第98回粟谷能の会 事前鑑賞講座

毎度おなじみ、喜多流・粟谷能の会が今週末日曜日に迫って参りました。
先日、事前講座が催されたので行って参りましたよ!

今回は、粟谷明生さんの還暦記念の会ということで、明生さんが3度目となる「安宅」のシテ・弁慶を勤められます。
初演は43歳、二回目は53歳の時。三回目は還暦で、舞い納めのつもりで勤めると意気込みを語られました。

さて、事前講座でゲストをお迎えするのは三回目とのこと。一回目は小鼓方の大倉源次郎さん、二回目はワキ方の森常好さんでした。今回は狂言方の野村万蔵さんです!(=´∀`ノノ゙☆パチパチパチ

安宅でアイは二人登場し、一人は義経方につく強力(ごうりき)役(万蔵さん)、もう一人は富樫方につく太刀持(たちもち)役(万蔵さんのご長男・虎之介くん)です。虎之介くんは太刀持は初役だそうで、どんなフレッシュな太刀持になるのか楽しみです(*´▽`*)

さて、今回の安宅、「延年之舞」「貝立」という小書(特殊演出)がついております。
「延年之舞」はシテ方の小書で、男舞という普通の山伏の舞に対し、特別な譜が書かれて通常とは違う特殊な所作をする演出。
「貝立」は狂言方の小書で「延年之舞」の時だけつくそうで、扇をホラ貝に見立ててズーワイといった擬音を出して合図します。万蔵さんのご経験では、シテが出立を告げると強力が自分が持っている扇をホラ貝にする。また、シテが自分の中啓(ちゅうけい)(扇)を強力に渡すというやり方もあるとのこと。

一行は安宅の関に差しかかりますが、立衆の一人が強行突破すればいいと言いますが、弁慶は義経に対し、最初に身につけていた篠懸(すずかけ)を脱がせてみすぼらしい格好にし、笈(おい)を背負わせて、笠を深々と被り後からついて来させる、しかし、どんなに隠してもどうしても光ってしまうね、うちの殿様は、大丈夫かな、というのが前半の見どころ。その義経が背負う笈は実はとても軽いのだそうです。しかし、いかにも重そうにとても恐れ多いという気持ちをこめて静かにゆっくりと運ぶそうです。義経に重い笈を背負わせなければならない弁慶らの苦渋の心情が表れているような表現ですね。

能にはシテなどが登場したときの謡を、地謡が同じ文句を繰り返す「地取り」というものがありますが、この演目はアイが替え歌で地取りをするんだそうです。そして地謡の地取りは地の底から響くような低く小さい声で静かに謡いますが、狂言方の地取りは大きい声でやるんだそうです。通常の地取りのパロディですね。「旅の衣は篠懸の~」という箇所です。本番でも注目いたしましょう!

さて、安宅の見どころの一つとして「勧進帳」の読み上げがあります。
能には安宅(勧進帳)、正尊(起請文)、木曽(願書)の三曲に読物と呼ばれる見せ場があり、喜多流の演目に木曽は無いので、安宅と正尊のみ。
明生さんによると、何も書いていないものを読んでいるのではなく、何か全く違った事が書いてあるものを読んでいて、しかし見られてしまったら正体がばれてしまうので、見られないように隠しながら読むのがミソだそうです。
勧進帳や起請文は、お囃子方との手組が複雑で難しく、拍子を外さないで間違わないで謡えるのがまず第一なのだが、この年齢になるとどのくらいおもしろく読むのか、技術点+芸術点も必要になってくる。昔は剛速球の直球でボンボン謡えれば良かったが、節使い、音の使い方も工夫していきたい、と志を語られました。

読み物での囃子方とのリハーサルは特にしないんだそうです。基本的には一回だけ申し合わせして、後は本番で技術のぶつかり合いとなる、と明生さん。
合わせすぎるとつまらなくなる。お家や先生に習ってきたこと、経験者は自分で作ってきたものを、当日触発する面白さを大事にしているから、と万蔵さん。そういえば、前回の森常好さんも同じような事を仰っていました。

勧進帳の読み上げは、最初は弁慶がゆっくりとどうしようか考えながらいろんな言葉をこじつけながら時間稼ぎをする、途中からは勧進帳の定型文句を持ってくるのでノッてきて、うぁーっっとたたみかけるように謡う。途中で速くなるが、これはわざとそうなっているのであって、くたびれて速くなっているのだとは思わないでください、と明生さん(笑)

虎之介くんは緊迫したシーンの型などをどのようにお稽古していくのか、という金子あいさんの質問に対し、万蔵さん、
そういうものは習わない。申し合わせや本番で、はっ、こんなにふうになるんだ!ということを実際に体感していく。舞台が稽古。申し合わせで感じ取れない緊迫感を本番で感じ取る。とのお答え。

明生さんもからもこのようなお話が。
子方(義経)がしっかりしていないとダメ。弁慶が金剛杖で打擲する場面、昔、喜多実先生が、お芝居だからトントンくらいかと思っていたらボコボコに打ってきた。怖~と思った(明生さん小学1年か2年の時のお話)。子方は杖を取られて笠のひもを持って歯を食いしばる。お稽古の時は笠がないので型だけ教わるが、何が起きるかはその時にはわからない。当日になってボコボコに打たれて、これか~とわかる(笑)そういうところで体感して勉強していく。

頭で考えるんでなく、体感して会得していくのですね。Don’t think. FEEL!

万蔵さん曰く、強力の役がこの物語で一番活躍するところは、先回りして安宅の関の様子を見に行く場面。変装して見に行くと山伏の打たれた首がずらりと並んでいる。その厳しい状況をただ報告するのでは忍びないので一首歌を詠む。命令を実行しながら、他の山伏が殺されたり、兄弟不和のことや源平の戦さの事などの時代背景を、こんなみすぼらしい下の身分の自分だけど教養があるんだ、ということを詠んでくる。狂言回しは頭の回転が良く、文化教養がある。歌は洒落、掛詞になっている。弁慶に小賢しいことをと怒られちゃうんですが(笑)

さて、安宅の話が一段落したので他の2演目についても少しお話がありました。

狂言「鐘の音」について。
今回、万蔵さんのお父様の野村萬さまがシテを勤められます。間抜けな言葉の取り違い(黄金(カネ)←→鐘)をする太郎冠者のお話。太郎冠者は自分の失敗を謡いにして主人の前で謡い舞って見せ、主人は最後に怒りながらも機嫌が直って許す、というあらすじで、祝言の雰囲気が漂う演目。鐘の音を擬音で表現しわける妙が見どころだそうです。ほぼ独り芝居とのことで、至高の芸が拝見できること間違いなしの期待が高まります!
今回、還暦記念を意識して、祝言性を表現できるこの曲を萬さまが選ばれたとのことでした。

能「鉄輪」について。
丑の刻参りのお話です(ざっくりすぎてすみません<(_ _)>)。おシテは明生さんの従兄の粟谷能夫さん。この演目では後シテで「橋姫」または「生成(なまなり)」という能面を使用するそうですが、今回どちらを使うかはまだ明らかにされていません。使用する面によって動き方も変わってくるそうです。当日を楽しみにいたしましょう。

ためになるお話や裏話がてんこ盛りのたっぷり一時間半でした。他にもお二人が素晴らしいことをたくさん仰っていたのですが、私の記憶力と文章力の限界により全てをご紹介しきれなくて残念です。

改めて、三度目の安宅を勤められる粟谷明生さんからのメッセージをご紹介。
43歳の安宅の披きのとき、様式美と芝居心ではどうしても様式美の方が強くなりそこにゆだねてしまった。53歳の時は様式美と芝居もバランス良くうまくできるようになってきた。今は様式美は置いておき、能の境界線のギリギリまで持ってきてどういう「芝居」ができるか、どういった能役者としての弁慶ができるのかというのが勝負だなと思う。安宅という演目を、あるいは粟谷明生の安宅を一回見たからそれでいいということでなく、能役者はどんどん上手になっていっているので、それをぜひ見て頂きたい。とのことでした!

※主催者様および出演者様に写真撮影および掲載の許可を頂戴しております。

第98回粟谷能の会 事前鑑賞講座
2015年9月28日(月) 18:00~19:30 @国立能楽堂 大講義室
<出演>
粟谷明生さん(喜多流シテ方)
野村万蔵さん(和泉流狂言方)
金子あいさん(女優)

DSCN8629_R
粟谷明生さんと、司会進行の金子あいさん
DSCN8670_R
スペシャルゲストの野村万蔵さん。笑顔が素敵です!
DSCN8657_R
小書「貝立」では扇をホラ貝に見立てて吹く演技をする
DSCN8659_R
義経を強力に扮装させるための笈(おい)。意外と軽い。写真のものは明生さんが子方の時から使っているものだそうです。
DSCN8666_R
勧進帳を読み上げる弁慶。カッコイイ~(*´▽`*)
DSCN8687_e_R
あらすじを読む金子あいさん。あ、余談ですが私の朗読の師匠です。
DSCN8688_R
生成(なまなり)の面。ツノがキュートなんですけど(笑)
DSCN8683_R
鉄輪は夫に捨てられ嫉妬に狂って呪いをかける悲しい女の話。最後に I’ll be back. のような台詞を言って去って行く(;´Д`)
DSCN8623_R
会場は国立能楽堂の大講義室

「第98回粟谷能の会 事前鑑賞講座」への1件のフィードバック

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください