「金春流」タグアーカイブ

弓矢立合@よみうり大手町ホール開館記念能

先月末、勤務先の1ブロック隣によみうり大手町ホールが開館しまして、こけら落としの能楽公演を拝見して参りました。

中でも江戸幕府が江戸城大広間で行っていた正月3日の謡初式を再現したという演目は初めて拝見しましてたいへん珍しかったのでレポートを書いてみます。

筆記用具を忘れてしまい記憶だけを元に書き起こしたので曖昧な点はお許しください。また、舞台から遠かったためよく見えなかった場面もありまして(始めから言い訳モードですみません)。ご覧になった方、記憶違いの部分、正確さに欠く部分へのご指摘歓迎いたします。

橋掛りより三流の宗家(観世流=観世清河寿氏、金春流=金春安明氏、金剛流=金剛永謹氏)、地謡方(各流3名ずつ合計9名)が入場します。全員が素袍裃に侍烏帽子のお姿です。三宗家が前列、地謡方が後列の二列にずらりと並び、後座(本舞台の後方)に着座します。

続いて半裃姿の男性が1名入場。番組を見ると御奏者番とあります。御奏者番は目付け柱(本舞台前方左端)の位置に立ち、三宗家と地謡の方に向きます。

三宗家、地謡方が一同深々と礼をします。額が床につかんばかりの平伏です。江戸城儀式の再現ですから将軍様に対する礼であると理解。一同が平伏したまますぐに謡が始まります。

観世流宗家による「四海波」。なんと深くお辞儀したままの体制で謡います。宗家のお顔が徐々に赤くなり体が小刻みに震えています。これはとても辛そうです…!

切戸口よりワキ方、囃子方が入場します。素袍裃、侍烏帽子です。ワキは福王流宗家、福王茂十郎氏(なぜ公演プログラムに紹介がないのか!?)。

ワキは観世流宗家の左隣に着座。囃子方(笛・小鼓・大鼓・太鼓)は地謡座(本舞台右手)に着座しました。

番組を見ると観世・金春・金剛の順に三宗家による居囃子、とあります。居囃子とは何ぞや?と思って見ていたら、曲の一部をお囃子付きで謡うものでした。舞は無いので座ったままです。

観世流「老松」、金春流「東北」、金剛流「高砂」の居囃子が立て続けに演奏されます。

観世流の居囃子が終わるとワキ、太鼓はいったん切戸口より退場しました(金春流の居囃子には出番なし)。

そして、金剛流の居囃子が始まる際にワキと太鼓が再び入場します。ワキは金剛流宗家の右隣に着座します。

三流儀の謡を続けて聴くと、流儀の違いなのか個人的な違いなのかわかりませんが、三者三様、各宗家のキャラクターの強さもあってかあまりにも違うのでとても面白く。曲の違いもありますけど、こんなに違うものなんだなぁ~と興味深く聴き入りました。

居囃子が終わった時点で、御奏者番とワキ方、囃子方は一旦退場します。

再び御奏者番が入場し、新たに御使番と呼ばれる二人が入場しました。御使番も半裃姿で、一人は装束らしきもの、もう一人は鬘桶(かづらおけ)を持ってます。

三人はワキ座(本舞台の右手前方)まで行き着座します。御奏者番が鬘桶に腰掛けます。

三宗家が代わる代わる御奏者番の前に行き頭を下げますと、御奏者番は白い装束を宗家の肩にかけます。かけ方はバサッといささか乱暴な感じです。宗家は深々と礼をしています。宗家が定位置に戻ると流儀の地謡方が宗家に装束を着つけます。

白地の装束は裏地が真赤で綿が入っているような分厚さに見えました。遠目からはどてら(丹前)のように見えました。儀式的に意味がある装束なのだろうと思いますが、どてら着たお三方、ちょっと可愛らしかったです(笑)

三宗家にどてら(注:どてらという呼び方は私がそう見えたというだけで、能楽的には違う呼び名があるかもしれませんが知らないのでゴメンナサイ)を渡した後、御奏者番は何やら紙のようなもの(あるいは布?)を床に放り投げました。床に放られた紙(or布)は、金剛流の地謡の一人が取りにきてまた定位置に戻りました。
どてらのぞんざいなかけ方や投げ与えるという行為から察するに、御奏者番は相当身分の高い人であることがわかります(今回は能楽師でなく作家で国文学者の林望氏が勤めていました。江戸時代は老中あるいは大名級の人が勤めたのか??)。

三宗家による舞囃子「弓矢立合」。「弓矢立合」とは「翁」の上演形式のひとつだそうです。能面はつけません。三宗家が舞い始めると同時に囃子方が切戸口より再入場します。

謡は「釈尊ナ釈尊は~」という詞章から始まりました。元々は「桑の弓蓬の矢の政」から始まるもっと長い詞章だったのが、江戸中期から各流で詞章が変わってしまい、途中のこの部分から舞うようになったとお伺いしています。
詞章が同じでも流儀が違えばリズム、スピード、高低や強弱が異なるものと思われますが、意外と違和感はありませんでした。リズムとスピードはお囃子のおかげでおのずと合うのかな?

舞はもちろん流儀ごとの型で舞われているので、謡以上に違いが目立ちます。逆の方向に動いたりしてぶつからないのかな~とか要らぬ心配をしてしまいましたが、きっと事前に申し合わせしてますよね。
三人で舞うと全く違う型であっても不思議とハーモニーのように相乗効果を生んで一つの面白い作品に仕上がっていました。以前に狂言方の和泉流と大蔵流で同じ曲を同時に舞うという企画を観たことがあるのですが、共通している部分+異なる部分があるため、相違部分ではふくらみが出てむしろダイナミックになり、共通部分で調和が取れて全体のバランスを崩さずにまとまるといった感じで意外としっくりきたのを思い出しました。

(すみません、このあたりからかなり記憶がアバウトになってきています・・・全然レポートになってませんね。お許しください・・・)

弓矢立合が終わった後、御奏者番が宗家(観世宗家だったと思う)に布と思しきもの(小袖かな…?)を渡しました。そして、御奏者番はおもむろに自分の肩衣を脱ぎだしました!(何??いったい何が始まるの!?と一瞬焦るワタクシ。袴まで脱ぎださなくて良かった…。←何考えてるんでしょうかね。笑)そして脱いだ肩衣を軽くたたんで床に放り投げました。宗家(だったと思うがどっち?金春?金剛?両方?もはや記憶が…(゚_゚;))が前に進み脱ぎ捨てられた肩衣を拾って戻ります。後ろで二人の御使番も肩衣を脱いでいます。こちらは放り投げずたたんで自分たちのそばに置きます。

囃子方は退場したかもしれないし残っていたかもしれない…。ストリップのパニックでそこまで注意が及びませんでした(*゚∀゚*)

最後に御奏者番、御使番が正先(本舞台中央前方)に進んで客席側へ向いて着座し、後方の三宗家&地謡方を含め舞台上の全員が平伏します。御奏者番が謡初式が滞りなく相済みし旨を、高らかに宣言します。そして全員退場して終了です。

いやぁ、何もかも目新しくて実に面白かった!筆記用具とオペラグラスを持って行かなかったのを後悔しました。能楽堂でなくホールだったせいなのか、リラックスして見られましたねぇ。通常の「翁」で感じるような共に儀式に参加しているような緊張感はなく、好奇心を持って記録映像を傍観しているような感覚でした。

20分の休憩をはさんで、狂言「棒縛」。人間国宝の野村萬さん、野村万作さん兄弟の共演。萬さんの太郎冠者、万作さんの次郎冠者。主人(野村万蔵さん)の留守中にお酒を飲むので縛られてしまった二人がやっぱり策を講じてお酒を飲み主人に見つかって怒られるのがとても楽しかった。このお二人が同じ舞台上で共演するのを何十年ぶりに観たのであろう・・・(たまたま私が観ていなかっただけかもしれませんが、本当に何十年も観ていなかった気がします)。とても嬉しくて涙が出そう。めったに見られないものを拝見し、この場に居合わせられた幸せに感謝です!

最後に能「石橋」。半能でしたので、後半の獅子が登場するところから始まりました。大獅子の小書(特殊演出)がついているので、獅子は二頭登場します。白い獅子が親で赤い獅子が子だそうです。豪快で華やかな二頭の獅子舞で盛り上がり、こけら落としの能楽公演はめでたく御開きと相成りました。

よみうり大手町ホール開館記念能
平成26年4月5日(土)14時開演
@よみうり大手町ホール
<番組>
小謡「四海波」(観世流)
居囃子「老松」(観世流)
居囃子「東北」(金春流)
居囃子「高砂」(金剛流)
舞囃子「弓矢立合」(観世流・金春流・金剛流)
狂言「棒縛」(和泉流)
半能「石橋 大獅子」(観世流)

地下鉄大手町駅直結
地下鉄大手町駅直結

DSCN1625_R

DSCN1626_R

DSCN1628_R

DSCN1630_R
ホールの舞台上に作られた能舞台

DSCN1631_R

DSCN1632_R

DSCN1662_edit
公演プログラム

能楽金春祭り路上能

能楽金春祭り路上能@銀座8丁目金春通り、観てきました!ハッピー気分で帰宅なう(*´▽`*)
開演2時間前に座席指定券が無料配布されるのですが、配布時間より20分ほど早く行ったのに既に長蛇の行列。88番目うへぇ・・・椅子席で最後列の端っこですねん。座ってみると全然見えな~い(+_+) 整理券無しの立ち見の方がよく見えるんじゃない?最悪・・と思いきや、端っこというのがかえって幸いして、後ろの人の邪魔にならないように立つことができ、結果的にはめっちゃよく見えましたよ!(^-^)v
神への奉納の儀式。いわゆる「翁」「式三番」のような。しかし、「延命冠者」「父尉」「弓矢立合」は普段目にしない演目だったし、観に行って本当に良かった!
ネオンと提灯のあかりがゆれる銀座のビル街の路上で神への奉納能を見る。クールでしょ?
演者さんや神主さんらが退場後、私たち観客も金春稲荷を参拝させていただきました。それにしても夕方とはいえ、見ている私たちも相当暑かったですが、装束を着て舞ったり謡ったり演奏している演者さん達はさぞや暑かったんでしょうなぁ・・お疲れさまでしたぁ~~(~Q~;)

スタッフの皆さんがこの五星模様の浴衣を着ていて可愛かったです。
スタッフの皆さんがこの五星模様の浴衣を着ていて可愛かったです。
ネオン街に提灯とお能。
ネオン街に提灯とお能。
演能後、観客たちが金春稲荷に参拝。
演能後、観客たちが金春稲荷に参拝。
5時45分に遅れた人たちは無情にも本当に着席させてもらえなかった!(しかし、外人はお目こぼしされていた。説明するのが面倒だったから?)
5時45分に遅れた人たちは無情にも本当に着席させてもらえなかった!(しかし、外人はお目こぼしされていた。説明するのが面倒だったから?)

rojonoh5_R

金春流「道成寺」斜入

konparu_dojoji
※写真はあくまでイメージです(笑)これは道成寺の鐘ではありませんw あと、後シテが蛇なので・・南国風のヘビですがw

道成寺を観てきました。(一昨日ですが)

久々に金春流の舞台を観るのでとても楽しみにしてたのですが、期待通りの素晴らしさでした。

先日、観世流の道成寺を観たばかりで、それも大変良かったのですが、やはり流派の違いでいろんなとこが違って面白いですねぇ。

観世流では曲が始まる前に後見が鐘を運んで設置しますが、金春流では間狂言が鐘を運んで吊すやり方でそれ自体が物語の一部になっていました。(上掛かりの流派は前者、下掛かりでは後者となるらしい)

それから今回は鐘入りがちょっと特殊な入り方で、普通はシテが鐘の中に入って飛び上がると同時に鐘が落ちるのですが、今回のは鐘の外に手を当てて斜めに飛び込んで宙に浮いた瞬間、鐘が落ちました。すぅっと鐘の中に消え入る感じで完璧に決まってました!おぉーー!って感じ。見所からも拍手が起こってましたよ。

鐘入りで拍手って今までにもあったろうか?私はちょっと違和感があったんだけど、結構あるのかな??

この入り方は「斜入」というらしく、金春流の中でも桜間家だけのもの?だと読んだことがあります。いやぁ、今回、観に行って本当に良かったですね。

乱拍子の緊迫感は、どの流派でも毎回すごいです。今回はおよそ30分間でした。観てる方も咳一つするのも憚られるあの異様な雰囲気。おシテさんはもちろんですが、小鼓方大活躍です。酸欠にならないのだろうか~と心配になってまうほどの熱演。

道成寺は観客にとっても面白く人気がある演目ですが、とりわけ能楽師さんにとっては特別な曲で、道成寺を披く(初演する)ことは、能楽師として一人前と認められた証であるのだそうです。道成寺の舞台の何やら厳粛で物々しい雰囲気というのはそこから来るのかなと思います。

道成寺を披く一人の若き能楽師さんのために、お師匠さんも、他のお弟子さんも、流派のお家元も、みんな一丸となって、この日の成功のために、入念に準備し、汗を流すのですよね。舞台が成功したあかつきには、素晴らしい一体感が生まれているのではないでしょうか。

このように能楽師さんにとって人生で数回しかないであろう大切な節目の日に立ち会えて時間を共有できることを一観客としてたいへんに幸せに思うのでした。

また観に行こうっと♪

※間狂言が萬斎さまでしたが、最近しつこくて飽きられそうなので今日はそのネタはなし!(爆)