「伝統芸能」カテゴリーアーカイブ

薩摩琵琶・友吉鶴心「花一会〜春におもふ」

本日は冷たい雨の降る中、東京国立博物館の敷地内にある円山応挙館で、薩摩琵琶演奏家の友吉鶴心さんによる「花一会〜春におもふ」を拝見して参りました。

応挙館ですが、江戸時代に尾張国の寺院の書院だったものがここに移築され、現在は茶室としても一般に貸し出され使われているそうです。円山応挙の描いた墨画(複製)が飾られていました(保存の理由から本物は収蔵庫で保管)。最新のデジタル画像処理技術と印刷技術を駆使した・・とのことで本物ソックリ(たぶん)。

鶴心さんの演奏曲は「西郷隆盛」と「春の宴」の2曲。
前者は西南戦争を率いた西郷隆盛の最期を描写した曲で、これは薩摩琵琶らしさが味わえる無情で悲壮感にあふれる曲でした。
後者は源氏物語を題材に金持ち貴族の豪華で優雅な宴を描いており、前者とは対極にある曲風でした。そのためなのか薩摩琵琶的ではないような感じも覚えました。
全く異なる二つの曲を、鶴心さんは曲ごとに琵琶を変えて演奏なさってました。

曲の演奏の前後には曲目解説や時代背景、琵琶のルーツについてなど、鶴心さんのたいへん興味深いお話をたくさん聴くことができました。
NHK大河ドラマの芸能考証・指導を担当なさっている関係もあり、史実や伝説の真偽を考察するのがお好きなようで、歴史の出来事を本当によくお調べになっておられます。

本当は鶴心さんのお話を隣席の英国人の友人に通訳してあげたかったんですが、英語力が貧弱なせいもありますが、実は日本史に疎くて特に近現代史がさっぱりわからないワタクシ。西郷隆盛がいったい何した人かも全然知らないという日本人としてヤバすぎるレベル。そのためせっかくの鶴心さんのお話も前提知識不足で自分自身も理解できなかった部分が多く・・・全くお役に立てませんでした・・・_| ̄|○

今思えば、マンガ「あさきゆめみし」で得た知識で源氏物語の方は説明できたのかも?

反省して、西郷隆盛については、大河ドラマ「西郷どん」観て勉強します〜。

狂言風オペラ「フィガロの結婚」

本日はこれ!狂言風オペラ「フィガロの結婚」@観世能楽堂(千秋楽)

狂言風オペラは、私も大好きだった大蔵流狂言方の故・茂山千之丞さんが始められた新ジャンル。「フィガロの結婚」は2006年に初演、その時には役者は全て狂言師でしたが、2009年の「魔笛」でシテ方が加わり、今回初めて文楽の人形・太夫・三味線が加わったのだそうです。

文楽人形のエロおやじぶりが面白かったとネットで誰かが書いていましたが、勘十郞サマは品がおありになるので、全く下品でないのにちゃんと面白かったので安心しました(笑)

素朴な疑問として、床の太夫と三味線がいつもの位置と左右逆なのは何故だったんでしょう〜?
あと、勘十郞サマが舞台下駄をお履きになっていなかったので(能舞台だから下駄はNGなの?)、左遣いと足遣いがたぶん体勢的にしんどいですよねー(^_^;

シテ方は面をかけていましたが、目付柱が取り払われていたので、ちゃんと舞台の端が見えているのかドキドキでした。あと、登場してからしばらくの間は言葉を発しなかったので、もしやずっと無言なのか!?シテ方のセリフも太夫がアテレコしちゃったらどうしよう〜、と(なぜか)不安になりましたが、ちゃんとシテのセリフ(謡)があり意味もわかったので安心しました(笑)

主役はほぼ狂言方ですが、想像通り狂言とオペラ(特に喜劇)は相性が良い!装束と多少のセリフ以外はあまり狂言の様式にこだわっていない模様で、狂言の枠組みを超えた(これは能も文楽もですが)思い切った演出も結構ありました。

たまたま正面席と中正面席の通路側の席だったので、通路で行われた狂言方のお芝居も至近距離で見られて良かった!

音楽はスイスから来日したクラングアートアンサンブルにより、管楽八重奏とコントラバスにて演奏されました。アリアの部分も彼らが演奏し、とても美しい音楽でした。彼らの衣装は普通に洋服でしたが、全員、足袋をはいていてキュートでした。

実はこの公演、私としたことが全くのノーチェックでした。今日、Facebookの勘十郞さんページや友之助さんの書き込みを読んで、え?そんなのがあるの!と、フラフラ〜と観に行ったんですよね。

東京では昨日と本日の昼・夜で合計4公演、あさって22日には京都、23日には大阪で1公演ずつ行われるとのことです。今日は空席がかなり目立っていてもったいなかったなー(昼はどうだったか知らんけど)。平日の夜とはいえ祝日の前日なのに・・・。昨日の夜はもっと早い18時開演だったので、もっと厳しかったのでは?(余計なお世話か??)

いろいろな意味で、まだ試行錯誤の段階なのかなーという印象を受けましたが、とても面白い企画だと思うので、千之丞さんのご遺志をぜひ後世につないで頂きたいです!

古今狂言会

本日は野村万蔵さん・南原清隆さんの「古今狂言会」を拝見しました\(^O^)/

お二人が十年間取り組まれていた現代狂言シリーズから生まれた新しい形の公演の東京初お目見え。プロの狂言師である万蔵さん、万之丞さんと共に、南原さん(ナンチャン)を筆頭とするタレントさん・役者さんたちが古典や新作の狂言を演じられました。

一緒に観た友人が「タレントさんも上手だったけど、本物の狂言師さんは歩き方や発声が全然違うねー」と申しておりました。彼女は狂言は数えるほどしか観たことがないのに、おぬしなかなか見る目があるな!と感心しました(笑)

今回特に楽しみにしていた、ナンチャン作の新作狂言「AI」(エーアイ)は、ナンチャンが仕事をサボりたがる太郎冠者、万蔵さんが人間型お掃除ロボットという配役。

万蔵さん扮するAI(人工知能)お掃除ロボットが、セリフも動きも可愛らしくてめっちゃ微笑ましかったです(*^o^*)。発声もセリフもあまり狂言っぽさを感じさせなくそれがかえって新鮮でした。

また、お掃除ロボットには体力的にハードであろう動きが多く、かなりお身体をはっておられました(^◇^;) 冒頭に茸(くさびら)みたいなキノコ歩き(しゃがんだまま素速く歩く)にて登場したので、友人は「何かに乗って移動してきたのかと思った!」とビックリしていました。

ナンチャンも十年間、現代狂言で修行(?)しただけあって、堂に入った太郎冠者ぶりでとてもお上手でした(^o^)

「AI」はもう最初から最後まで面白くて笑い通しだったんですが、現代社会への風刺・未来への暗示も感じられました。何かの番組で、あるAIを設計した技術者が、プログラミングした自分自身でさえもこのAIが今後どういう行動をするのかもはや予測不可能になっている、と言っていたのを思い出しました。怖いですね〜(^_^;)

古典狂言の「口真似」「六地蔵」にも遊び心のあるアレンジがあり、最後は普段の狂言公演では行わないカーテンコールもありました。お客さんの誰もが笑顔でした。たくさん笑って楽しい会でした。また行きたい!

能と組踊のコラボ企画公演「能の五番 朝薫の五番」

横浜能楽堂で能と組踊のコラボ企画公演「能の五番 朝薫の五番」を拝見して参りました。5年間に渡りそれぞれ関連する演目を一つずつ上演するという企画。今年でもう4回目なんですね〜。このような面白い企画があることは初めて知りました。
今回の演目は観世流の能「放下僧」と組踊「二童敵討」どちらも兄弟が親の敵を討つお話です。
能「放下僧」は宝生流で先週観たばかりで、そんなにメジャーな曲でもないと思うので、10日も空けずに二度も観るなんてなかなかレアなことでした。
観世も宝生もどちらも甲乙付けがたく面白かったんですが、観世流の方が仇討ちを成し遂げたあとの「やったぜ!」感が強かった気がします(笑)
組踊とは琉球王朝時代に生まれた琉球の歌舞劇で、これまでテレビや舞台でダイジェスト的に一部分観ることはありましたが、まるっと一番観たのは初めてな気がします。
演者は化粧をしていました(男性も)。衣装も色鮮やかでとても美しいです。女性だけでなく男性の衣装にも紅色が多用されていました。足袋にも赤い色が使われていました。
音楽は、笛、箏、三線、胡弓、太鼓。三線の方は歌も歌っていました。
演者は琉球言葉のセリフを発しますが、旋律と抑揚があります。このあたりは能によく似ています。
少年兄弟が敵を油断させるために揃って踊る場面は、美しすぎてうっとりしてしまいました。敵が自分の着ているものや刀を褒美で与えてしまうんですよね。お稚児さんのようにキレイに着飾った美少年が目の前で艶やかに踊ると、そりゃあげちゃうでしょうね〜(笑)この辺のコミカルな場面はちょっと狂言ぽいですね。
決まったパターンの琉球旋律に言葉を乗せているんですが、繰り返し繰り返し同じ旋律を聴いていたため、観た後も頭の中でしばらくリフレインしています。今なら適当なセリフを乗せれば組踊の曲が私にも作れそうです(笑)
ちなみに、組踊のセリフは最初のうちは外国語に聞こえたくらい、サッパリ聞き取れませんでした。あらすじを知っていたので、注意深く聴いているうちに徐々にわかる部分も出てきましたが。でも能の謡の方が断然わかりやすいくらいです。
お能を観るのが目的でしたが、珍しかったので組踊の感想が長くなりました。来年は能「道成寺」と組踊「執心鐘入」とのことですよ〜。

宝生流企画公演「夜能」

今宵は宝生流企画公演「夜能(やのう)」@宝生能楽堂。
平日の夜に能とその他の伝統芸能を気軽に楽しむ企画が始まりました。

第一回の本日、伝統芸能のお相手は、雅楽「二つの鼓」。鞨鼓と三ノ鼓が登場。雅楽と言えば笙や篳篥、龍笛などの管楽器がまず思い浮かび、打楽器のことは恥ずかしながらこれまであまり気にしたことがなかったのですが、詳しく解説していただいて興味が湧いてきました。

鞨鼓は能の小道具として登場する鞨鼓よりは大きく、木製の台の上に横向きに置いて、2本のバチで両方の面を打ちます。
三ノ鼓は鞨鼓よりさらに大きく、床に直接横向きに置いて、左手で調べ緒を握り、右手のバチで打ちます。
ちなみに、鞨鼓と三ノ鼓は演奏曲のジャンルが違うため同時に演奏されることはないそうです。

演奏曲の一曲目は「太食調 合歓塩」を鞨鼓と笙、また、篳篥は唱歌(しょうが)で。篳篥の唱歌というものを初めて聞きました。二曲目は「高麗壱越調 貴徳急」を三ノ鼓と篳篥で。本来であれば舞が入る曲だそうです(今回は楽器の演奏のみ)。

能「放下僧」。兄弟が父の仇討ちをするお話。昨日の「鉢木」に引き続き、本日も現在能です。

「放下」というのは大道芸の一種で、「放下僧」は放下を行う僧、または、僧形で放下を行う者のことを呼ぶそうです。

ツレの弟、ワキの敵役にはちゃんと名前があるのに、主人公のシテには名前がなくて「小次郎の兄」となっています。解説で宝生流の和久さんがバカボンのパパに例えていたのがウケました^^*

禅問答の話芸や曲舞・鞨鼓の舞・小歌と芸尽くしが見どころになっています。芸で敵を油断させる同類の曲としては「望月」がありますね。

放下僧の芸が盛り上がりを見せた頃、敵役のワキが笠だけ残してスタスタと立って歩いて切戸口より退場してしまい、兄弟は本人がいなくなった笠に向かって刀を突き立て仇討ちを成し遂げます。おそらく能を初めて見る人にとっては珍妙なシーンだと思うんですが、生々しくならないために考えられたのか、いかにも能らしい面白いお約束ごとですね。あえて解説の時には説明されなかったんですが、初めての方にもわかってもらえたかしらん?

萬狂言新春特別公演 野村萬 米寿記念

萬狂言新春特別公演 野村萬さまの米寿記念公演を拝見して参りました。
今回は萬さまの記念の会ということで、当然ながら萬さまの三番叟が核ではありましたが、もう一つの特徴としては全体を通じて「演出」にこだわった内容になっており、たいへん興味深く鑑賞いたしました。

三番叟〈式一番之伝〉

お正月などに上演されるいわゆる「翁」は正式には「式三番」という名称です。演劇ではなく祭礼として行われる儀式的演目で、もともとは「父ノ尉」「白式尉(翁)」「黒式尉(三番叟)」の三番立てであったため、式三番と呼ばれていましたが、じきに、父ノ尉が省略され、現在ではシテ方が演じる「翁」と狂言方が演じる「三番叟」の二つのみが残った形で上演されています。

今回はさらに翁が省略された、三番叟のみの演出でした。しかしながら、三番叟のみ抜き出したというものではなく、一番のみで儀式として完成されたものに作られていました。

三番叟を演じる萬さまが真っ白な装束をお召しになり、正面に向かって拝礼後「どうどうたらり〜」と謡い始め、その後に千歳の舞、三番叟と続き、一見すると翁と三番叟のミックスのようでしたが、これは通常であれば翁の役が演じる太夫(司祭役)を、この演出では三番叟の役が演じるという位置づけだそうです。ちなみに地謡も全て狂言方が勤めました。

珍しい演出はもちろんですが、やはり88歳になる萬さまが三番叟という動きの激しい役を演じるというところに興味が注がれます。昨年4月に開場した銀座の観世能楽堂でのこけら落とし公演でも、本来であれば人間国宝の萬さまが三番叟を踏まれるのが最も望まれるであろうところを、ご高齢という理由で息子の万蔵さんにお譲りになられており、最近では萬さまの三番叟を拝見する機会はなくなっていました。ですから、今回米寿の節目に萬さまの三番叟を拝見できたことは、我々ファンにとってもたいへん喜ばしいことでした。

激しく動いた後は多少呼吸が荒くなることもありましたが、足腰はいまだしっかりしたもので、まだまだ力強さと迫力にあふれていました。全身全霊をこめた舞が身体的な年齢をさほど感じさせないほど我々を圧倒する一方で、年齢を重ねることにより生み出される気品や神々しさが際立っていました。

千歳はお孫さんの万之丞さんがお勤めになりました。萬さまの円熟の芸に対して若々しく颯爽とした万之丞さんの舞を拝見していると、親から子そして孫へ脈々と芸の継承が行われてきたことを感じることができました。

元日の語

これは和泉流にしかない語りだそうです。萬さまのお孫さんである、拳之介くん、眞之介くんのお二人により晴れやかに語られました。天子の長寿の慶びを表す語りは、萬さまの長寿御祝いにふさわしい内容で祝賀ムードに華を添えました。

蝸牛〈替之型〉

これはよく上演される演目で、太郎冠者が主人に命じられてカタツムリを捕りに行くのですが、カタツムリを見たことがない太郎冠者は籔で一休みしている山伏がカタツムリではないかと問いかけたところ、山伏は自分こそが確かにカタツムリであると太郎冠者に信じ込ませてからかいます。「でんでんむーしむし」と言って囃すフレーズとリズムがとても愉快で何度観ても楽しいお話です。

今回は野村又三郎家に伝わる演出〈替之型〉で、主人と太郎冠者の設定が兄と弟になっていました。シテの山伏は野村又三郎さん、カタツムリを探しに行く弟の役はまだ中学生の奥津健一郎くんが勤めました。

特に子どもが演じるという演目ではないので、たまたま子どもに配役したんだな〜とぼんやりと思っていましたら、驚きの展開が!でんでんむーしむし、と囃す場面で、なんと又三郎さんが健一郎くんを持ち上げて肩車し、この姿勢のままでひたすら演技を続けたのです!こんなのは観たことがなくてたまげました!!

又三郎さんは中学生を肩車して笑顔で足踏みしつつ囃し続けるのは間違いなくきつかったでしょう。健一郎くんも肩の上で真っ直ぐに姿勢を保って囃し続けるのは想像以上に大変だったと思います。肩車も昔から伝わる演出なのでしょうか?だとすれば、演じられる人が限られる演出ですよね(^_^;

山伏の装束で梵天(結袈裟についているポンポンみたいなの)が真っ赤なのが印象的でした。梵天の色は身分を示していて赤は位が高いと聞いたことがありますが宗派にもよるのかな?

信長占い〈一管〉

昨年の7月に萬狂言夏公演で初演された、歴史学者の磯田道史さん作、万蔵さん台本・演出の新作狂言です。今回は〈一管〉という一噌幸弘さんの笛の演奏が入った演出でした。

信長が自分と生年月日が同じ人物を探したとされる史実に基づいたお話だそうです。元の話を知らなくても、信長と家康の関係性など歴史を知っていた方がより楽しめる演目と思います。装束もそれぞれのキャラクターにビッタリで良かったです。

信長の役は万蔵さん。派手な装束に付け髭をつけて暴君ぶりがものすごくハマっていました。実際にはやさしい方だと思いますけど(笑)。あぁ、そういえば先日には万蔵さんの月見座頭を拝見して感動し、座頭がハマリ役だと思ったばかりなのでした。芸域の幅が半端ないですね〜。ハマリ役といえば森蘭丸役の河野佑紀さんもお小姓役にぴったりなキレイはお顔立ちでしたわ〜。

信長シリーズの新作狂言、登場人物も増やして新しいバージョンもどんどん作っていただきたいです!

若菜〈立合小舞・新作下リ端〉

笑うところは特になく皮肉や風刺もないですが、お囃子が入って華やかさがあり、登場人物が嫌味のない良い人ばかりで、ほのぼのと謡と舞が主体で展開し、春の雰囲気に包まれ幸せな気分になれる演目です。今回は万蔵さんの新演出だそうです。

萬さまの海阿弥、万蔵さんの果報者という配役。万蔵家の他に、野村又三郎家、三宅家、井上松次郎さんら和泉流の他家の皆様も大原女としてご出演され、華麗な舞の競演、装束もそれぞれ異なる色で9名が並ぶととてもカラフルで綺麗でした。

大原女が次々と舞い謡う間、にこやかに控えていた萬さまが、最後に謡い舞う様子にうっとり見惚れておりましたが、終盤で片足けんけんする型をなさったのにはびっくり!三番叟という大仕事の後に、まだまだそれだけの余力があったのには驚かされました。これからもまだまだお元気にご活躍いただけそうです(*^_^*)

萬狂言 秋公演

ファミリー狂言会の後は、萬狂言 秋公演を拝見しました。以下、感想など。

小舞

野村万蔵さんの3人のご子息による小舞三番。若々しくそれぞれの個性が出ていてとても良かった。「鮒」はとても難易度が高そうだった。三番叟を披かれた万之丞さんはどんどん難しい曲に挑戦していくのだろう。今回もお稽古の成果が十二分に発揮できていたと思う。

萩大名

この演目は何度観たかわからないほど度々観ている。しかし配役によって毎回違った印象を受けるので何度観ても面白いと思う。大名がアホすぎてオチはわかっているけどやっぱり笑ってしまう。太郎冠者が教養高くて賢いっていうのがちょっと珍しい。

休憩時間に国立能楽堂の中庭に出てみたら折良く萩がたくさんの花を咲かせていた。しかも、萩大名に出てきたミヤギノハギ。なんとタイムリーな!

鳴子

これを観ただけでも来た甲斐があったと思うくらい素晴らしかった。野村萬さまと万蔵さん親子の太郎冠者と次郎冠者。主人に命じられて稲穂実る山の田に群鳥を追いにやってくるが、主人が差し入れてくれた酒を呑み、酒盛りが始まって謡ったり舞ったりのお決まりパターン。

しかし、他の演目と違うのは二人の連吟や連舞という芸を楽しめること。二人交互に舞い謡うならよくあるかもだけど、一緒にというのがポイント。二人仲良く並んで、向かって右側の太郎冠者と左側の次郎冠者が鳴子を鳴らしたり、揃って舞う姿は美しいシンメトリーであり祭礼的な神々しさすら感じさせられる。脇正面席で観ていたが、今回は正面席にすればよかったとちょっぴり後悔した。

酒盛り芸で好きな演目は「木六駄」だが、主人に命じられて仕方なく冬の雪深い山道を牛を追わなくちゃ行けないなどの厳しさがある。「鳴子」は季節が秋で田園風景が広がり、人間関係でギスギスしたものが一切無く、この上なくほのぼのとしている。平和を乱すのは稲穂を狙う鳥くらいだ。それも二人の鳴子によって追い払われる。また平和が戻って優しい時間が流れていく。

主人の役は万之丞さん。三世代の共演。働く二人をねぎらいお酒を差し入れる優しいご主人様。こういう上司がいたらいいよね。それでもなかなか帰って来ない二人が酔い潰れて眠り込んでいるのを発見して追い込むパターンはおなじみ。見つかってこれはシマッタという顔で逃げ出す万蔵さんと、あぁバレちゃった〜でもまぁいいよね(てへぺろ♪)みたいな余裕の笑顔で逃げる萬さま。毎回この笑顔にやられっぱなし(主人も観客も。笑)。

引く物尽くしや名所尽くしの長い謡だとか、鳴子を持って拍子を踏んだり浮き廻りを繰り返したり、体力が要ること間違いなしのこの芸を、いかにも楽しそうに謡い舞うというのは、よほどの技量が必要だろう。

「鳴子」を観たのはおそらく初めてだけど、この二人で観てしまったので、次に別の配役で観てもなかなか満足できないかもしれない。

合柿

柿売りが甘い柿だと言って参詣人らに売ろうとするが、試しに食べさせた柿が渋柿で、柿売りが食べてみてそれが甘かったらカゴごと買ってやるという参詣人らに、食べたらやっぱり渋柿で柿売りはそれを甘いように振る舞うがごまかしきれず、最後は参詣人にどつかれて売り物の柿もばらまかれて終わる話。

これ結局どっちが悪いのかな?柿売りが渋柿と知っていながら甘いと騙して売りつけようとした?それとも柿売りには悪気はなく試したのがたまたま渋柿で参詣人らが過剰なイジメをした?
柿売りは渋くてもとにかく売れればいいとズルい考えを抱いていたかもだけど、最後のしっぺ返しには多勢に無勢の感があり、ちょっと柿売りに同情してしまった。柿売りを演じた万禄さんが難しい役柄を好演。


秋を感じさせる演目の数々、甘い話も苦い話も楽しゅうございました。ごちそうさまでした。

萬狂言 ファミリー狂言会 秋

萬狂言 ファミリー狂言会に初参加しました。以下、感想など。

柿山伏

近頃は小学校6年生の教科書に載っているとのこと。私が小学生の頃には「附子」が載っていた。
「附子」はストーリーが滑稽で単純に面白いと思うが、「柿山伏」の場合は動物の鳴き声(それも昔の表現)が出てきたりするので、言葉の面白さが小学生の好奇心をそそるのではないかな。

小笠原匡さんの解説

「首引」の解説で、鬼がかける狂言面を実際につけて鬼が人間を怖がらせる演技。小笠原さんが「どうです?怖いでしょう〜〜」と言うと子どもたち「怖くないーー笑」。子どもは正直だな(笑)。次にやはり同じ面をかけて今度は情けない演技。先ほどの怖い鬼と対比すると全く違う印象に、場内からほおぉーーと感嘆の息が漏れる。

次に「首引」に出てくるセリフをみんなで大きな声で言ってみるお稽古。小笠原さんが見本をやって見せ、後について復唱。小笠原さんが「これは嬉しそうに!怖そうに!痛そうに!」と言うんだけど、なかなかオーバーな表現は難しいみたい。やっぱり恥ずかしいのかな。

小笠原さんは観客をノセるのがとても上手い。子どもたちも楽しげに前のめりになって体験を楽しんでいた。

首引

人を喰らう恐ろしい鬼も可愛い娘には親バカになってしまうところが、鬼なのに人間くさくて可愛らしい。そういえば、「人くさい」という言葉は狂言では「美味しそうな人間のにおいがする」の意味と解説されていた。狂言に出てくる鬼は人間以上に人間っぽいところがあって面白い(人間の方がよっぽど鬼かと思うことがある)。

小鬼たちが姫鬼を加勢する場面のかけ声「えーいさらさ、えいさらさー」を一緒に声出していいですよ、と事前に小笠原さんに言われていたので、子どもたちの中には一緒にかけ声を掛ける子も。

上演後に「鬼が怖かった人ーー、可愛いと思った人ーー」と聞かれて、みんな「可愛いーー♡」と答えていた。この後、「えーいさらさ、えいさらさー」がしばらく頭を離れなくなる。

狂言たいそう

実はひそかにこれを楽しみにしてきた。河野佑紀さん始め、若手の狂言師の皆さんが舞台上に勢揃い。まず小学生までの子どもたちがその場で立つように促される。それ以外の大きい人達は場所が空いていたら立つ。

河野さんから個々の歌詞や動作の説明があって、音楽がかかる。おぉーー、音楽があるんだ!?と楽しい気分になってくる。歌は万蔵さん!手持ちのプログラムを見ると歌詞も万蔵さん作。振り付けは歌のおにいさんの佐藤弘道さんと一緒に作ったんだって。

大人は誰も立っていなかったので座席に座ったままで一緒にたいそうした(本当は立ちたかった。笑)。狂言の台詞や動作がたくさん入っていて楽しかった。全国の小学校で流行らせたいな。

初めてファミリー狂言会に参加したが、子どもたちのお行儀が良い。騒ぐ子は一人もいなかった。大人の言うことをよく聞く良い子ばかりだ。でもちょっとおとなしかったかな。

私の前列に座っていた小学校高学年の男の子が終始とっても楽しそうだったんだけど(彼のワクワク感が伝わってきた)、隣のお母さんの顔色を気にして立ち上がる勇気が出なかった様子。お母さんが笑顔で「ほら立ってやってごらん」と促せば彼はきっと立ち上がって楽しくたいそうしただろう。

シャイな子どもも多いから、大人が率先してノリノリで楽しむところを見せた方がいいんじゃないかなと思った。場合によっては大人も一緒になってたいそうする。ほらお父さん、お母さん、恥ずかしがらずにご一緒に!


ファミリー狂言会とても楽しかったです。お子様はもちろん、演目も解説もわかりやすいので、狂言初心者の大人にもお勧めと思いました。

萬狂言 秋公演につづく。

パリ日本文化会館20周年記念 特別狂言公演 KYÔGEN “人間国宝・野村萬師をお迎えして”

パリ日本文化会館20周年記念として催された特別狂言公演を拝見して参りました。

和泉流狂言方・小笠原匡さんからパリで狂言の特別公演を催すというお話をお伺いしたのは一年以上前のお話。まさか自分が海外にまで日本の伝統芸能の公演を観に行くことになるとは思ってもいなかったです。
しかし、御年87歳の野村萬さまが遠路はるばるフランスまでお越しになりご出演なさるとお聞きして、これはこの上ない素晴らしい機会、もう行くしかないでしょ!!と、勢いで決心してからはトントン拍子で話が進んで、ついにフランスの地に降り立っちゃいました。

二日間の公演は前売チケットは早々に完売となっていました。スゴイ人気です!!
あらかじめ小笠原さんの奥様にお手配いただいていたのでホント良かった〜。
演目は両日とも「三番叟」「金岡 大納言」「二人袴」の三曲。
私は二日目の千秋楽を拝見しました。

海外公演では、どうしても外国の方々のウケが良さそうで出演人数も少なくて済む、棒縛や附子や蚊相撲なんかが選ばれそうな気がしていたので(←あくまでイメージです)、ストーリー性より儀式性の要素が強い三番叟や稀曲の金岡が上演されることは意外でした。それに、お囃子が必要な曲だったのも、海外公演としては何とも贅沢な選曲と感じました。

オープニングは「三番叟」。三番叟は野村万蔵さん、千歳は今年1月に襲名したばかりの野村万之丞さん。万蔵さんの三番叟は何度か拝見していますが、パリで拝見したからでしょうか?一段とお洒落な三番叟に見えました☆彡 儀式的な緊張感は日本と変わらず、特別公演の幕開きにふさわしい素晴らしい三番叟でした(^o^)

三番叟って日本人にとっても他の狂言の曲と比較して少し特殊に感じる曲だと思うんですが、フランス人の方々にはどう感じられたのかなーと興味あります。私が初めて三番叟を観た時のような神秘性をフランスの方も感じたでしょうか。
フランスも日本と同じ農耕民族ですから、五穀豊穣を寿ぐ三番叟の精神には相通ずるものがあるかもしれません。

萬さまがシテをお勤めの「金岡」。妻役は能村晶人さん。
この曲は和泉流にしかない稀曲だそうで、私もおそらく初めての拝見です。

絵師である金岡が宮中で美人の女中に一目惚れをして物狂いとなる。 それを心配した妻に話すのですが(え、話しちゃうんだ!と思いましたが、物狂いになってますから、止められないんですね。笑)、そんなら私の顔を彩色して美人にしてみなさい、と妻は言います。そして妻の顔に色を塗り始めますが、やっぱり美人にはほど遠い、と言ってしまい妻の怒りを買う・・・というお話。

舞台上で本物の紅白粉を使って筆で妻の顔に色を塗るシーンがあって、舞台や装束に粗相をしないように塗るだけでも気を遣いそう〜。それなのに、どうってことないよって感じで軽やかにやってのける萬さま。
宮廷絵師で素晴らしい絵を描けるはずなのに、おてもやんのような顔だったので(まるでわざと下手っぴに塗って妻をおちょくっているかのよう。笑)お客さんにも大ウケでした。

お囃子も入って格調高い謡や舞で観客を魅了する。大曲でありながら素直に笑える要素も多くて面白い曲でした。

おいくつになられても艶っぽく恋の狂いを演じるのがお似合いになる萬さま。一昨年は枕物狂でその芸格の高さに圧倒されましたが、あぁーー、またもや至芸の極みを拝見してしまった(*´▽`*) これを拝見できただけでもはるばるフランスまでやって来た甲斐があったというものです。

トリの演目は、小笠原匡さん、弘晃さん親子が、実の親子役を勤める「二人袴」。この演目は万国共通で楽しく見られる内容だと思うのですが、予想通りめっちゃうけていました。あと、実の親子が演じたせいか、一段と愛にあふれた二人袴でしたねぇ〜(*´▽`*)

弘晃さんはパリ在住でフランス語が堪能なので、フランス語で演じるバージョンがあったらきっと面白いんじゃないかな〜とふと思ったりもしました。他の役者さんがフランス語できなくても、日本語とフランス語まぜこぜでも面白いと思いますよん(^_^)v

フランス人の観客の皆さんがどのような反応をするのか興味津々でしたが、驚くほど日本的な鑑賞態度でした。
拍手もお囃子方や地謡がすべて退場した後のタイミングで起こり、余韻を楽しんでいました。このへん、予習してきたのかと思うほど日本的(むしろ日本よりマナーが良かったくらいに感じました)。
観客の中に日本人が多く含まれていたこと、また、もともと日本文化に造詣が深いフランス人が多かったと思われることもあると思いますが、日本のものに限らず舞台芸術を見慣れているなどで勘所が自然と備わっている方々が多かったのかもしれません。

次にパリ日本文化会館のホールについての感想です。

通常、能舞台でない普通のホールを能や狂言で使用する場合は、本物の舞台上に仮の柱を立て、舞台上の脇正面席の領域に黒っぽい幕などを敷いてデッドスペースにしてしまいますが、今回のホールでは座席が可動式になっていて、目付柱などはもちろん仮の柱ですが、ちゃんとした脇正面席が作られていました。

フランスのお客さんの体格に合わせているのだと思いますが、椅子がゆったりしていて座り心地がとても良かったです。前の椅子との間隔も広くてゆったり足が伸ばせるほど。前の列から適当な高低差があり、前の人の頭はまったく気になりませんでした。

座席番号が後列からアルファベ順に振られていて、客席の中央を境に左右に分けて、席番が偶数・奇数に分かれていたので(これ世界標準?)、自分の席を探すのかなり迷っちゃいました(^_^;

鏡板は布に松の絵が描かれたものだったのでちょっとばかりショボーンな感じでした(´・ω・`)。
また、舞台に張ってある床板も普通の能舞台のように檜の一枚板ではないので(もちろん瓶も埋まっていない(^_^;)、足拍子がきれいに響かないというような難しさはあったように聞きました。

フランスに能楽堂を・・・という話もあったりなかったり・・・するとか?
実現すると良いですね(^_^)

フランスを始めとして世界に狂言や日本の伝統文化を広めるために尽力なさっている小笠原さんご家族や、素晴らしいお舞台をご披露していただいた万蔵家御一門の方々に心からの敬意を表したいです。

公演日以外はパリやベルサイユを観光して、まぁ旅行先ならではのハプニングもあったりはしましたが、とても楽しいフランス滞在となりました。

あまりに楽しかったので、ぜひまた行きたいと思い、残ったユーロを日本円に両替しないで持ち帰ってきました(笑) またヨーロッパですごい公演が企画されることを願います!

パリ日本文化会館。エッフェル塔の近くにあります。想像してた以上に立派な会館でした。
能舞台を仮設したホール。ちゃんと脇正面席があります! たいへん座り心地の良いお座席でした。でも、鏡板がちょっぴりショボーン(´・ω・`)

新春特別企画「粟谷明生の能楽教室」

喜多流シテ方・粟谷明生さんの新春特別企画「聴いて、観て、舞って、謡って、触れて」の鑑賞と体験の「粟谷明生の能楽教室」に参加して参りました。

※撮影した写真の掲載については、粟谷明生さんより許可を頂戴しております。

二部に分かれていて、第一部は明生さんによる素謡と仕舞を鑑賞。

まずは素謡『翁』。

この曲を聴くと、お正月らしいおめでたい気分になりますねぇ~。

素謡 『翁』  by 粟谷明生氏、佐藤陽氏

それから能の五番立(神・男・女・狂・鬼)に基づき、明生さんが仕舞を舞われました。

それぞれの仕舞の前には能面を見せて頂きながら曲の解説も。

初番目(神)『高砂』

かつては結婚式でも一節が謡われていたおめでたい曲です。先ほど素謡で謡われた『翁』の後に上演されることも多いですね。

二番目(男)『八島』

平家物語を題材にした曲です。『八島』の仕舞は絵になりますねぇ~。どの写真もかっこよくてどれを掲載するか迷いました。

三番目(女)『羽衣』

流儀によって使用する面が異なるのだそうです。喜多流では可愛らしい『小面』を使用。

四番目(狂)『弱法師』

盲目の僧が主人公の曲です。杖を使用して舞います。この曲で使う面の切れ長な目からは意外と視界が開けているそうで、実際にはよく見えているのに、いかにも見えていないように演じるところが腕の見せ所。

五番目(鬼)『船弁慶』

これも平家物語が題材で、平知盛が薙刀をふりまわして暴れ回るかっこいい曲。しかし、他の演者やお囃子方に薙刀が当たらないように細心の注意を払って舞っているそうです。それでいて迫力を出すのだからすごい!

ちなみに、シテが扇以外のもの(杖や薙刀など)を持って舞う曲は難易度が高いのでそれなりの修行を積まないと舞うことを許されないんだそうです。

五番の仕舞を立て続けに舞われた明生さん、しかも解説トークをはさみながらの大熱演。お疲れ様でした~。

休憩をはさみ、第二部は体験コーナー。

装束つけ以外は基本的に全員で体験します。

まずは能面をかけてみる体験。

各自好きな能面を選んでかけさせていただきます。

私もかけてもらいました~。

おぉ~、小さな目の穴ですが、前方は意外と見えます。
近く、特に足もとは全然見えないです。

舞ってみました。
どのくらい扇が上がっているかなど扇が目の前に来ないと見えないので、視覚ではなく身体の感覚のみで腕を上げる位置が決まるようにしておかなければならないのですね~。難しい・・・。

謡体験。
全員で『高砂』の一節を大きな声で謡います。
謡本などは見ないで、明生さんが謡った後に、耳で聞いた通り繰り返すいわゆるオウム返しです。謡のお稽古では一般的な教授方法です。

仕舞体験。
扇の扱い方と基本的な型を2~3教わって最後に全員で舞台上で舞いました。

小鼓体験。
全員が体験できるように七丁もの小鼓が用意されていました。

手組(打ち方、かけ声の型)の説明。今回は三地とツヅケをやってみます。同じ名前の手組でも流儀によって型が異なるんですね~。

まずは明生さんにお手本を見せて頂きます。

鼓の持ち方から打ち方まで丁寧に教わります。
まずはポンポンと各自好きなように打ってみた後、
かけ声も教わって最後はみんなで一緒に打ちました。

装束体験。
お客さんの一人が代表して着せて頂き、解説して頂きました。

明生さんの演技もたっぷり拝見できたし、体験も盛り沢山でみんなでワイワイとっても楽しかったです♪