平家物語@鎌倉古民家

鎌倉源氏山の古民家で、平家物語朗読教室の師匠である金子あいさんの「平家物語~語りと波紋音」を聴いてきました。
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最初に金子あいさんが桃色の袴姿で登場して観客にごあいさつし、「祇王」のあらすじを簡単に解説。

祇王 <ざっくりあらすじ>
白拍子の祇王は平清盛に愛されて妹も母もいい暮らしをしていたが、もっと若い白拍子の仏御前の出現により、その座を追われてしまう。
手のひら返しのアホ清盛から、よりによってライバルの仏御前を慰めるために舞でも見せに来いや!などと屈辱的な命令を受けたりしてバカ言うなムカツクと思う祇王だが、母が田舎暮らしは絶対いやや、都会に残りたいから我慢して言うことききや!とぐぢぐぢ責めるため、しぶしぶ清盛の命に従いもっとみじめになる。もう身投げしちゃおうとすると、母にも死ねと言うのかこの親不孝者みたいに言われ自害もできず、結局3人して尼になり侘しい庵で念仏を唱える日々を送る。月日が経ち、突然、仏御前がやってくる。仏ちゃんは、あんな薄っぺらい生活が長続きするはずがない、私も尼になります!と宣言し、4人で生涯仲良く仏道に励んだというお話。

もっと詳しいあらすじはこちら

ひどい話ですね!
清盛サイテーな男です(-“-)
まあ、最後は清盛が仏御前に振られたんだって思えばちょっとは救われますが。
あいさんは「4人で成仏し地味にハッピーエンド」と評してらっしゃいました。

あらすじの解説が終わり、あいさんはいったん退場されます。ほどなくして永田砂知子さんが登場。波紋音の演奏を始めます。

最初の演目は「祇園精舎」です。
毎回、最初に「祇園精舎」をやりますが、今回はいつもと違った演奏で始まりました。

そして、あいさんが再登場。目が覚めるような緋色の袴に履き替えて薄衣の長絹を羽織り、巫女さんのようないでたちです。
そして、いつもの「祇園精舎」よりソフトな語り口であります。

「祇園精舎」は他の方の様々なパフォーマンスで拝見するとき、最初の有名な部分だけが使われる傾向が多いと思うのですが、あいさんの語りでは、時の為政者たちがこの世を悪くしたのだというメッセージを伝える章段の最後まで語られます。

そして「祇園精舎」が終わるとすぐに「祇王」の語りに入ります。
祇王は4人の女性が出てくるお話ですので、あいさんの女性らしさが最大限発揮された語りとなりました。
あいさんが巧みに4人の女性と清盛を演じ分けます。かなり演劇的な展開です。

語りは舞や歌を交えて行われます。
舞はあいさんが長年稽古されている能の運びや構えが生かされ、型は能よりも少し柔らかさが加わった感じにアレンジされています。とはいえ近世の日本舞踊のように女性らしさをとことん強調した柔らかさではありません。

この章段の原文にも記述があるのですが、白拍子は最初は立烏帽子をかぶり剣をさし水干を着て舞う芸能であったということで、のちに立烏帽子と剣は省略され水干だけが残ったとあります。水干は平安時代の貴族や武士の男性が着ていた装束であり、男装で舞っていたということになります。そのため白拍子の舞は中性的な雰囲気を醸していたのではと想像できます。能の型を基本にした舞は、白拍子のイメージにぴったりだと思いました。

そして今回初めて見てたいへん印象に残ったのが「今様」を歌うシーンです。あいさんの平家物語朗読教室では「今様」は「読む」だけでしたので、実際に歌われるのは初めて見たのです。当時の「今様」が現代まで伝えられているのでしょうか。その謎は後ほど明らかに。

あいさんの歌う「今様」は雅楽のような旋律でありました。声にビブラートをかけ揺れる部分は雅楽器の篳篥(ひちりき)の響きのような。そして音階も微妙な半音階。
以前にもあいさんが舞台で歌を歌われるのを観た事はありましたが、あいさんってこんなに歌が上手かったんだ!とちょっとビックリ。清盛が仏御前の今様を初めて聴いたときもそういう感覚だったのかも。

最前列でかぶりつき、美しさに見とれてぽ~っとしたり、劇的な展開にハラハラしたりで、あっという間に時間がたっていました。周りの人がみんな足がしびれて立てなくなってて、あ、結構、長かったんだ!と気づいたぐらい(笑)

パフォーマンスが終わって、お茶とお菓子が出されました。
和菓子作家の金塚晴子さんという方が、「祇王」をイメージして今回の公演のために特別に作られたお菓子だそうです。

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創作菓子「白拍子」

黄身あんをういろうで包んでありました。どの辺が祇王なのだろうと考えてみましたが、ういろうが透けている感じが白拍子の装束のように見えるから?のようです。ういろうがけっこう分厚くてしっかりと食べ応えがありました。

アフタートークが始まり、あいさんと永田さんのお二人が再入場します。

「お菓子の説明をしようと思ったのですが、皆さんもうペロリと召し上がって…」とあいさんも目を丸くされてました(笑)

まずは永田さんより演奏に使用した楽器の波紋音について、実演を交えながらの解説がありました。波紋音は伝統楽器ではなく現代のアーティスト・斉藤鉄平さんによって作られた金属製の楽器です。鉄板を半球状+平らな打面に加工し、打面に切れ目が入れられています。切れ目の入り方によって、音程や響きが異なるのだそうです。

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創作楽器の波紋音(はもん)。向って一番左端はこの古民家にあったリン。

音程を演奏家側から指定して音に合った楽器をオーダーするのではなく、楽器作家さんが自由に作り上げた完成品から発する音を活用する形で演奏しているそうです。偶然から音楽を生み出すわけですね。

また、たまたまその古民家に置かれていた大きなリン(仏事に使う金属製のボールですね)を、これはよさそう!と楽器のグループのひとつに加えて演奏に使うことにしたそうで、既に存在しているものからイメージをふくらませて演奏に利用してしまうところはさすがです。

楽器の解説の後は、本日の演目についてのトークが続きます。

あいさんは、女性だから清盛に捨てられる女性の気持ちがわかるでしょう、と以前に言われたことがあるが、全然わからない~とおっしゃっていました。確かにその時代と今の時代の女性の立場というものがあまりにかけ離れていて、今は女性が自立できる時代なので、完全に共感できる人は少ない気がします。

男に捨てられたからといっていつまでも泣いて暮らすとか(祇王)、条件が悪くなるのがいやだからどんなことでも我慢して受け入れる考え方とか(母とじ)、自分の意思がなくて何でも姉についていっちゃうとか(祇女)、後悔の念があり飛び出したいのになかなか男の側を離れられないとか(仏御前)、現代の自立している女性にはなかなか考えられないことです。もちろん今でもそれに近い考え方の女性もいるでしょう。私の母なども離婚したって行く場所なんかない、と言ってましたもの。昭和の前半までは女性の立場は平安時代とさほど変わらなかったのですね(^_^;)

あいさんがおっしゃるには、「祇王」は女性の自立の物語なんだそうです。

たしかに最後に仏ちゃんが家を飛び出してきて女性同士で生きていく決心をしたところは天晴れで胸がすきます!
この4人の中でも仏ちゃんは、自分から清盛のところに行ってみたり、自分の意思で飛び出してきたり、非常に現代的。自立してますよね。

しかし、17歳かそこらで立派過ぎます。女子高校生ぐらいの女の子ですよ。今時こんな自立した女子高生いるでしょうか!?

一緒に観にいった平家教室のクラスメート(おじさま)が「なんで仏御前は何不自由ない生活を捨てちゃったんだろうね~」とおっしゃったので、私は「仏ちゃんは実は男性より女性が好きなんですよ。むさい男よりかっこいい同性の先輩に憧れるお年頃なんです。最初に祇王にとりなしてもらったときに一目ぼれしてしまったんです。だから最初から清盛に囲われることに乗り気じゃなかったんです。祇王恋しさにいても立ってもいられず追いかけてきたのです!」と答えました。その方が17歳の行動原理としては自然だと思うのですが、いかがでしょう!?おじさまも「そうかもしれないね!」と言ってくれました(←そう?笑)。

質問コーナーで、朗読教室のクラスメート(別のおじさま)が先ほどの疑問を質問してくれました。
「今様」を歌で聴いたのは初めてだが(朗読教室でも聞いたことがなかった)、それは今も伝えられているものなのか?

この問が投げかけられたとき、あいさんも「やはりそこを突いてきましたね!」という表情をされました。
「今様」は宮内庁などによって解釈・復元され、CD化されて図書館などにも保管されているそうです。しかし、今回歌われた今様は、あいさんの創作だそうです。おそらくこんな感じじゃないかな~?と想像して作ったそう。
越天楽は非常にゆったりして長い曲で、今様もゆっくりしていたことが推定されますが、あまり長くなると言葉がわかりにくくなるので、短くしたとのこと。観客に合わせてアレンジされたのですね。

最後にあいさんと一緒に記念写真を撮っていただきました。
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パフォーマンス中に、時折、鶯の鳴き声がしていて、効果音なのかと思っていたら、古民家の外に出てタクシー待ちをしているとき、また鶯の鳴き声が聞こえました。本物の鶯だったのかぁ。源氏山は鎌倉駅から車で10分ほどで頂上まで登れるのですが、自然に恵まれていてとても素敵な場所でした。古民家を維持するのはたいへんそうですが、山のてっぺんに伝統的工法で建てられた建物は夏も涼しそうでこういうところに住めたらいいなぁと思いましたよ。

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