「式能」タグアーカイブ

式能な長い一日(後編)

さてさて式能・第二部です。
第一部はこちら ⇒ 式能な長い一日(前編)

既に翁プラス四番の能・狂言を見ています。このあとまだ五番あります。100キロマラソン走ってきてすでにフルマラソンの距離を走ったのにまだ半分以上ある・・という感じです。
能楽堂内のお食事処「向日葵」でコーヒーブレイク。通しで観るお客さんが大行列していて、いつもはにこやかな食券係のおじさんもちょっとばかり殺気立っていました。

第二部の最初は喜多流の「羽衣」です。休憩したおかげで少し元気になってきた私。心にチョッピリ余裕が出てきました。
天女の羽衣を見つけた漁師(ワキ)が「きれいだから持って帰って家宝にしよう~~」と言うので、人の落としモノを勝手にネコババしちゃいかんだろーとか、「美しく舞って見せたら返してあげよう~~」と言うので、人のモノだっちゅーにどこまでも自分中心だなーとかツッコミを入れながら観ていました(笑)
席が脇正面の端っこだったので、装束をよく見ることができ、天女の冠に大きな花(ボタン?)が飾ってあってとてもキレイでした。やはり鬘物(女性が主人公の能)は能らしくていいねぇ(*´▽`*)

次に狂言をはさんで、観世流の「放下僧」です。仇討ちの話で、歌舞音曲を聴かせて油断させて討つというところは「望月」という演目と酷似(但し獅子舞は出てこない)。「望月」同様、芸尽くしを見せるというのがこの演目の狙いのようです。
討たれた敵が平然と立ってすたすた歩いて退場するのは能の面白いところです。敵が舞台上に置いていった「笠」が本人の死骸を表現しています。能を何度か見ているとその辺の決まりごとがわかってきます。笠に向って刃を立て恨みを晴らす人たち。ちょっと滑稽ですけどね。そういうものなんだと思って見ましょう。

最後に宝生流の「黒塚」です。本日初めての作り物(大道具)登場。既に九番目の能を見ていますが、もはやランナーズハイとなっているワタクシ、目がらんらんとしてきました。体力は限界に近づいていますが妙な脳内物質が分泌され気分が高揚しています!風邪で熱が上がっていたのかもしれません。とにかく完走まであと10km!

この中で、中入り後のワキとアイのやりとりがなかなか面白い。
妖しいオババ(シテ)が「決して寝所の中を見てはいけないよ~~」と言って去るのですが、従者を演じるアイが好奇心で中を見ようとします。山伏を演じるワキとワキツレは寝ています。寝ているといっても舞台上に寝転んだりはしません。姿勢よく座ったまま首をかしげ閉じた扇を額あたりまで差し上げます。寝ているポーズです。
寝ている山伏が、こっそり中を見ようとする従者に気付いて目を覚まし、従者を制します。このやりとり数回。でもじきに山伏たちは熟睡してしまい、従者はついに中を見てしまうのです。そしたらその中に死屍累々、人間の屍が山ほどに積まれています!!ぎゃぁぁぁーーーー!!従者が山伏たちを起こして報告します。山伏たちもあれは人を食う鬼であったのだと知ると禁を犯した従者を責めないんですね~。でも従者は自分だけ先に逃げちゃうんです。要領のいいやっちゃ(笑)
おどろおどろしいお話でもアイの演技が入ると客席から笑いが起こります。ちょっとした中休みがあって観客もほっとするわけですね。

最後は鬼女と山伏の激しい戦いがあり、山伏が勝って鬼女が逃げていき幕です。鬼は逃げていったものの、めでたしめでたし~というハッピーエンド感がないので、附祝言といって地謡がおめでたい曲の一部を謡います。今回は「高砂」でした。これで全ての演目が終了です。ふぅーーー9時間走りきった (*´-д-)フゥ-3

狂言四番については、野村萬さま、野村万作さま、山本東次郎さまのアラウンド80s人間国宝トリオがそれぞれお元気に演じられていて嬉しい限りでした(*´▽`*) すいません。狂言の感想はバッサリ端折ってしまいました。

式能は一番一番が短めな能で構成されているような気がします(時間の制約上やむなくなのでしょうか)。そういう意味では一本ずつは短い演目で初心者向きと言えます。でも観るのは一部か二部の片方にしておくのがいいかも…。あーーー腰がいてー。

番 組

<第一部>
「翁」(金春流)
能「岩舟」(金春流)
狂言「三本柱」(和泉流)
能「清経」(金剛流)
狂言「神鳴」(大蔵流)

<第二部>
能「羽衣」霞留(喜多流)
狂言「文荷」(和泉流)
能「放下僧」(観世流)
狂言「長光」(大蔵流)
能「黒塚」白頭(宝生流)

DSCN0927_R
国立能楽堂の中庭に雪が積もっているというのもこれまた珍しい光景。
DSCN0928_R
終わりましたーーーー。すっかり夜ですね。お疲れ様☆彡
DSCN09253edit_R
式能ともなると、番組(=プログラム)も長いです。へろ~~~~ん。

式能な長い一日(前編)

2月16日(日)。今年も式能の日がやってまいりました。

金曜日に降った雪がまだ残っていたせいか、和服のお客さんがいつもより少なめです。
私も着物で行くつもりだったんですが・・・寝坊したぁぁーーー(゜Д゜) 猛ダッシュで行かんと間に合わん間に合わん汗汗
しかも風邪っぴきです。うーーーー、熱っぽいし喉がいたぁぁぁい。でも、とても楽しみにしていたのでとにかくダッシュ!ε=ε=ε=┌(o゜ェ゜)┘

☆式能とは?
奈良時代に起源を持ち、室町時代に完成した能ですが、江戸時代になって儀式として上演されるプログラムが確立されました。それが「式能」です。「神・男・女・狂・鬼」 に分類される五つの能が必ずこの順序で1日がかりで上演されます。また、それぞれの能の間には狂言(計四つ)が上演されます。さらに、五番立ての能の最初に神事である「翁」を演じる正式な番組立てを「翁付」といいます。
江戸幕府が江戸城で催していた儀式ですが、現在では能楽協会が毎年開催したりしています。(←これがワタクシが観てきたやつ)

今回の式能は、古式に則った五番立ての能をシテ方五流が分担しています。また、狂言四番も狂言方二流が二本ずつ分けています。
で、気になったのでワキ方、囃子方はどうなのか調べてみました(全員調べました。ヒマですねーわたしぁ。笑)。現在、ワキ方は三流、囃子方は笛方三流、小鼓方三流、大鼓方五流、太鼓方二流あるのですが、大鼓の大倉流と観世流を除き全流儀の方が参加されていました。ほぼ、まんべんなく配されているのですね。

「翁」は神事という位置づけから、翁から一番目の能「岩舟」が終了するまでは見所(=観客席)への出入りが一切禁止となります。出入り禁止の旨、公演プログラム、公演チラシ、場内掲示、場内アナウンス、チケットへの印字に至るまであちこちに書かれる念の入れよう。それでもご存じないのかまるで見ていないのか、遅刻するお客さんも少なくないのでしょう。実際には「岩舟」の前に途中入場させていましたね。
スタッフが情け深いかプレッシャーに根負けしたかでしょう。厳粛な雰囲気は「翁」までで次の能が始まるとお客も少々リラックスするので、出入り禁止は「翁」終了まででもいいのかもしれません。

翁の間は観客も儀式に共に参加しているという位置づけです。咳払いひとつ立てることも憚られる厳粛な雰囲気の中、翁を先頭に一同橋掛かりより超ゆっくりペースで登場。いやがおうにも緊張感が高まります!

まずは金春流宗家による「翁」です。下掛かり流儀のため千歳(せんざい)は狂言方が勤めました。この場合、千歳が面箱を持って入場します。(上掛かり=観世・宝生流の場合は、千歳はシテ方が務め、面箱持ちがは別に狂言方が勤めます)

お能のお囃子は通常、笛・小鼓・大鼓・太鼓(←いるときといないときがある)一人ずつですが、翁では小鼓が三人登場します。地謡も普通は切戸口から登場しますが、翁では橋掛かりより登場し、舞台の右側ではなく後方に位置取ります。

お囃子、地謡、後見も侍烏帽子、熨斗目、素袍上下と室町時代の格好です。この曲が最高位の格を有していることを示しています。能では、演目や公演の格に応じて、囃子方・後見方・地謡方の衣装が、普通の紋付き袴→肩衣をつける→袴が長袴になる→素袍上下…というように徐々に正装度が増します。衣裳がゴージャスになると、これは改まった会なのだ!重要な曲なんだ!とわかるわけですね

翁役は最初、直面(ひためん=面をかけていない)で登場します。この段階ではまだ翁ではなく太夫です。太夫は舞台正面先まで行くと座して正面席に向かい深々と礼をします。能でお辞儀は他の演目では見られない珍しい光景です。ここで間違っても拍手をしてはなりません!これはアナタ(=観客)にお辞儀をしているのではなく、神格なるものに対して拝礼しているのです(と、どこかで読んだ)。まあ、お客様は神様です、と言ってた歌手もいましたケド(笑)

太夫が意味のよくわからないセリフを謡います。「どうどうたらりら~」とかそんな感じの謡です(何と言っているのかもよくわかりません)。謡というより呪文のような感じです。その辺からしてもう儀式な雰囲気。
そしてまずは千歳が舞います。面箱の中に翁の面が入っています。太夫は舞台上で白い翁面(=白式尉)を面をつけます。面をかけた瞬間に太夫に神が舞い降りるのです。面をつけた瞬間変身するところはヒーローものを髣髴させます。そうしてヒーロー、いや神に変身した翁太夫は、天下太平・国土安穏・五穀豊穣を言祝ぎ、祝舞を舞います。舞い終えた翁は面を外し、正面席に向かい再び深々と礼をし、橋懸かりから退場します。

次に三番叟が舞い始めます。三番叟は野村萬斎さまです。萬斎さま、三番叟はもう慣れたものでしょう、非常に安定感があります。
三番叟は直面で揉ノ段、続けて舞台上で黒式尉の面をかけて鈴を持ち鈴ノ段を舞います。飛んだり跳ねたりの大活躍です。同年代としてはこのお元気さを見習わなければなりません。翁より三番叟の方が出番が長いです。翁ショボ――(´-ω-`)――ン。

さて、翁の後は続いて能の一番目です。ここでは脇能といい神様が登場する演目が配されます。今回は金春流の「岩舟」でした。ちなみに次に続く狂言も脇狂言といいおめでたい演目です。

二番目の能は金剛流「清経」。とてもいい曲なのですが、この辺りでワタクシ、風邪薬が効いてきてちょっと沈没していました…(-ω-ll)

沈没していた間に二番目の狂言も終わり、第一部の終了です。長くなりました。まだ半分以上あります。この続きはまた明日に。

DSCN0917_R
雪のまだ融けきらない国立能楽堂前。朝10時前ですが太陽がまぶしすぎる!
DSCN0919_R
開演30分前。開場を待つ長蛇の行列。
DSCN0920_R
前売チケットは完売。当日券の扱いもなし。人気~~。

DSCN0922_R

DSCN0924_R
「翁」~「岩舟」の約2時間は出入り禁止になる(建前上)。
DSCN0925_R
脇正面席の前から三列目。端っこですが良いお席です。前に席がないので足も伸ばせます(お行儀悪い。笑) 橋懸かりにかぶりつきますぞ~~。

式能について

昨日観てきた「式能」について少しご紹介をいたします。

奈良時代に起源を持ち、室町時代に完成した能ですが、江戸時代になって儀式として上演されるプログラムが確立されました。それが「式能」です。正式な番組編成は、神事である「翁」と、神・男・女・狂・鬼 に分類される5つの能が必ずこの順序で1日がかりで上演されます。また、それぞれの能の間には狂言(計4つ)が上演されます。

江戸幕府が江戸城で催していた儀式ですが、現在では能楽協会が毎年開催したりしています。

昨日の式能では、シテ方5流、ワキ方3流、狂言方2流、と現存する全ての流派(囃子方については全流派だったかどうかチェックしてません・・・すんません<(_^_)>)の能・狂言を鑑賞することができ、たいへん満足いたしました。人間国宝や人気役者も数多くご出演。しかも、通しで観ても8000円(脇正面・中正面席)とは安いとは思いませんか??(第一部と第二部の二公演に分かれていますので、一公演平均4000円ということになります)

お料理で言えばフルコース、といったところですね!

ちなみに、この5月にはユネスコ記念能というのがあって、「船弁慶」という演目についてのみ、シテ方5つの全ての流派による上演(能または仕舞。能は観世流のみ)が行われます。同じ演目でも流儀によっていろいろ違うのでたいへん興味深いです。これは料理に例えると「松茸尽くし」といった感じですね。

「翁」については、次の投稿でご紹介したいと思います。

shikinoh5