐘が上がると般若の面をかけ装束替えしたシテ(=蛇体)が現れます。

☆乱拍子とは・・・シテと小鼓が演じる最も難しい演じどころです。小鼓の掛け声と打音に合わせてシテが足拍子を踏みます。シテと小鼓の息づかいのみで間を合わせます。間合いが非常に長いため、舞台も見所も息を呑むような緊張感が張り詰めます。

乱拍子は何度見ても実に奇妙な舞だな~と思ってしまいます。シテが片足のつま先だけ上げてしばらく静止(これまたべらぼうに長い間)。小鼓の掛け声と息を合わせて足拍子。その繰り返し。シテと小鼓の一騎打ちな感じ。時々笛は入ります(大鼓はお休み)。字幕解説によると「白拍子が鐘楼への階段を登る様を表現」とありました。ふーーん、そうなのか。初めて知りました。今回、乱拍子は約25分でした。これは結構長い方ではないか?

鐘入りは、シテが鐘の内側に入り壁面に手をかけ足拍子を踏み、鐘が落ちると同時に飛び上がって鐘の中にすっぽり入ります。鐘より先にシテが落下することのないよう飛ぶのが良しとされています。できるだけ高く飛べばよさそうですが、鐘の天井に頭を打ってもいけないので飛ぶタイミングがとても難しそう。今回は非常にキレイに決まっていました!( ゚∀゚ノノ゙パチパチパチ

今回は観世流宗家の弟サンがシテを勤めました。52歳で若手??40、50は若手の世界なんでしょうか。なにゆえシテは養成研修修了生でないのか?せっかくだからシテも修了生にやってもらえばいいのに~と思っていたら、国立能楽堂で養成してるのはワキ方・囃子方・狂言方だけなんですね~(これまた初めて知った)。シテ方は間に合ってるということでしょうか。というよりシテ方以外が極端に不足しているってことなんでしょうね。

そういや観世宗家がいつのまにか改名していました(観世清和→観世清河寿)。キヨ君プログラムにいないよどーした?とものすごく探してしまったよ。ちゃんと後見で出ていました。なんでも渋谷の観世能楽堂を銀座に建て直すそうで。3月には能と文楽との競演、金剛流宗家との競演などいろいろ予定されてるみたいで・・・飛ぶ鳥落とす勢いですね!

それはともかく、今回お能が初めて&二回目という友人達も満足してくれたようです。能として典型的な演目ではないけど、見どころがたくさんあってお能好きはもちろん初心者でも十分楽しめる曲だとワタシは思っています。

3月は喜多流の道成寺を観に行きます!上掛り(観世・宝生)と下掛り(金春・金剛・喜多)では演出が大きく異なります。それも何度観ても飽きない所以かもしれません。次の道成寺はどんなのかな!?楽しみですっ!(*´▽`*)

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今回で二十三回目を迎える若手能。国立能楽堂開場三十周年を記念して若手能として初めて道成寺が上演された。