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萬狂言 ファミリー狂言会 秋

萬狂言 ファミリー狂言会に初参加しました。以下、感想など。

柿山伏

近頃は小学校6年生の教科書に載っているとのこと。私が小学生の頃には「附子」が載っていた。
「附子」はストーリーが滑稽で単純に面白いと思うが、「柿山伏」の場合は動物の鳴き声(それも昔の表現)が出てきたりするので、言葉の面白さが小学生の好奇心をそそるのではないかな。

小笠原匡さんの解説

「首引」の解説で、鬼がかける狂言面を実際につけて鬼が人間を怖がらせる演技。小笠原さんが「どうです?怖いでしょう〜〜」と言うと子どもたち「怖くないーー笑」。子どもは正直だな(笑)。次にやはり同じ面をかけて今度は情けない演技。先ほどの怖い鬼と対比すると全く違う印象に、場内からほおぉーーと感嘆の息が漏れる。

次に「首引」に出てくるセリフをみんなで大きな声で言ってみるお稽古。小笠原さんが見本をやって見せ、後について復唱。小笠原さんが「これは嬉しそうに!怖そうに!痛そうに!」と言うんだけど、なかなかオーバーな表現は難しいみたい。やっぱり恥ずかしいのかな。

小笠原さんは観客をノセるのがとても上手い。子どもたちも楽しげに前のめりになって体験を楽しんでいた。

首引

人を喰らう恐ろしい鬼も可愛い娘には親バカになってしまうところが、鬼なのに人間くさくて可愛らしい。そういえば、「人くさい」という言葉は狂言では「美味しそうな人間のにおいがする」の意味と解説されていた。狂言に出てくる鬼は人間以上に人間っぽいところがあって面白い(人間の方がよっぽど鬼かと思うことがある)。

小鬼たちが姫鬼を加勢する場面のかけ声「えーいさらさ、えいさらさー」を一緒に声出していいですよ、と事前に小笠原さんに言われていたので、子どもたちの中には一緒にかけ声を掛ける子も。

上演後に「鬼が怖かった人ーー、可愛いと思った人ーー」と聞かれて、みんな「可愛いーー♡」と答えていた。この後、「えーいさらさ、えいさらさー」がしばらく頭を離れなくなる。

狂言たいそう

実はひそかにこれを楽しみにしてきた。河野佑紀さん始め、若手の狂言師の皆さんが舞台上に勢揃い。まず小学生までの子どもたちがその場で立つように促される。それ以外の大きい人達は場所が空いていたら立つ。

河野さんから個々の歌詞や動作の説明があって、音楽がかかる。おぉーー、音楽があるんだ!?と楽しい気分になってくる。歌は万蔵さん!手持ちのプログラムを見ると歌詞も万蔵さん作。振り付けは歌のおにいさんの佐藤弘道さんと一緒に作ったんだって。

大人は誰も立っていなかったので座席に座ったままで一緒にたいそうした(本当は立ちたかった。笑)。狂言の台詞や動作がたくさん入っていて楽しかった。全国の小学校で流行らせたいな。

初めてファミリー狂言会に参加したが、子どもたちのお行儀が良い。騒ぐ子は一人もいなかった。大人の言うことをよく聞く良い子ばかりだ。でもちょっとおとなしかったかな。

私の前列に座っていた小学校高学年の男の子が終始とっても楽しそうだったんだけど(彼のワクワク感が伝わってきた)、隣のお母さんの顔色を気にして立ち上がる勇気が出なかった様子。お母さんが笑顔で「ほら立ってやってごらん」と促せば彼はきっと立ち上がって楽しくたいそうしただろう。

シャイな子どもも多いから、大人が率先してノリノリで楽しむところを見せた方がいいんじゃないかなと思った。場合によっては大人も一緒になってたいそうする。ほらお父さん、お母さん、恥ずかしがらずにご一緒に!


ファミリー狂言会とても楽しかったです。お子様はもちろん、演目も解説もわかりやすいので、狂言初心者の大人にもお勧めと思いました。

萬狂言 秋公演につづく。

パリ日本文化会館20周年記念 特別狂言公演 KYÔGEN “人間国宝・野村萬師をお迎えして”

パリ日本文化会館20周年記念として催された特別狂言公演を拝見して参りました。

和泉流狂言方・小笠原匡さんからパリで狂言の特別公演を催すというお話をお伺いしたのは一年以上前のお話。まさか自分が海外にまで日本の伝統芸能の公演を観に行くことになるとは思ってもいなかったです。
しかし、御年87歳の野村萬さまが遠路はるばるフランスまでお越しになりご出演なさるとお聞きして、これはこの上ない素晴らしい機会、もう行くしかないでしょ!!と、勢いで決心してからはトントン拍子で話が進んで、ついにフランスの地に降り立っちゃいました。

二日間の公演は前売チケットは早々に完売となっていました。スゴイ人気です!!
あらかじめ小笠原さんの奥様にお手配いただいていたのでホント良かった〜。
演目は両日とも「三番叟」「金岡 大納言」「二人袴」の三曲。
私は二日目の千秋楽を拝見しました。

海外公演では、どうしても外国の方々のウケが良さそうで出演人数も少なくて済む、棒縛や附子や蚊相撲なんかが選ばれそうな気がしていたので(←あくまでイメージです)、ストーリー性より儀式性の要素が強い三番叟や稀曲の金岡が上演されることは意外でした。それに、お囃子が必要な曲だったのも、海外公演としては何とも贅沢な選曲と感じました。

オープニングは「三番叟」。三番叟は野村万蔵さん、千歳は今年1月に襲名したばかりの野村万之丞さん。万蔵さんの三番叟は何度か拝見していますが、パリで拝見したからでしょうか?一段とお洒落な三番叟に見えました☆彡 儀式的な緊張感は日本と変わらず、特別公演の幕開きにふさわしい素晴らしい三番叟でした(^o^)

三番叟って日本人にとっても他の狂言の曲と比較して少し特殊に感じる曲だと思うんですが、フランス人の方々にはどう感じられたのかなーと興味あります。私が初めて三番叟を観た時のような神秘性をフランスの方も感じたでしょうか。
フランスも日本と同じ農耕民族ですから、五穀豊穣を寿ぐ三番叟の精神には相通ずるものがあるかもしれません。

萬さまがシテをお勤めの「金岡」。妻役は能村晶人さん。
この曲は和泉流にしかない稀曲だそうで、私もおそらく初めての拝見です。

絵師である金岡が宮中で美人の女中に一目惚れをして物狂いとなる。 それを心配した妻に話すのですが(え、話しちゃうんだ!と思いましたが、物狂いになってますから、止められないんですね。笑)、そんなら私の顔を彩色して美人にしてみなさい、と妻は言います。そして妻の顔に色を塗り始めますが、やっぱり美人にはほど遠い、と言ってしまい妻の怒りを買う・・・というお話。

舞台上で本物の紅白粉を使って筆で妻の顔に色を塗るシーンがあって、舞台や装束に粗相をしないように塗るだけでも気を遣いそう〜。それなのに、どうってことないよって感じで軽やかにやってのける萬さま。
宮廷絵師で素晴らしい絵を描けるはずなのに、おてもやんのような顔だったので(まるでわざと下手っぴに塗って妻をおちょくっているかのよう。笑)お客さんにも大ウケでした。

お囃子も入って格調高い謡や舞で観客を魅了する。大曲でありながら素直に笑える要素も多くて面白い曲でした。

おいくつになられても艶っぽく恋の狂いを演じるのがお似合いになる萬さま。一昨年は枕物狂でその芸格の高さに圧倒されましたが、あぁーー、またもや至芸の極みを拝見してしまった(*´▽`*) これを拝見できただけでもはるばるフランスまでやって来た甲斐があったというものです。

トリの演目は、小笠原匡さん、弘晃さん親子が、実の親子役を勤める「二人袴」。この演目は万国共通で楽しく見られる内容だと思うのですが、予想通りめっちゃうけていました。あと、実の親子が演じたせいか、一段と愛にあふれた二人袴でしたねぇ〜(*´▽`*)

弘晃さんはパリ在住でフランス語が堪能なので、フランス語で演じるバージョンがあったらきっと面白いんじゃないかな〜とふと思ったりもしました。他の役者さんがフランス語できなくても、日本語とフランス語まぜこぜでも面白いと思いますよん(^_^)v

フランス人の観客の皆さんがどのような反応をするのか興味津々でしたが、驚くほど日本的な鑑賞態度でした。
拍手もお囃子方や地謡がすべて退場した後のタイミングで起こり、余韻を楽しんでいました。このへん、予習してきたのかと思うほど日本的(むしろ日本よりマナーが良かったくらいに感じました)。
観客の中に日本人が多く含まれていたこと、また、もともと日本文化に造詣が深いフランス人が多かったと思われることもあると思いますが、日本のものに限らず舞台芸術を見慣れているなどで勘所が自然と備わっている方々が多かったのかもしれません。

次にパリ日本文化会館のホールについての感想です。

通常、能舞台でない普通のホールを能や狂言で使用する場合は、本物の舞台上に仮の柱を立て、舞台上の脇正面席の領域に黒っぽい幕などを敷いてデッドスペースにしてしまいますが、今回のホールでは座席が可動式になっていて、目付柱などはもちろん仮の柱ですが、ちゃんとした脇正面席が作られていました。

フランスのお客さんの体格に合わせているのだと思いますが、椅子がゆったりしていて座り心地がとても良かったです。前の椅子との間隔も広くてゆったり足が伸ばせるほど。前の列から適当な高低差があり、前の人の頭はまったく気になりませんでした。

座席番号が後列からアルファベ順に振られていて、客席の中央を境に左右に分けて、席番が偶数・奇数に分かれていたので(これ世界標準?)、自分の席を探すのかなり迷っちゃいました(^_^;

鏡板は布に松の絵が描かれたものだったのでちょっとばかりショボーンな感じでした(´・ω・`)。
また、舞台に張ってある床板も普通の能舞台のように檜の一枚板ではないので(もちろん瓶も埋まっていない(^_^;)、足拍子がきれいに響かないというような難しさはあったように聞きました。

フランスに能楽堂を・・・という話もあったりなかったり・・・するとか?
実現すると良いですね(^_^)

フランスを始めとして世界に狂言や日本の伝統文化を広めるために尽力なさっている小笠原さんご家族や、素晴らしいお舞台をご披露していただいた万蔵家御一門の方々に心からの敬意を表したいです。

公演日以外はパリやベルサイユを観光して、まぁ旅行先ならではのハプニングもあったりはしましたが、とても楽しいフランス滞在となりました。

あまりに楽しかったので、ぜひまた行きたいと思い、残ったユーロを日本円に両替しないで持ち帰ってきました(笑) またヨーロッパですごい公演が企画されることを願います!

パリ日本文化会館。エッフェル塔の近くにあります。想像してた以上に立派な会館でした。
能舞台を仮設したホール。ちゃんと脇正面席があります! たいへん座り心地の良いお座席でした。でも、鏡板がちょっぴりショボーン(´・ω・`)

延年之會 第参回「コンメディア合戦!! イタリア仮面劇 vs 狂言」

和泉流狂言師・小笠原匡さんが主催する、延年之會 第参回「コンメディア合戦!! イタリア仮面劇 vs 狂言」を拝見しました。

イタリアで16世紀に発祥した伝統的仮面劇であるコンメディア・デッラルテはヨーロッパでの商業的な演劇の起源だそうです。

シェークスピアやモリエール、セルバンテスなどのヨーロッパの名だたる劇作家たちがコンメディア・デッラルテの影響を受けて創作したというのですから驚きです!

狂言と共通するところは、どちらも仮面を使用するところ、また、喜劇であること。

使う仮面によって役柄や性格が決まったり、お金に執着する父親や主人を恐れる召使いなど「お約束的なキャラクター」が出てくるところ、「お約束的なストーリー設定」が存在するところなどは、狂言によく似ています。

一方、狂言と異なる特徴としては、台本はなく粗筋だけが決まっていてあとは即興であること、風刺性が何よりも際立っていること、女性の役者が登場することなど。

綺麗な女優さんの顔が見えないのはもったいないので、女優は面をかけないんですって。女優を起用してから観客も増えたそうな^^*

狂言と違って、性格の良い人は出てこないんだそうです。だから母親は登場しないんですって。さすが、お母さんを大切にするお国柄ならではですね。マンマミーア!

さて、今回の上演では、狂言とのコラボがどのような形で提供されるのか、始まる前から興味津々!o(^-^)o

前半は、古典的な狂言の演目と典型的なイタリア仮面劇の名場面をそれぞれの役者により一番ずつ上演。

そして後半は、前半に上演した古典狂言を翻案したイタリア仮面劇が上演されました。

観る前はイタリア語のお芝居が理解できるか心配でしたが、日本人の役者さんが日本語のセリフを途中で入れたり、イタリア語だけでなく、英語セリフも混ざっていたので、全然大丈夫でした!

また設定がわかりやすく、台詞回しや動きも大袈裟で面白いので、言葉がわからなくてもとっても楽しめました。現代のコントにも相通じる感覚で馴染みやすく、ボケツッコミ、ノリツッコミのような、関西芸的な一面も(笑)。

狂言の演目の翻案作品は、題材の狂言を観た後だったので、特に理解しやすく面白くて大笑いしちゃいました♪
狂言の「附子」が「ウラン」になって防護服を着ちゃったりして、現代的な風刺が入っていてなかなかブラックでしたね~。

鏡板に近づきすぎたイタリア人役者さんに小笠原さんが「あんまり近づかないで、怒られるから!(^_^;」とかアドリブで言ってて笑っちゃいました(笑)。
役者が観客席から登場したり、キザハシ(能舞台の正面にある階段)を昇り降りしたり、普段の能狂言の舞台ではありえない演出もたくさんありました。

正直、能舞台でここまでやっちゃってもいいの??という演技もかなり多かったですが、そのハチャメチャ感は決して嫌いじゃないです(笑)

この企画は今回が初めてなのかなと思ってましたが、大阪では以前から上演していたそうで、東京は初お目見えだそうです。

大阪と東京では能楽堂の対応や観客の反応も違うため演出などは変えた部分もあるとお聞きしました。即興の舞台芸術においては当然なことなのかもしれないですが、ご苦労なことも多かったと思います。本当にお疲れ様でした~。

古典狂言の方には東京公演のみ野村万蔵さんが特別出演、やはり華があり舞台が引き締まりますね^^*

イタリア人役者のアンジェロ・クロッティさん、アンドレア・ブルネェラさんはイタリアのみならずヨーロッパ各地でご活躍の俳優さんだそうです。少しお話させていただきましたが、とても楽しくてチャーミングなお二方でした♪

これまで狂言師としてしか拝見していなかった小笠原さんの今回の舞台役者っぷりはとても堂に入っていて、つくづく多才な方だなぁ~と感服いたしました。

女優のTAKAKOさん、これまで能楽堂のロビーでおしとやかな和服姿はよくお見かけしていたのですが、今回初めて舞台上でのご活躍を拝見することができ、いきいきとしたコメディエンヌぶりがとても素敵でした♡

若い神宮一樹さん、とても上手なのでてっきり本職の役者さんだと思っていましたら、ご本人にお伺いしたら小笠原さんの狂言のお弟子さんだそうで、イタリア留学時のご縁でこの演劇に出会い舞台に参加する運びとなったそうです。これからもぜひ頑張って続けてほしい!

おかげさまで楽しい時間を過ごしました。小笠原匡さんは次回はどのような驚きを我々に提供してくださるのでしょうか!?とても楽しみです!\(^O^)/

第弐回 延年之會

和泉流狂言方、小笠原匡さんの延年之會に行って参りました。

狂言「昆布売」

召使いが出払っていて一人で出かけた大名が通りがかりの昆布売りに太刀持ちをさせようとするが、大名になぶられて腹を立てた昆布売りが太刀で脅して代わりに昆布を売らせようとし・・・。

小笠原匡さんのご長男、弘晃君が昆布売り、人間国宝の野村萬さまが大名の役です。
昆布売りが大名に謡節、浄瑠璃節、踊節などで売ってみよと次々と命令するのですが、二人がそれぞれに謡ったり踊ったりするのが面白いです。浄瑠璃節では三味線をマネる場面があり、三味線は比較的新しい楽器で狂言に出てくるのは珍しいような気がして、おや、なんだか新鮮、と思ってしまいました。

萬さまにお相手していただいた弘晃君、年の差は70歳くらいはあり、本当の祖父と孫のように萬さまが温かく包み込んで弘晃君を導き、弘晃君も緊張する様子を見せずのびのびと演じていました^^*

新作落語狂言「子ほめ」

酒好きの男がタダで酒が飲めると聞いてご隠居を訪ねる。ご隠居から人に酒を飲ませてもらうにはお世辞の一つでも言うようにと年齢を見た目より若く言うと良いなどと教わる。そして最近子どもが産まれたという知り合いの家を訪ねてタダ酒にありつこうとする。しかし、元々口が悪い性分に加えて教わったことに応用が利かない男はかえって相手を怒らせてしまい・・・。

落語の「子ほめ」をベースに、故八世野村万蔵さんが劇作・演出した新作狂言です。
小笠原匡さんは八世万蔵さんの一番弟子。師匠の得意曲でシテを演じられました。
私は落語には詳しくないのでイメージとして、少しばかりおバカでズレたキャラが出てきてトンチンカンなことをするというのは、いかにも狂言にありそうな話で、狂言の素材として落語は相性が良さそうです。

上演後の懇親会で九世野村万蔵さんにお伺いしたお話では、落語狂言は何曲かあるそうですが、狂言に合う演目とそうでないのもあるそうで、その中でも子ほめは一番しっくりくる曲じゃないかとおっしゃっていました。

また、演出で細部を変えたりするそうで、確かに今回もエンディングが常と変わっていたり、現代の言葉で洒落を飛ばすような演出がありました。落語自体が古典を現代風にアレンジしたり、客の反応などに応じてどんどん内容を変えていける類の演芸だそうなので、狂言の方も同じように自由に変化させやすいというのはありそうです。

狂言「木六駄」

言わずと知れた狂言の大曲です。以前にも木六駄については書いたことがあるので、あらすじについてはこちらをどうぞ。
萬狂言 冬公演 大倉流和泉流 異流公演 二題

私がまだ能の観始めで狂言は能と能の間に演じられるコメディと捉えていた頃、この曲を観て初めて狂言の演劇性や技芸の奥深さに目覚めたという演目です。以来、この曲が大好きになり上演される時は好んで観に行っています。

小笠原さんは今回この曲のシテを50代で初主演ということでした。野村万蔵さんが茶屋、野村萬さんが伯父を勤め華を添えます。

前半の牛追いのシーンは一人芝居で、雪深い山道の情景や言うことを聞かずに逃げたり動かなくなったりする牛をあたかも舞台上にいるように表現しないといけないたいへん技量の要る場面です。勝手な牛たちに翻弄されてへとへとになる様子はコミカルでもありますが、雪深さと寒さと周囲の静けさを感じさせるような情趣があります。

後半は茶屋との酒盛りがメインのシーンで、主人の酒に勝手に手をつけて酔っていくうちにだんだん気が大きくなり全て飲み干してしまい牛に運ばせてきた薪まで茶屋に渡してしまいます。この酒宴での茶屋との掛け合いはとても楽しい場面です。謡や舞も聴きどころ見どころで、特に相当酔って足をぐらつかせながら舞うのは見てる方は何の気なしに笑ってしまうのですが相当難易度が高そうです。

太郎冠者が行きたくないのにしぶしぶ牛を追っていて苦労する寒くて暗い大雪の山道の場面と、茶屋で酒を呑んで体が温まり最後には酔って気分まで明るくなる、という温度差を感じる展開が演劇的に面白いところだと思います。そして演じる方としては難しいところなんじゃないかと。

この曲はやはり年齢と経験を重ねないと難しい演目だと感じます。

万蔵さんも、相応の年齢になってから演じるのがふさわしい演目だが年を取ってから突然やれと言われてもできるものでないので、若いうちから慣らすために役を当てられ、当然最初はうまくできないのでいろいろ厳しいことを言われてしまう。そうやって演じているうちにふさわしい年齢になって良い舞台ができるようになる、とおっしゃっていました。

小笠原さんは、そういう意味ではこの曲での助走期間は無かった状態での50代の初挑戦だったわけですが、たいへん味わい深くこの曲を仕上げていらしたと思います。師匠の芸に間近で触れつつご自身も様々な曲で修練を重ねてきたことでこの演目に立派に立ち向かうことができたのですね。

小笠原さん、子ほめに続いてお酒がらみの演目。聞いた話ではご本人もお酒がお好きだそうです。酔ってご機嫌になるシーンを見ていたら、こちらも早く呑みたい気分になってきました(笑)

次回の延年之會は、11月27日(大阪)、12月4日(東京)「コンメディア合戦!! イタリア仮面劇 vs 狂言」だそうです。どんな内容になるかは全く想像がつきませんが、小笠原さんの次なる挑戦がとても楽しみです!

「大田楽」 萬狂言 特別公演 ~八世万蔵十三回忌追善~

能楽堂では初めての上演となる「大田楽」を拝見いたしました。

「大田楽」とは?
能狂言より古い時代に存在した田楽という芸能を題材に、八世野村万蔵氏(五世野村万之丞氏)が構成演出の指揮を執り能楽界を始め様々な分野の演劇人、音楽家、研究家の方々と共に2年間の歳月をかけて創り上げ平成2年に完成させた古くて新しい芸能。
その後、各地に広がり定着。市民参加にまで裾野が広がり26年経った今でも上演が続いており、海外公演も行われている。

この度、万之丞さんの十三回忌追善の会にあたり、原点に立ち返り、初演時に出演した能楽師の方々を再び迎え、万之丞さんの実弟である九世万蔵さんが演出し、現在各地で大田楽を継承・上演されている方々と共に、国立能楽堂で上演する運びとなったそうです。

ワタクシ「大田楽」は映像でしか観たことがなく、しかも能楽堂で初演時のメンバーが再結集ということで、かなりワクワクでございました o(^-^)o

まず、能舞台上に一畳台、大太鼓などが運ばれてきて置かれ、道成寺の鐘を吊す滑車に、神社の鈴が吊られました。(その時、ワタクシは「鈴後見…」という言葉が頭に浮かんでました。どうでもいいですが。笑)

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脇正面席後方の扉が開き、田楽法師一行が隊列を組んで音楽を奏しながら客席の通路を行進してきます。すぐ脇を通っていく演者の皆様を目のあたりにし、否が応でも胸が高鳴ります♪

全員が能舞台に収まるのか!?という大人数が次々と入場。もちろん一度に全員が本舞台にのることはできないので、本舞台の他、橋掛かりや客席通路もまんべんなく使ってパフォーマンスするような形。

複数名の踊り手たちが繰り広げるダイナミックな踊りは、舞台から落っこちてしまうのでは!?と心配になるほどスピード感と躍動感にあふれるものでした。

万之丞さんの一番弟子である小笠原匡さんが踊った番楽は特に躍動感あふれる踊りでとてもカッコ良かった!小笠原さんは大太鼓も打っていて、なんてマルチタレントなの~と思いました。

野村万禄さんの勇壮な王舞。緋の装束に天狗の面をかけて鉾をかざして仁王立ちし後ろに大きくのけぞるポーズを何度かなさったのがとても印象的でした。

色鮮やかで巨大な獅子頭(6キロ近くあるそう!)を操って跳んだり跳ねたり激しく踊る獅子舞はとても豪快でした。
二頭の獅子はシテ方の片山九郎右衛門さんとワキ方の宝生欣哉さんです。初演時には青年だったお二方も26年たって年齢を重ねられ、失礼ながらちょっと心配でした(^_^; しかし初演時には赤坂日枝神社の大階段を登りながら舞った(!)とのことですから、それに比べれば楽勝だったのでは!(笑)

白装束に翁烏帽子姿の田主(一行の長)役である野村萬さまが能舞台後方の台座に着席され、それはそれは高貴で神々しいお姿でした。
萬さまの読み上げる奏上、万之丞さんの功績を称え今なお伝え継がれんことを慶び田楽の開催を宣言する、といったところでしょうか。萬さまの謡がかりで美しい読み上げ声が静まりかえった場内に荘厳に響きました。

稚児舞。二人の稚児は万蔵さんと小笠原さんのご子息方が演じました。橙色と緑色の装束が色鮮やかで可愛らしい♡ でもさすが普段から数々の舞台をこなしているだけあり、きっちり堂々と舞っていました。

万蔵さんの三番叟。翁の三番叟のように黒い面をかけて黒装束。手足に鈴をつけておりました。かなり複雑なリズムで軽快かつ勇壮に足拍子をテンポ良く踏んでいきます。途中で笛の一噌幸弘さんが三番叟にすり寄っていくようなシーンもありユーモラスで面白かったです。

普段は紋付袴姿のお囃子方の先生方が色とりどりの花笠や装束を身にまとっておられたのも見目麗しく新鮮でした^^*

楽器の種類も多種多様。大鼓、小鼓といった能楽でお馴染みの楽器のみならず、腰鼓、編木、銅拍子といった珍しい楽器や、笙や篳篥などの雅楽の楽器、大太鼓。賑やかに囃して祭りを盛り上げます。笛は能管でなくて篠笛?龍笛のようにも見えました。

各地で大田楽を継承されている方々の番楽、日体大の方々のアクロバット、京劇俳優の変面など、次々と繰り出されるパフォーマンスがどれもこれも素晴らしくて、歓声や拍手が起こって会場が沸き、観る方もどんどん気分が高揚していきます。

最後は総勢の群舞となり、土蜘蛛ごとく千筋の糸が客席に向かってまかれ、ワタクシ共、前方席ゆえ両手を差し上げて糸を掴もうとしちゃったり、糸まみれになりながらも満面の笑顔でございました(笑)

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蜘蛛の糸まみれになり喜ぶ我々(笑)

田楽法師一行は再び隊列を組み、舞台を降りて客席の通路を行進して退場します。
名残惜しいとばかりに拍手・拍手・拍手。ワタクシ、長年の能楽堂通いでも、あれほどの割れんばかりの拍手の音をいまだかつて聞いたことはありませんでした。

拍手いつまでも鳴り止まず、いったん退場された万蔵さんと萬さまが再び舞台上におでましになり、観客にご挨拶をなさいました。
萬さまの「後ろで座って見ていながら長男の短く太い人生を追憶することができた」というお言葉には胸が熱く…(;_;)

関わってこられた皆様方の万感の想いが込められた大田楽、実に楽しく感動的な一大エンターテインメントでした。

天国の万之丞さまもきっと楽しんでご覧になっておられたことでしょう。(^_^)

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